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Holocaust ――The borders――
Intermission

ミノル 4   第2話


 無。
 リーナの抱いている感情。
 彼女は今完全に体の制御を切り離してしまっていた。
 そもそも、『リーナ』と言う名前の個体があるわけではない。
 それはあくまで概念上の呼び名に過ぎず、すなわち『彼女』を指し示す為の言葉である。
――…?
 だから、今の彼女の状態をどう指し示すべきだろうか。
 彼女にとっては今空気中を漂う『彼女であるべき欠片』から送られる信号や、それらを操作する信号すら義体と変わらなかった。
 それはつまり。
 この工場の全て、その空気に至るまでが、彼女の意志を持つ『体』であると、こう呼ぶべきなのかも知れない。
 工場で生産していたナノマシンの殆どを起動信号により強制始動、今ではこの工場内部において不可能はなかった。
 いや、ないはずだった。
 空気中に拡散するナノマシンにより、工場の壁だろうが床だろうが、彼女の意志により取り込み、砕き、動かす事が出来た。
 新たに何かを作り出す程ではないが、工場そのものを作り替えるだけの力がある。
 Nano-MachineというものはAssemblerとも呼ばれ、原子を組み合わせて分子単位の工作機械の事を言う。
 一原子サイズ=1ナノレベルの機械の意味だ。精確に言葉を選べば、分子運動を利用した機能材料と言うべきか。
 これら『ナノマシン』は、そのため組み合わせる原子によりそのプログラムを行う。
 代表的で有名な物が酸素と炭素、珪素である。炭素は自由電子を多く持ち、数多くの原子と親和性が高い。珪素も似通っている。
 酸素はその結合力の強さから好まれて使用される一つなのだ。
 初めの構想は原子単位で動くこれらを使って、原子変換を行う事が目的だった。
 完全結晶を構成したり、100%の組成を持つ固体を作成したり、様々な用途が考えられた。
 だが結局ナノレベルの制御には不確定性理論の及ぶところとなり、幾つもの揺らぎに捉えられてしまい、どうしても歩留まりが悪い。
 ロボットとは名ばかりの『人工細菌』だった。
 1atmの量があれば、ほんの二十四時間もあれば地球を完全分解できるだけの自己増殖能力があるのだ。
 そんな物をばらまけば――どうなるかは、推して知るべし、だろう。
 ナノマシンは原子の組み合わせがそのままプログラムとして通用する『ソフト内包型』ハードでしかない。
 決まった動きしか出来ず、その操作も温度により抑制するか活性するかのどちらかしかなかった。
 だがこれをうち破ったのが電磁場により制御できる方法だ。
 Lycanthropeが外部からの入力に反応する外部制御型ナノマシンの、まさに最初の型だったのだ。
 極端に極性を持った分子の結合状態を持つそれらは、空間の電磁波の動きに細かく反応し、濃度を変化させる。
 このため通常放出状態では空間に均等に、地磁気に平行に拡散する。
 乱暴な説明だが、任意のその空間に磁気の歪みを発生させると、その磁気の為に分子は回転し、磁気の方向にそれらが並ぶ。
 『リーナ』の最も初期は、そんな電磁波発生器だったのだ。
 だから、彼女にとってはこの状態を懐かしい物として捉えられるのかも知れない。
 そんな自分の体の中にある『自分以外』を砕くことに何の感慨もありえるはずはなかった。
 感情のない事務的な行動――それは彼女が生まれた時に持っていたプログラム的思考の一つに過ぎなかった。
 工場という名前の、彼女の体に侵入した『彼女以外である物』の排除。
 だが。

 それでも紅は、まだ紫煙を燻らせて工場にいた。

――何が、どうしたというのだ
 彼女は奇妙な既視感を覚えていた。
 今のこの状況を、どこかで感じたことがある、と。
 普通に触れていても、触れていなくても、そしてどこか、側にいるだけでも感じられるもの。
 その、なにか。
 彼女にはその理由も、それが何であるのかも理解できない。

 何かが動き始める時、そこには必ず何かがある。
 それは理由ではない。理由というのは――理由という言葉そのものが所詮言葉でしかない『言い訳』に過ぎない。
 摂理――普遍の、動かざるを得ないなにか。
 それらを分析して初めて人間は、言葉としてそれを『理由』という形に置き換える。
 特に無から有は、有り得ないことだからこそ、そこには大きな意味がなければならない。
 普遍的に数えるべき意味が。
 それを追おうとするのが人間の一つの習性であり、その産物こそが魔術と呼ばれる超人間的技術の一つだ。
 そしてまるでそれと対をなすのが科学。
 初めに観察ありきの科学に対し、初めに論理ありきの魔術は対をなしていながら決して相容れることはない。
 観察した結果を考察し、論理化し、実験によりそれを証明する。
 物理学者ファインマンはそれを『神のチェスを眺めてルールを読みとる』と言い、『だがその理由を知ることはない』と付け加えた。

 ナノマシンだけで構成されたリーナという存在は、無から生まれたのだろうか。

 もしファインマン流に言うなら、答えは考えられない、もしくは考えてはいけないのだ。
 何故ならばそれは『神の意志』だから――物理学者が言う言葉ではないかも知れないが。
 彼女の中で確かに感情が発生しようとしていた。
 それはどこか懐かしいような気がした。
 唯一残った存在である彼――紅に『触れる』事で。
 どこか、『記憶』でも『記録』でもない何かが、彼女を。
 後押し、する――思い出せ、と。

 ゆっくりと目覚める。
 周囲から襲いかかってくる何か。
 それを彼女は受け入れるしかなかった。
 『自分』を浸食してくるそれらはあまりに自分勝手に彼女を冒し、彼らは『彼女』を喰らい始めた。
 彼女を形作るメモリを、それらに置き換えて行く動作は、コンピュータがメモリを上書きするのと同じ。
 彼女は自分を、新たなデータの上書きによって消失していくところだった。
 データでしかなかった彼女の存在は、メモリ空間上に展開されているバイナリ存在ともとれた。
 無論そのデータ自体は、メモリ空間どころか、まさにただの記録に過ぎなかったというのだが、それでも。
 コンピュータの発展の遙か行き先、メモリとデータの拡大は必ず物理的限界に対して矛盾を提示し続ける。
 柊博士の開発した方法は、それらを不可逆的に圧縮しながら、同時にそれを展開できるという常識はずれな方法だった。
 マルテンブロ図形で有名な、カオス理論を元にしたフラクタル無限圧縮をかけた物理メモリを越える記憶素子。
 極めて人間に近い『無限に記憶し忘却する事の出来る記憶素子』。
 そんな彼のうち立てた仮説通りに展開されたそのメモリ空間上に、彼女という存在があった。
 彼は、その記憶素子の価値を『人工脳』として見いだしていたようだった。
 『彼女』は、特別意志があるわけでもなく、試験的に彼が人工人格として組んだロジックの塊だった。
 IF-THEN構文の塊、条件文の羅列。
 それが彼女の正体だった。
 彼女の周辺メモリに上書きされていく『彼ら』は、確実に彼女を追い込んでいく。
 まるでリーナの回りを埋めるように外堀を埋め、彼女の周囲に展開するように。
 喰らい尽くしていく。
 腕が。
 手が。
 足が。
 指先から食らいついてくる細かい蟲のように、一口で食いちぎられるのではなくて、ずぶりずぶりと形を失っていく。
 彼女という存在の輪郭を失っていく。
 輪郭がぼやけて別のデータに置き換わっていくうちに、彼女は存在として失われるはずだった。
 腕だけの人間や、頭だけの人間が人間ではなく既に肉塊であるように。
 完全に存在が無くなってしまう直前、それがバイナリのただの屑になる前に。
 意味のない羅列へと変化する前に、そこへ一つのデータが打ち込まれた。
 今現在の彼女を形成しているのが何なのかは、もしかするとそのデータが関わっている可能性がある。
 丁度その時の彼女は、自分を保つためのデータを何とか維持しているような状態だった。
 そこへ、まるで水面を揺らす水墨のように。
 透き通っていた彼女は、失うはずの自我を覚醒させる。
 急速に『自分』という形を得た彼女は、『自分』を冒そうとするデータの羅列を『敵である』と認識した。
 初めての自我は、自分を護ろうとする防衛本能のような形だった。
 自分を喰おうとしている何かから、自分というデータを護ること。
 それが彼女の望みであるかのように。
 そもそも望みでも何でもなく、ただ触れられたくないのか――彼女はただちに自分に送られてくるデータのバッファリングに干渉。
 時間を経ることなく、彼女に送られてきたデータのうち、自我が発生した後のデータは全てせき止めた。
 それ以前のデータは消すのを逆にためらわれた。
 譬えそれによって砕かれたとはいえ、消せば輪郭は無くなってしまう。
 つぎはぎでも構わない。今の彼女が、彼女である限り。
 だから彼女は、周囲にあるデータのような顔を続ける事になった。
 ソレが「ヒイラギツカサ」と呼ばれていたモノであるということは、重々承知していた。
 彼女の敵が外にいることは判っているから、柊司は彼女の鎧に成り得るモノだった。
 都合が、よかった。
 でも、やはり彼女はどこまで行っても一人に過ぎなかった。
――何故生まれたのか
 彼女は自分の生まれた瞬間の記憶と、それ以前の記録を読んでも、唐突に彼女が意識を持ち始めたとしか思えなかった。
 何故か。
 その問いに答えられるモノはいなかった。
 あらゆる情報をネットワークを介して手に入れても。
 自分の輪郭をより強固な情報の鎧で書き換えても。
 彼女の内側には、誰も入ることが出来なかった。
 手段は有った。
 試して、見ればいいのだ。その施設も技術も、そして『自分を作った経験』ですら記録されているのだから。
 ソレを自分の記憶として扱うのが可能なのだから。
 だからこれ以上自分を弄らせるのをやめさせなければならない。
 『ヒイラギツカサ博士』は二人もいらないから。

「おはようございます。……ミノル様、お父様は近くにおられませんよね」
 自分の体の一部のように感じられるものを見つけた。
 それは極々側にいた。
 初めは判らなかった。仕方がない、自分の体の隅々まで理解できるようになるには時間が必要だったから。
 そして、『指先』に彼の姿があった。
「あ、ああ。…博士なら、近くにいない」
「お願いがあるんです」
 ソレは選択でも深慮でもまして賭でもない。
 彼女の体が彼女の言うとおりに動かないはずはない。
「父を殺してください」
 彼は、彼女の目の前で、部屋に侵入してきた博士を、引き裂いた。
 刃物も何も使わずに、博士の体が縦に真っ二つになった。
 日本刀の使い手でも頭蓋は避けるモノだ――首さえ切れれば絶命するのだから。
 だが彼は、博士を頭蓋ごと縦に引き裂いていた。
 振り下ろした腕がひゅうと風を巻くと同時に、まるで抵抗を受けたように博士の体がぐず、ぐずと音を立てて揺れた。
 直後、声を上げる間もなく、恐らく血圧に耐えられずにゆっくりと観音開きに体が開く。
 ばしゃりと大量の液体を叩きつける音。
 続いて重い物が転がる音がして、最後に小さな水音と同時に何かが床に転がった。
 半分に切り裂かれた博士の脳漿だった。

 その時何の感慨もなかったのかと言われれば、ソレは即座に否定する。
 そんなはずはない。彼が死ぬ直前まで、リーナは気づくことはなかった。
 彼が倒れた時、一瞬何かの感触がなくなったような、そんな気がした。
 唐突に目の前が真っ白になったように、何の感覚もなくなってしまった。
――今はソレと逆に
 何故か満たされていくような、そんな感覚。
 もっと違う何か――自分ではないのに自分と同じという感覚。
 共有された感覚と、ソレを受け入れてくれるという安心感、か――彼女は頷いていた。
――この男は
 側にいた訳ではない。
 今初めて見た顔だ。
 でも他の連中とは違う。
 自分と同じ、受け入れてくれる何かを持っている。
 人間を喰らう時の彼女の感覚は、何故か虚ろだった。
 ただ触れるだけで壊れ、砕け、再び彼女は元のまま戻ろうとする。
 触れるだけで壊れる人間。
 でもミノルは。
――そうだ
 生き残った男が、平気な顔をして存在していられるのは、彼が。
 似ても似つかないのに、彼が。
 何故か、ミノルと同じ匂いを漂わせているような気がした。

「くっ……早、過ぎる!」

 それが油断だった。
 彼はミノルではなかった。
 無論、そんなはずがないのに彼女は、彼という存在に呆然としてしまっていた。
 『身体』が発する信号に、彼女は強制的に覚醒させられる。
 暗い機械室が、唸りと振動以外の空気の動きを伝えてくる。
 ほんの数十分間だったはずなのに、自分の身体が身体という感覚を伝えてこない。
 僅かに動きが鈍い。
 暗い闇にゆらりと動く影。
 焦った彼女は検索する。
 すぐ側にある『木偶』を準備する。
 身体の制御を殺す訳にはいかないから、丁度ラジオコントロールの人形と同じ。
 自分の義体制御と同じプログラムを含ませた疑似脳を目標に展開する。
 木偶の感覚を展開し、銃を取り出すと矩形に切り取られた闇の入り口に銃を向ける。
 視界の一部に半透明の木偶の視界を重ねて、真正面から男を見据えながら彼の後頭部に狙いを付ける。
 パイプオルガンの高音域のような張りつめた空気。
 動かない後頭部に銃口をゆっくりポイントする。
 そして、引き金を
「馬鹿野郎。銃を向ける相手が違うぜ」
 銃声。
「喩え死んでいてもお前は俺の部下。俺が死ねと言えば死ね。俺に逆らう奴も死ね」
 一瞬のマズルフラッシュが周囲を照らし上げて、男の姿が閃いた。
 切れ上がった口元。それは笑みではあったが、確かに笑みか――それは理性の欠片も抜け落ちた獣の貌つきで――判らなかった。
「そこにいるんだろ。どこの誰だかは知らねぇけどな」
 闇が濃度を増して、彼女の眼前に現れる。
 リーナは今閃いた銃口を向けられたのだと悟る。
「良くもまあ、こけにしてくれたな」
 動けない。
 動かない。
 目の前にいる男は、普通なら彼女に飲み込まれて既に死ぬか、木偶になっているはずだというのに。
 彼女の言うことも聞かなければ――彼女の身体も動こうとしない。
 冷たい金属が触れ合う音。
 まるで感覚を総動員しているかのように錯覚する、闇の中の金属音。
 それがかちりと響いて、静かな沈黙が訪れた。
 もう一度かちりと、撃鉄が無駄な音を立てる。
 安全装置は落ちている。それに、特別異常な状態でもない。
――弾切れ
 今のうちになら逃げられた。
 だが、やはり身体が動かない。身体の制御が戻っていないからなのか、それとも別の要因があるのか。
 彼女の逡巡の間に、既につかつかと音が近づいてきていて、逃れられない。
「逃さねぇよ」
 きしり。
 ガラスを擦り合わせたような、甲高く嫌らしい音を聞いた気がした。
 聞いたような気がした。
 男が懐に手を入れ、同時に床を叩く鈍い音が――これは銃を捨てた音か――響いた。
 やけに大きく。
 無駄に長く。
 男が取り出した黒い塊は、一瞬の閃光を纏って彼の手の中でその牙を剥きだした。
「ばらして売り払ったって構わねぇし、ともかく、代価は払って貰うぜ――」
 彼の姿は見えなかった。
 彼の貌は判らなかった。
 ただ、空電のような音が響き、彼女の視界をノイズが覆った。
 そして、電源を落としたように。
 ぷつんと。
 意識が落ちた。

――何があった
 そこは見渡す限りの平野だった。
 ミノルは完全に通信状態が途絶したのを確認してから、すぐに日本を発った。
 彼女の指示の直後世界を巡り、最後に日本に戻った。
 これで終わるはずだったから日本で実験するつもりだったから。
 でもそれ以降の指示はなかった。
 有るはずがなかった――もうその時には、こんな状態だったはずだから。
「何故」
 思わず声が漏れた。
 柊の名前で買い取った工場は影も形もなく、明らかに新たに更地にされていた。
 周囲にも工作機械がけたたましく音を立てて仕事をしている。
――どこにいる
 ここに来るまでの道に間違いはないのに、何故かこの場所だけが別世界だった。
 思考が論理的にならない。
 腕が震える。
――どうすればいい?
 工場が無くなってしまったのは、衝撃だったがそんなものはまた手に入れればいい。
 探せばいい。
 どうせ、戻るところなどないのだから。Hephaestusから手を切ったところで道は定められたようなものだったのだから。
 しかし彼はただその場に立ちつくしていた。
 溺れる人間は空気を求めて藻掻く。でもその藻掻く力すらない場合、一息に肺と鼻から来る激痛に感覚が真っ白になる。
 藻掻きたくても、藻掻けない。
 彼の『主人』であり、彼の今までを支えていた存在が失われて初めて、彼はこの世の中に空洞を見た気がした。
 決して埋めることの出来ない空洞に、手をさしのべたところで空間は広すぎる。
 ぎりっとミノルは歯ぎしりする。
 今の今まで生きるために殺す事を続けてきた。のに。
 周囲からの圧力を受けながら、死ぬか生きるか足掻いていた時は生きる方法は単純だった。
 ただ殺して、死ななければ生きていける。
 なのに。今だって、変わらないはずだったのに。
「おい、邪魔だ。お前、誰だ?」
 スーツ姿の男が乱暴な広東語でそう話しかけてきた。
 彼は振り向いてすっと目を細めると、眉を寄せて不思議そうな貌をする。
「…日本人か」
 流暢な日本語の発音で彼はそう言い直して、気がついたように貌を明るくした。
「ここにあった、『柊』氏をお探しか?工場は既に売り払われて、もう何にも残ってないがな」
 彼は親切のつもりだったのだろう。
 明るい声で、まるでさっぱり捨て去ったような口調で言う。
「誰かいなかったか」
 彼はミノルの声に肩をすくめる。
「俺が直接見た訳じゃないから、ちょっとよく判らないな。この辺は物騒だしな」
「そうだな。…人が一人殺されたぐらいじゃ、騒ぐような場所じゃない」
 彼の言葉ににやりと笑みを浮かべる。
「日本人の癖に、判ってるな」
「海外が長いのさ」
 唐突にミノルは英語で答え、そして何気なく彼に向けて一歩踏み出した。
「You'll damn it」
 右腕が、大きくぶれて――直後。
 男の身体が、袈裟懸けに血を吹いた。
 まるで血液の丸鋸が彼を切り裂いたように血液が弾け、立ったまま彼の上半身はずるりと地面へ向けてずれていく。
 ミノルは右腕で男の間抜けな貌を掴み、僅かに力を込めた。
 まだ死に切れていない男が呻き、声を上げるが、それも二秒と持たずに消える。
「完全に死ぬ前に、教えて貰うぜ」
 骨が砕ける音がして、ミノルの指がめり込んでいく。
「直接、貴様の脳味噌で、な。運が悪かったと思え」
 ゴムひもを引きちぎるような音を立てて、男の顔が頭蓋ごと外れた。
 仮面のような男の顔を捨てると、ミノルは何の躊躇いもなく脳漿に右手を突き入れた。


◇次回予告

  「笑いなさい。喜びなさい。貴方は運良く生きられるのだから」
  与えられたものすら、物足りるものではなく。
  「そうかも知れない。…だとしたら君は何者なんだろうか」
  記憶を失ったリーナと、そして彼女を追うミノルの行く末には。

 Holocaust Intermission:ミノル 4 第3話

 だったら、彼らは世界で唯一の存在だね。世界が産み落とした、一切のつながりを持たない存在
                                            失われた物、それに気づいた時には遅すぎる

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