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Fastest Tribe
Chapter:1

第0話 Interview with...


 確かにその日、あそこにいたんだ。
 ひどいもんだった。何せ、あの丈夫な日本車がぐしゃりだ。どれだけの速度だったのかなんか想像もつかない。
 ボンネットはひしゃげてしまい、まるで開けたあと折りたたんで止めたみたいになってたな。
 そんなんだからヘッドライトも粉々、あっという間に地元警察が来て対処してたみたいだけど、一部のギャラリーがそのまま野次馬になってた。
 かくいう俺もそうだったさ。ああ、元々あの辺に住んでるからな。
 でもさ、警察も慣れたモノよ。さっさと処理してしまって、そこで起きていた全てを忘れるように帰っていった。
 車がレッカーされて、後に残るのはもう沈黙ぐらいだと思っていた。
 実際さ、喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うだろう。そのぐらいは俺だって判ってる。
 でも奴らはそうじゃない。のど元に熱さがないと生きていけないような連中なんだ。
 常に、いつでも死ぬぎりぎりの縁に立っているようにしか見えない。
 何なんだろうな。車って奴はやっぱりはしかか何かか?
 モータリゼーションが進むにつれ、安く高性能な車が出回り始めると発展途上とはいえどこも同じ現象が起きる。
 そして治安の云々って言う話から、その時の事情が絡んでモータースポーツが発展したり逆に車そのものが廃れたりする。
 走る場所を求めて、人気のない場所を探して、結局みんな同じ場所で走ってる。
 そんなのは本当に黎明期にしか、なかったはずなのに。
 今更そんな時代じゃないだろ?
 車の性能に至っては鰻登り、もう技術的には充分枯れてるといえるんじゃないか?
 それなのにどうして。
 ちょっとお金を出せばサーキットにいっていくらでも走る事ができるだろう。
 違うんだ奴らは。
 そんなモノのために、走ってるんじゃないと彼らは応えた。
 蟲毒、なんて言葉があるのは、知ってるか?つまりそう言う奴らだ。
 黎明期に走っていた人間のうちの一部は、やがてレーサーに転身したり、経験を生かしてメカニックになったり、二度と走らない、と降りて行った。
 それでも残っている奴らがいるんだ。
 つまり、はやりでそこにいた訳ではない連中。
 昔から、はじめからそこにいる事が宿命づけられた連中が。
 流行ってのは決して悪い意味じゃない。
 それで多くの人間がはやりにふれて、少数でかちあうよりも遙かに多くの経験ができる。
 より濃い人間が生まれる。
 耐えられない、廃れた、いろんな理由で人々が減り、それでも奴らはそこにいる。
 それがどれだけ濃い毒なのか想像もできない。
 あまりにもバカげていても、彼らは他に道を持たなかった、って事だろう。
 理由?そう、多分理由なんて後付の論理的な説明。そんなもの、奴らにはないよ。
 ついでに言えば一般常識も、躊躇も、そして自分のやってる事に対する罪悪感も、な。
 あいつらはみんなよく似ているよ。ああ、よく似ている。同じ血筋でもないだろうにな。
 俺?ああ、走る阿呆に見る阿呆だよ。
 同じ阿呆なら、うん、どちらを選ぶかい?


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