Winged-White 【インド連発】 その31〜35 インドX連発
◆インドとほほな旅話。 byA.Matsu!
  バラナシ
  (データは20世紀のものです。)
絵葉書売りの子ども
連発index
その26〜30←
その31.【事後処理】
その32.【マニカルニカ=ガート2】
その33.【Twilight】
その34.【対岸へ】
その35.【バングな映画館】
→その36〜40

その31.【事後処理】 1996/09・バラナシ

 バラナシに着き、久美子ハウスに宿を取った。
 荷物を置いてすぐ、行動。
 まずはSTDで家に電話を掛け、カード会社に紛失を通告してくれるよう頼んだ。
 それから念のため、現地のカード取り扱い銀行に、使用停止を依頼した。

「お客さん、クレジットカードの番号は、16ケタだよ」

 ナニ!?

 見ると確かに、番号を控えたメモには、12ケタしかない。下4桁書き忘れてた。

「照合、できない?」
「ノ〜、でもノープロブレム。インド人には、日本人のカードは使えませんよ

 ……ホントかよ?

 でも、もういいか。明らかにこちらの不備だ。もう一度、直接確認の電話をしたらいい。
 (結局、日本のカード会社で、ちゃんと対応してくれていた。)
 こんな感じで、何とか安心(?)して、宿に戻った。



「ボーディン・ターィム、ボーディン・ターィム!!」
「船が出マぁース船が出マぁース!」


 翌朝、例によってシャンティさん(←久美子さんの旦那)のドラ声で起こされた。(久美子ハウスでは、船頭さんと提携して毎朝ボートをガンガーに出している。)

朝の船乗り 『……ぅーうるせ〜 ………
  うー ……………もっぺん乗ってみるかぁ』


 ラッキーだった。

 ――ガンジスカワイルカさんが数匹、ボートと遊ぶように飛び跳ねてくれたのだ!

その32.【マニカルニカ=ガート2】 1996/09・バラナシ

 朝のボートやら食事やらで、親しくなった数人と、また火葬場に行く事にした。
 火葬場にはもう何の関心もなかった。が、オレはまだカードごと財布をスラれたショックが拭いきれず、依頼心が強くなっていた。何でもいいから、人と一緒にいたかったのだ。

 前よりもガンガーの水位は増している。あまりの増水に(何でかは知らんが)発電所が悲鳴を上げ、停電がしばしば起こるほどだ。
 もうボートで往復するしかない。

 火葬場で仲間の一人がもめだした――ドネーションを要求しているインド人と。

「ノー! アイ・ドン・ペイ!」
「ノー! ユー・ゴー・アウッ!」
「ノー!」
「ノー!!」

 しまいに彼は、こう怒鳴った。


 「ウェンナイ、ダーイ!
 アイ・ウォントゥ・フロート・オン、
 ガンガーーーーーッツ!!!」



 オレは目がテンになった。
 ある意味スゴイよそれは。
 だけど……。
 ぜんぜんドネーションを拒否する理由になってな〜い!!

 オレは二重の意味で、完全にドギモをヌカれていた。
 しかし、インド人には効かなかった。いや、まったく彼の言葉を聞こうとしてなかったようだ。
 彼の相手は鶏の視線で、無表情に繰り返した。

 「ユー・ドン・ペイ、ユー・ゴー・アウッ」


バラナシ南端のアッシーガート  「あのさぁ……、ここ、人の葬式してるトコやし――香典程度のキモチは出すんが、礼儀ちゃうかなぁ」
 とりなしてみた。が、彼はムキになってしまってる。

 早々に、引き上げた。彼の件でもいづらくなったが、ボートを待たせてもいたからだ。
 彼――ノリオとの、衝撃的な出会いだった。

 ちょっとフォロー。
 このドネーションを求めるインド人、一体どこの何者なのか、僕らはよく知らないのだ。渡したドネーションが遺族に渡されるか運営に生かされるか、それもハッキリしない。
「そんなものをホイホイと渡すのは、反対だ!」
 というのがノリオの真意。
 ナァナァ志向の僕より、全く理に適っていると思う。(後は、その感覚が通用する場所かどうかだけど……これは僕にも分からない。)


 久美子ハウスに帰り、ノリオは洗濯をはじめた。
 たまたまオレが隣のトイレで用を足し終わって出てくると、
 「あのさぁ、洗剤を取りに行きたいねんけど、洗い場を取られると困るからさー。見ててくれる?」

 気軽に受けると、30分帰ってこなかった。
 というか、オレが呼びに行った。
 オレと洗濯を完全に忘れていた。


 その後気がつくと、彼のジーパン搾りを手伝っていた。


その33.【Twilight】 1996/09・バラナシ

 空が、また歌い始めている。
 階段を、必死に駆け上がる。
 ――尖塔の中心は吹抜け、それを囲んでくるくると回り上がる階段。

 間に合うだろうか? その瞬間に。
 ずっと昔から、この衝動だけは止められない。
 寺院を改造して営まれている宿――実はこいつが邪魔だったのだ。

 邪魔なら、そこを登ればいい。
 そう、ただ全幅の夕焼けを見たいがために、オレは「久美子ハウス」の西にあるその宿――「ヨギニ=ゲストハウス」に無断で立ち入り、4〜5階(6〜7階?)分の階段を全力ダッシュで登りきっていた。途中で従業員に「屋上はあるか」と聞いたかもしれないが、何分あわてていたのでよく憶えていない。


 その色は、その光は。
「もしかしたら、今日は――」
 いつも想っては裏切られる、その期待をはるかに凌いでいた。

 しばらく呆け者になって、ただ見入っていた。



Twilight



「あの塔、てっぺん曲がってますよね?」

 振り返ると、小柄な女の子。
 曲がっているも何も、人に聞かなくても分かるくらい、ハッキリと。
 ……そうとう目が悪いのかな?

「これ、貸してあげよっか?」
 しっかり持ってきた双眼鏡を受け取ると、少女はひょひょいと横の壁によじ登った。

 ヱ? ヱ? ヱ?

 できるだけ高くからこの夕焼けを見たいのは、オレも同じだ。
 彼女は塔屋(階段口)の上に登ろうとしていたが、片手を双眼鏡に塞がれていてうまくいかない。
 壁まで登って、手助けする。

 ――うわ。

 下を覗くと、目のくらむような、いやちゃんとホントに眩む、高さ。

 ここ、これは!!


……うーん。ダメだぁ。




 同じ夕焼けを、ずっと見つめ続けることができる人と、出会いたかった。
 できれば少しでも長く、その時間を共に過ごしたかった。
 夕焼けは――――短いから。


 でもこの一瞬をブルってしまったオレって……………………、
 

ヘタレ〜〜〜〜〜〜!!


(いやあの言い訳するとね、ホントは木登りめっちゃ得意なんですヨ、階段登りきって頭もボーっとしてたし、ウエストバッグも邪魔で、なんかコレはヤベェなーって。……いやマジで。だもんで、ホントは得意なだーけーに!残念だったッス〜、だーってさ、あのコ、めっちゃカワイ……(言い訳と後悔と強がりの以下、略。))



そしてやはりヘタレ〜なオレには、
やはり何も残されなかった
彼女の、名前さえも。

その代わり、

似たような色を空に見るたび、
彼女の膝を抱えた姿、
思い出すのだろう。

写真撮ってないで登れっての

その34.【対岸へ】 1996/09・バラナシ

 のんびりしたところだった――。


 ネパールから帰ってきた『隊長』に再会した。
 初めにここで会った時も、彼は「対岸」に行きたくてウズウズしていた。
「対岸の不可触民って、どんなヤツラなんやろ。アメーバみたいなヤツちゃうかぁ?」
 オレはそれを聞いて、彼自身のことを一時「アメーバ」と呼んでいた――さすがに彼も、そんな失言は二度としなかったが。

 なんにしろ皆をまとめるのが上手い男だった。だが、ガンガーの対岸には行けずじまいになっていた。
 久美子ハウスでは「行くな」の一本槍だ。

サギスリドロボウ、たくさんいまーす!!」
「昨日もニッポンジンが一人、ヤラれましたー!

 シャンティさんも毎朝怒鳴っている。

日の出

 宿から見える対岸は、一本の緑の帯だ。
 こちらの西岸は「聖なる」町が開けているが、東の対岸は「不浄の地」とされ、まったく手がつけられていないのだ。


 しかし行くなと言われると……、行きたくなるのが人情。

 メンバーは、隊長とオレと、ヘイアンの3人。
 ボートは非常に緩やかな浜に乗り上げ、オレ達は少し内陸へと歩みを進めた。

対岸の人々  木々の緑に囲まれた、辻のようなところに茶店や祠があった。

「(睡眠薬、入れないよなァ……)」
「(三人いれば……大丈夫やろぅ……?)」
 恐るおそるみんなでチャイを飲んでいると、スコールが始まった。
(バラナシでは、単に「雨」と表現したいが、ここでは「スコール」だろう。)

 祠で雨宿りしていると、5人ほど現地の人が集まり、輪になって腰を下ろした。

 パイプが横から回ってきた。受けねばなるまい。
 ――結局マリファナなどではなかった(あるいは、キツイものではなかった)ようだ。

対岸からのバラナシ  なんでこの人たちが「不可触民」なのか、まったく分からない。
 友好的で、穏健。何もネダらない。
 これじゃ浄不浄がサカサマ――。
 隊長たちも同じようなことを思い始めたようだ。

「そろそろ、帰るか」


その35.【バングな映画館】 1996/09・バラナシ

 隊長とぉ、ノリオとぉ、オレはぁ、ラッシー屋さんに行きましたぁ〜。
 3人でぇ、「バナナラッシー」をぉ、頼みましたぁ。

家になった寺院  出てきたのはぁ〜、抹茶ミルクみたいなヤツで〜。
「グリーンバナナかなぁ〜?」と思いましたぁ。

 飲んでみると、すっごくマズくってぇ〜、ノリオは少ししか飲みませんでしたぁ。
 隊長とオレはぁ、お店の人にも悪いんでぇ〜、がんばって最後まで飲み干しましたぁ。


 その後3人でぇ、近くの映画館に行きましたぁ。

 だんだんなんだか気持ちが良くなってきましたぁ。


「ほらほら、目の前で手、動かしてみ、こんな風に」
「うぁー。手がいっぱい増えたぁー
「な、キレーやろ?」
「うわぁ〜!」
 3人は座ったまま盆踊りを始めましたぁ。

「アレ? スクリーンのアイツら、日本語言うてへん?
「ホンマや、日本語やでアレ」
「くっくっく、『ブタがにじむ』やて」
「何ゆーてんねんアイツら、アホちゃうか」
「わはは」
「わはは」

 すごく面白い映画でしたぁ。


 帰り道、隊長はアカの他人にケンカを吹っかけられてましたぁ。

「うらぁ! 何やその目ェはぁああ(大阪弁)!!」

 オレはビックリしましたぁ。
 でも隊長は悠然と歩いていきましたぁ。
 通り過ぎるケンカ腰の日本人の目は、完全にアサッテの方を向いてましたぁ。『……どっちがヘンな目ェやねん、アブナイ奴っちゃなー』と思いましたぁ。

 宿に着いてから隊長に聞いてみると、アサッテの方を向いた目で、
「いや、知らんで。全然聞こえんかった。
 ……それより今、スゴイ目してるでぇ」

と、オレを指差しましたぁ。
 オレの目も、アサッテの方を向いてましたぁ。隊長の指が目に入ってきそうで、とっても怖かったでーす。


 その後、起きたらドミでパンツ一丁だった。
 ……面目ない。

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