バラナシに着き、久美子ハウスに宿を取った。
荷物を置いてすぐ、行動。
まずはSTDで家に電話を掛け、カード会社に紛失を通告してくれるよう頼んだ。
それから念のため、現地のカード取り扱い銀行に、使用停止を依頼した。
「お客さん、クレジットカードの番号は、 16ケタだよ」
ナニ!?
見ると確かに、番号を控えたメモには、12ケタしかない。下4桁書き忘れてた。
「照合、できない?」
「ノ〜、でもノープロブレム。 インド人には、日本人のカードは使えませんよ」
……ホントかよ?
でも、もういいか。明らかにこちらの不備だ。もう一度、直接確認の電話をしたらいい。
(結局、日本のカード会社で、ちゃんと対応してくれていた。)
こんな感じで、何とか安心(?)して、宿に戻った。
「ボーディン・ターィム、ボーディン・ターィム!!」
「船が出マぁース船が出マぁース!」
翌朝、例によってシャンティさん(←久美子さんの旦那)のドラ声で起こされた。(久美子ハウスでは、船頭さんと提携して毎朝ボートをガンガーに出している。)
『……ぅーうるせ〜 ………
うー ……………もっぺん乗ってみるかぁ』
ラッキーだった。
―― ガンジスカワイルカさんが数匹、ボートと遊ぶように飛び跳ねてくれたのだ!
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朝のボートやら食事やらで、親しくなった数人と、また火葬場に行く事にした。
火葬場にはもう何の関心もなかった。が、オレはまだカードごと財布をスラれたショックが拭いきれず、依頼心が強くなっていた。何でもいいから、人と一緒にいたかったのだ。
前よりもガンガーの水位は増している。あまりの増水に(何でかは知らんが)発電所が悲鳴を上げ、停電がしばしば起こるほどだ。
もうボートで往復するしかない。
火葬場で仲間の一人がもめだした――ドネーションを要求しているインド人と。
「ノー! アイ・ドン・ペイ!」
「ノー! ユー・ゴー・アウッ!」
「ノー!」
「ノー!!」
しまいに彼は、こう怒鳴った。
「ウェンナイ、ダーイ!
アイ・ウォントゥ・フロート・オン、
ガンガーーーーーッツ!!!」
オレは目がテンになった。
ある意味スゴイよそれは。
だけど……。
ぜんぜんドネーションを拒否する理由になってな〜い!!
オレは二重の意味で、完全にドギモをヌカれていた。
しかし、インド人には効かなかった。いや、まったく彼の言葉を聞こうとしてなかったようだ。
彼の相手は鶏の視線で、無表情に繰り返した。
「ユー・ドン・ペイ、ユー・ゴー・アウッ」
「あのさぁ……、ここ、人の葬式してるトコやし――香典程度のキモチは出すんが、礼儀ちゃうかなぁ」
とりなしてみた。が、彼はムキになってしまってる。
早々に、引き上げた。彼の件でもいづらくなったが、ボートを待たせてもいたからだ。
彼――ノリオとの、衝撃的な出会いだった。
ちょっとフォロー。
このドネーションを求めるインド人、一体どこの何者なのか、僕らはよく知らないのだ。渡したドネーションが遺族に渡されるか運営に生かされるか、それもハッキリしない。
「そんなものをホイホイと渡すのは、反対だ!」
というのがノリオの真意。
ナァナァ志向の僕より、全く理に適っていると思う。(後は、その感覚が通用する場所かどうかだけど……これは僕にも分からない。)
久美子ハウスに帰り、ノリオは洗濯をはじめた。
たまたまオレが隣のトイレで用を足し終わって出てくると、
「あのさぁ、洗剤を取りに行きたいねんけど、洗い場を取られると困るからさー。見ててくれる?」
気軽に受けると、30分帰ってこなかった。
というか、オレが呼びに行った。
オレと洗濯を完全に忘れていた。
その後気がつくと、彼のジーパン搾りを手伝っていた。
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のんびりしたところだった――。
ネパールから帰ってきた『隊長』に再会した。
初めにここで会った時も、彼は「対岸」に行きたくてウズウズしていた。
「対岸の不可触民って、どんなヤツラなんやろ。アメーバみたいなヤツちゃうかぁ?」
オレはそれを聞いて、彼自身のことを一時「アメーバ」と呼んでいた――さすがに彼も、そんな失言は二度としなかったが。
なんにしろ皆をまとめるのが上手い男だった。だが、ガンガーの対岸には行けずじまいになっていた。
久美子ハウスでは「行くな」の一本槍だ。
「サギスリドロボウ、たくさんいまーす!!」
「昨日もニッポンジンが一人、ヤラれましたー!」
シャンティさんも毎朝怒鳴っている。
宿から見える対岸は、一本の緑の帯だ。
こちらの西岸は「聖なる」町が開けているが、東の対岸は「不浄の地」とされ、まったく手がつけられていないのだ。
しかし行くなと言われると……、行きたくなるのが人情。
メンバーは、隊長とオレと、ヘイアンの3人。
ボートは非常に緩やかな浜に乗り上げ、オレ達は少し内陸へと歩みを進めた。
木々の緑に囲まれた、辻のようなところに茶店や祠があった。
「(睡眠薬、入れないよなァ……)」
「(三人いれば……大丈夫やろぅ……?)」
恐るおそるみんなでチャイを飲んでいると、スコールが始まった。
(バラナシでは、単に「雨」と表現したいが、ここでは「スコール」だろう。)
祠で雨宿りしていると、5人ほど現地の人が集まり、輪になって腰を下ろした。
パイプが横から回ってきた。受けねばなるまい。
――結局マリファナなどではなかった(あるいは、キツイものではなかった)ようだ。
なんでこの人たちが「不可触民」なのか、まったく分からない。
友好的で、穏健。何もネダらない。
これじゃ浄不浄がサカサマ――。
隊長たちも同じようなことを思い始めたようだ。
「そろそろ、帰るか」
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隊長とぉ、ノリオとぉ、オレはぁ、ラッシー屋さんに行きましたぁ〜。
3人でぇ、「バナナラッシー」をぉ、頼みましたぁ。
出てきたのはぁ〜、抹茶ミルクみたいなヤツで〜。
「グリーンバナナかなぁ〜?」と思いましたぁ。
飲んでみると、すっごくマズくってぇ〜、ノリオは少ししか飲みませんでしたぁ。
隊長とオレはぁ、お店の人にも悪いんでぇ〜、がんばって最後まで飲み干しましたぁ。
その後3人でぇ、近くの映画館に行きましたぁ。
だんだんなんだか気持ちが良くなってきましたぁ。
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その後、起きたらドミでパンツ一丁だった。
……面目ない。
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