Winged-White 【インド連発】 その26〜30 インドX連発
◆インドとほほな旅話。 byA.Matsu!
  ルクソール〜パトナ
  (データは20世紀のものです。)
ヴァイシャリーの道
連発index
その21〜25←
その26.【パンク修理】
その27.【緑の地】
その28.【……すられた!】
その29.【ホームの子ども達】
その30.【ツカミはオッケー?】
→その31〜35

その26.【パンク修理】 1996/09・バス内

 ルクソールからムザッファルプルまで電車、その後ヴァイシャリー行きのバスに乗る。
 バスはメーラー(祭り)の村やバナナ園、そして延々緑の森の中を走ってゆく。だんだん、あたりには靄がたちこめてきた。

 なかなか着かない。しかもノロノロ運転になり始めた。もうすでに道は舗装されておらず、水溜りの多い泥道を進んでいる。
 だんだん不安になってくる。ヴァイシャリーには、宿がほとんど無いらしいのだ。
 先のシュラバスティやクシナガル、そしてルンビニー。仏跡はいずれも、ド田舎だった。さらにこのヴァイシャリーで泊ることが叶わないなら、先を急がねばならない。

 ついに、止まった。――どうもパンクらしい。
 故障や延着が多いというのは、聞いていたが……困ったなぁ。

 バスの外には運転手やら前の方の乗客やらが、何事かしている。
 彼等は、バスの天井にロープを張りだした。渡したロープを傍らの木に回して、引っ張った。

 おおおっ、バスが右に傾いた。

 なんと、ジャッキアップの代わりだった。多分ぬかるんだ地面で、ジャッキは物の用をなさなかったのだろう。

 一般のバスにして、すでに……サバイバル

その27.【緑の地】 1996/09・ヴァイシャリー

 ヴァイシャリーに着いた。村もいいとこで、どっちかというと、だ。この地がかつては最古の共和国で、第二次仏典結集をなされた場所とは、どうにも信じられない。

 頼みの綱のツーリスト・レストハウスは、営業していなかった。博物館も閉館中。宿は他にあるかと聞いたが、無いと言う。
 それで、パトナまでの道のりを教えてもらった。センターの管理人は、懇切丁寧に教えてくれた。
 時間がほとんどなかったものの、この地の人々も、とてもいい人達だった。

 リクシャに乗ったオレを見て、子ども達は声をかける。
 子ども達はなぜか日本語を知っていた。そしてなぜかボールペンをねだる。だが他の土地ほど喧しくはない。

リクシャワーラーさんと 「サヨナラ――ボールペン――コニチワ」
 
 お嬢ちゃん、それは、サカサマだよ?

 少しく観光したが、ついて来た子ども達に、あげれるだけの筆記用具をあげた。初めて勉強道具をねだられて、少し嬉しかったのだ。

 木々の緑は、湿り気を帯びて、その濃さを増していたようだ。曇りがちの空の下、奇妙なほどに静かな場所だった。
 ただひたすらに、緑が潤っていた。

 後で知ったことだが、ブッダはクシナガルへの最後の旅に出る時、この地の緑を見はるかし、
『世界はとても美しい。命とはなんと甘美なのだ』
 と、感嘆したという。

 ヴァイシャリーを去り、ジープなどを乗り継いで、パトナに着いたのは日没後だった。

その28.【……すられた!】 1996/09・パトナ

 パトナ、ここも宿が無い。外国人と見ると、即座に断られる。
「じゃあオレの泊れるトコ、教えて」と聞いて、なんとか見つけることができた。

 一夜明けてパータリプトラの遺跡を観光する。
 だが……雨季。遺跡はただの池になっていた。ここでオレの見たものは、石柱一本とそのカケラだけだった。ホントにマウルヤ朝やグプタ朝の王都だったのか???

ガンバレ牛さん
 途中で牛のカップリングに出くわしたが、こっちの方がオモシロかった。しかし、道端で交尾させるかなぁ。

 次を急ごう。ナーランダへ。
 バスターミナルに行くと、人が右往左往してる。オカシイ。警官もウロウロしてる。アヤシイ。
 英語のできる人に聞くと、モーリシャスの総理大臣が来ていて、道路が封鎖されているらしい。

 ――またアンタか――!!

 実はデリーでも、この総理大臣の来訪で道路は封鎖、オレが見たかったマーケットも彼の見学で入れなかったのだ。いい加減にしてくれ――。

 しかし、相手が国賓ではしょうがない。バスをあきらめ、鉄道にする。

 パトナ=ジャンクションのホームは人で埋っていた。
 バスがまったく利用できない今、当たり前と言えば当たり前だった。

 食糧を買って間もなく、超スシ詰めの列車が来た。
 屋根にも人がわんさか乗っているので、ホントに"超"だ。――これに、乗るのか?

 オレは両手に食糧を持ったまま、なんとか乗ろうとした。しかし、あまりの人垣、なかなか列車に近づけない。

 オレに捕まろうとして? 腹の辺りにヘンな手が伸びてくる。なんかカリカリやっている。
「鬱陶しい!」とばかり、はねのける。
 数秒後その手は、オレのウエストバッグのチャックを開けることに成功し、財布をもぎ取っていった。



 叫んだ。



 他に落ちたペンやノートを、子どもや人が取ろうとしていた。
「アホウ、返せこら!」
 そうこうしているうち、列車は過ぎ去っていった。

 さんざん叫び倒した後、落ち込む。



 落ち込んだまま、GRP(警察詰所)に向かう。
 中の現金は大した事無い。たったの700ルピーだ。
 困ったのはその中にクレジットカードと、運転免許証(日本の)を入れていたこと。(まったく、バカじゃなかろうか。)

 GRPで、書類を書く。と言っても、書式も分からず、頭も回らない。そう言うと、「じゃあオレの言うとおりに書け」と言ってくれた。
 "some miscreants used to gether..."ん? なんだ?
  (後で辞書を牽くと、『〔古〕不埒な輩』だそうな。うむむ、インドでは現役の言葉らしい。)

 それにしても、クレジットカードが一番イタイ。みやげにシタールとタブラーを買いたかったのに、うっうっ……。

 モーリシャスの総理大臣の外遊とバッティングしたこと。
 異常な人ごみの中で、無理やり列車に乗ろうとしたこと。
 両手にバナナやら、物を持っていたこと。
 カギを、たまたまウエストバッグから外していたこと。
 スリの手を、一度は払いのけたのに、警戒しなかったこと。

 条件がどれか一つ欠けていれば――スラらずに済んだのだ。

 しょげていると、警察官が、
「そんなにショゲてないで、インドの女のコと結婚すれば?
 ??? どーゆー慰め方なんだ?

「あー、知らないな? インドの女のコは、去年ミス・インターナショナルで優勝したんだぜぇ!」
 ……ナニ!? それは聞き捨てならん。
 なんとか慰めようとしてくれているのが分かり、オレも少し気を持ち直した。

 で? 写真を撮ってくれって? ハイハイ。

パトナ=ジャンクション・GRPs

その29.【ホームの子ども達】 1996/09・パトナ

 財布をスラれて、まったく意気消沈していた。

 憤慨、反省、落胆。

 しかし、カード会社に連絡しなければ。当然、このままナーランダを目指す訳にはいかない。
 パトナで始末をつけれるかどうか。カードを無くしたこと自体、初めてだ。ここはなんとなく地の利が悪い。

 せめてバラナシなら――キャッシングをした銀行が、バラナシにはある。電話屋も街中にある。久美子さんに相談できるのも、心強い。そうだ、カトマンズで再会した『隊長』も、バラナシに戻るって言ってたな……。

 戻るか。バラナシへ。

 エクスプレスに乗れば、一本で夜にはバラナシだ。とりあえず切符を買いなおし、今は閑散としたホームのベンチに腰を下ろし、ひたすら待つ。

 待っている間も、財布のことしか頭に無い。煩悶を続けていた時。
 ――突然、浮浪者(?)の少年がやってきて、オレの前に寝転んだ。

ホームの少年  何なんだコイツは。ホームはガランとしている。なんで、わざわざオレの前に寝転ぶ……?
 オレは彼を見つめる以外、することが無くなった。

『なんや? オレも金が無くなったら、こうするしかないゆうことか? 今のところ立場はちょっと違うようやけど……実は意外と似たようなもんかも、しれんなぁ』

 ほのかな親近感を、この一期一会のゴロ寝少年に感じはじめていた。
 
 一、二時間もして、オレがバナナを食っている頃、少年はようやく起き上がった。彼が手を差し出したので、オレは残りのバナナの束を丸ごとあげた。
 彼は少し怪訝な顔をしたが、黙って(なんと!)お辞儀をし、立ち去った。

 汲々とする自分に比して、あまりに雄大な夕焼けも、終わった。
 この頃になると、遅れている列車を待つ人で、また混雑し始めていた。
 トランプをして遊ぶ若者達、家族連れ、うずくまる老婆、

 そして、ガキドモ

 このホームを居場所にするストリート=チルドレンだろう。
 バクシーシ、バクシーシ(=『喜捨を!』)とウルサイのなんの。

「金スラれたから、ナイの! ナヒーンだ」
 日本語で対応していた。もう面倒くさかったのだ。

 一人の子どもは自分のシャツを捲り上げ、腹の大やけどの痕をこれ見よがしに擦り寄ってくる。
『どうだい、僕はかわいそうだろ?』ってとこか。
 正味イライラした。本当に、かわいそうだ、
「ええか……、オマエはそんなことをする必要はないんやっ!
 シャツを下ろしてやる。が、これが彼の口を糊する唯一の有効手段なのだろう、なかなかやめてくれない。

 何もあげないのに、何故か子どもはどんどん集まってきた。
 こうなると、よけいに何もあげられないのだが……、口々に食いモンだとか金だとか、言いたい放題。

 遊んでやれば気も紛れるかと思い、簡単な手遊び(鼻ツマミ)を教えてあげた。みんな面白がって、しばらく遊んでいた。よし、子どもは子どもらしく、ネ。

「オモシロかったから、教わり代、よこせ
 一番頭の回る子が、のたもうた。
 何を言っとる。授業料をよこすのが、フツーだ。


 エクスプレスは、5時間遅れて到着した。

その30.【ツカミはオッケー?】 (コラム)

 かの猿岩石がタモリに、「(ユーラシア大陸横断ヒッチハイクで)何が一番怖かった?」と聞かれ、即座に二人、声を合わせて答えた――「インド人」。
 旅行者によっては、「滅ぼしたい(←ヒドイなぁ)」と言い出すほど、鬱陶しいこともある、インド人。

 しかし! なるたけ彼等の立場からも推測・理解し、こちらからも愛嬌をみせて、どうにか(ラクに)いい関係を築けるよう、頑張ってみよ〜、というコラム。


追い払う。

 ――とりあえず、『滅ぼしたい』なんて感情を持つというのは、どうにも悲しいことです。この土地に育まれ、この土地の文化を育んできたのは、まさに、そのインド人なのに……。そんな最悪の印象を、まずは回避するところから。

  • 呪文1
     日本人が出会う大半の、イライラするようなインド人は、旅行客向け仕様のインド人。ごく一部の特殊な人々です。大都市に出てきて金を稼ぐのに必死の人も多いでしょう。中には我々を札束としか思っていない人も――。
     そんな時、ひとことぼそっとつぶやいてみると効果大。の呪文:
    アイ・ケイム・フロム・ホンコン!
     みんな「ゴメン、間違えた」と言って、蜘蛛の子を散らすように消えていく……。
     ("日の丸を背負って" 旅するなら、使えんか??)

  • 呪文2
     「チャロ」:ヒンディ語で「去れ」「行け」。
     むしろ大阪弁の「はよいね」とか、犬用の「シッ、シッ」に近いと思います。
     ほとんどケンカを売ってるみたいなモンなので、シビアな言葉です。自分が相当怒ってる時以外は、使用しないほうがいいです。
     (ん? そう言えば女の子が「どいて、どいてー」ぐらいの意味で使っていたかなぁ……??? インド通の人、どう思います?)


  •  効きめはほとんどないけど、普通に「ナヒン」。ヒンドゥ語で「NO」。
     相手にしない。無視。という呪文もあるが、ヒマな人はついてくる。
     首を締める、殴る蹴るとかは、いくらなんでもヤリ過ぎ。

 ――これらの呪文は術者及びインド人次第で、効き目が変ります。


勘違いをなくす。
  • イエス?
     ボディランゲージで、"はい"と首肯する時、インド人は顎で返事します(しかも横斜めに)
     これを『当たり前じゃねーか、バカじゃねーの』風に受け取ってしまうと、かなりムカつきます。相手が大人だと(背も高いし)、よけいふてぶてしく見えたりもしますが……。
    『いや、まーね♪』風に、彼等独特のテレだと、ムリヤリ解釈しちゃいましょう。
    (子どもが「ナマステ〜」と言って首を傾げるあのカワイイ動作と、根本は同じはずです。)

  • 侮り難し、インド英語。
     とにかくrがルです(よく聞くのは"フェアール(Where)?"かな?)。他、とんでもなく訛ってます。
     これらは伊藤武著「語るインド」にあったのですが、『文字が文字通り読めなくて何のための文字なのか』、『文字には言霊が宿っていて、決しておろそかにすることはできない』という思想が根底にあるからだそうです。
    (これを聞いて、さらにバカにする人もいるから、困ったモンだ。ナニ様のつもりなんでしょか? 英語も元々は、インド=ヨーロッパ語の一方言にすぎないはずなんですがねェ?)
     ――もちろん、多様性の一つとして面白がるのは、大賛成!

  • 値切りすぎず、ボラれすぎず。
     とにかくボります。それがインド商人。
     しかし、『日本人は金持ちだ』、『金持ちは高く買うべきだ!』的な風潮があるから、ある意味、フェアトレード。店屋では、騙すつもりの無い人の方が多い気がします(タクシーやオートリクシャー、不穏な土産屋等は除く)。

     後で旅仲間に安い値段を聞いても、うだうだ後悔しないように。(でも、結構後悔しますよネ、コレ。)
     マレに、そら恐ろしいボラれ方をする人がいますが、これはさすがに、後の旅行者に要らぬ迷惑をかけることがあります。難しいトコロですね。

     それとは反対に、値切りすぎるのも考えモノです。ハードな道です。時間もかかります。感謝もされません。
     正直な商人が、初めからかなり安い値を言っている場合もあります。それを歴然たる金持ちが、さらにチビチビ値切るのというのは、どうもオススメしかねます。
    『日本人てヤツは、金の亡者か……?』という不評も買いかねません。これもある意味、後の旅行者、いや日本全体に迷惑かも……??

     まあ、結局は自分の旅なので、最初は苦労すると思いますが、自分なりの『中庸』――を、見つけてみてください。

ウケを狙う。
  • インド音楽
     流行りの映画の歌の一節を唄うと、えらく喜んでくれます。何べんも唄わされたりします。ほぼどこでも使いまわしが効き、オトクです。

  • コーイ・バット・ネヒン
     インド人が彼等の大好きな「ノォープロブレム!」攻撃をしてきたら(そして自分にとっても問題が無かったら)、すかさずヒンディ語で合の手を入れてあげましょう。
    「ホホ、コーイバットネヒン、ムフフ」と、不気味にほくそ笑んでくれます。
     なお、問題アリの場合、「イッツァ・プロブレム!」と怒鳴りましょう。

  • "現地語"
     これはヒンディ語だけの話じゃないです。タミル語など、インドの地方それぞれの言葉を、挨拶程度に覚えておくと、いいです。(メモを読んでもオッケーです。)
     これだけで(とくに南インドや田舎では)、かなり相手の郷土愛をくすぐっちゃいます。
     (ちょっと見方を変えると、自己防衛でもある。日本人をボりまくるために日本語を覚えるインド人がいるのだから、インド人にボラれないために現地語を覚える日本人がいてもいい。)

  • タバコ(喫煙者のみ)
     タバコを一本、リクシャワーラーにオマケしてあげましょう。意外と喜ぶ。 (口に喫する品物のプレゼント・共有は、ヒトの無意識に訴える。)
     後付けの金をせびってきても、これで回避?? どうせ切れちゃう日本のタバコをオマケ用にすると、効果倍増。
     ただし、ビーリー(安価な喫煙嗜好品)をあげた日には、ビィーリィ――っ!?」と思ッきしバカにされ、あげく『いらん』と断られたりします。

 よい旅を、よき出会いを。

(※ このコラムは、ほぼ自分の経験のみで書いています。故に、一般的ではないかもしれません。)

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