財布をスラれて、まったく意気消沈していた。
憤慨、反省、落胆。
しかし、カード会社に連絡しなければ。当然、このままナーランダを目指す訳にはいかない。
パトナで始末をつけれるかどうか。カードを無くしたこと自体、初めてだ。ここはなんとなく地の利が悪い。
せめてバラナシなら――キャッシングをした銀行が、バラナシにはある。電話屋も街中にある。久美子さんに相談できるのも、心強い。そうだ、カトマンズで再会した『隊長』も、バラナシに戻るって言ってたな……。
戻るか。バラナシへ。
エクスプレスに乗れば、一本で夜にはバラナシだ。とりあえず切符を買いなおし、今は閑散としたホームのベンチに腰を下ろし、ひたすら待つ。
待っている間も、財布のことしか頭に無い。煩悶を続けていた時。
――突然、浮浪者(?)の少年がやってきて、
オレの前に寝転んだ。
何なんだコイツは。ホームはガランとしている。なんで、わざわざオレの前に寝転ぶ……?
オレは彼を見つめる以外、することが無くなった。
『なんや? オレも金が無くなったら、こうするしかないゆうことか? 今のところ立場はちょっと違うようやけど……実は意外と似たようなもんかも、しれんなぁ』
ほのかな親近感を、この一期一会の
ゴロ寝少年に感じはじめていた。
一、二時間もして、オレがバナナを食っている頃、少年はようやく起き上がった。彼が手を差し出したので、オレは残りのバナナの束を丸ごとあげた。
彼は少し怪訝な顔をしたが、黙って(なんと!)
お辞儀をし、立ち去った。
汲々とする自分に比して、あまりに雄大な夕焼けも、終わった。
この頃になると、遅れている列車を待つ人で、また混雑し始めていた。
トランプをして遊ぶ若者達、家族連れ、うずくまる老婆、
そして、
ガキドモ。
このホームを居場所にするストリート=チルドレンだろう。
バクシーシ、バクシーシ(=『喜捨を!』)とウルサイのなんの。
「金スラれたから、ナイの! ナヒーンだ」
日本語で対応していた。もう面倒くさかったのだ。
一人の子どもは自分のシャツを捲り上げ、腹の大やけどの痕をこれ見よがしに擦り寄ってくる。
『どうだい、
僕はかわいそうだろ?』ってとこか。
正味イライラした。本当に、かわいそうだ、
「ええか……、オマエは
そんなことをする必要はないんやっ!」
シャツを下ろしてやる。が、これが彼の口を糊する唯一の有効手段なのだろう、なかなかやめてくれない。
何もあげないのに、何故か子どもはどんどん集まってきた。
こうなると、よけいに何もあげられないのだが……、口々に食いモンだとか金だとか、言いたい放題。
遊んでやれば気も紛れるかと思い、簡単な手遊び(鼻ツマミ)を教えてあげた。みんな面白がって、しばらく遊んでいた。よし、子どもは子どもらしく、ネ。
「オモシロかったから、
教わり代、よこせ」
一番頭の回る子が、のたもうた。
何を言っとる。
授業料をよこすのが、フツーだ。
エクスプレスは、
5時間遅れて到着した。