多分、夢を見たのだと思う。
ナツミの元に行こうと、無謀だと知りつつ、休みもせずに儀式を続けていたから、疲労は相当溜まっていた。
………………
…………
……
荒野の中に、ぽつん、と大きな魔法陣があった。
何のためのものか、何者を召喚するための物なのか、キールにはすぐに分かった。
『召喚術』だ。
その中心に、少年が一人………
それが「自分」だということも、すぐに分かった。
……………彼は、ただ一心に念じ続けていた。
魔王の降臨。
ただ、それだけを祈って。
それは、彼の父親の悲願であり、彼の生きる意味であった。
あの頃は、そうだったな。
魔王を召喚した結果がどうなるかなんて、考えもしなかった。
この儀式が成功していたら、真っ先に犠牲になるのは、サイジェントの人々だっただろう。
あんな、優しい人たちがいる事なんて、自分は知ることも無く終わっていただろう。
儀式が失敗に終わった当初は、自分を責め、何故失敗してしまったのかと無念にも思ったが、
今となってみればそれでよかったのだと、失敗していてよかったと、心底そう思う。
……………彼は、ただ一心に念じ続けていた。
魔王の降臨。
ただ、それだけを心に置いて、他の全てを排除して。
派閥の召喚士に囲まれ、一心不乱に儀式を行う自分。
「自分」がそうである事に気付いて、キールは怖くなった。
ただひたすら、儀式の手順のみを考えて、着実に進めていく。
……………おかしい
この「自分」は恐怖なんて感じもしていないように思える。
儀式の成功を確信しているし、このままだと間違いなくそうなるだろうと自分にもわかる。
このままだと、失敗するはずが、無い。
…………成功する。
………………………成功したら?
ナツミはこの世界に召喚されることも無く、
自分はナツミと、そして、皆と出会うことも無い。
嫌だと思った。
本気で恐怖を覚えた。
助けてくれ!
気付いたら叫んでいた。
このままだと壊れてしまう
そう、自分が出会ってきた全てが。
何もかも消えてしまう。
自分の大切な人たちが。
全て、自分と出会うことも無く。何もかもなくなってしまう。
「自分」の事なんてもう分からなかった。
ただ、ここに来なければならない人の名を呼んだ。
……ナツミ!!!!!!
まばゆい光、そして轟音。
それが収まって、しばらくの間をおいて、
自分の意識があることを確認して、キールは目を開いた。
見知らぬ景色の中に、ナツミが居た。
その表情から、自分が知っていて、自分を知っている彼女だと分かって、それで、今のは夢だったんだと思った。
そして、自分の試みが成功に終わったのだと思った。
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