日の光が降り注ぐベランダ。
頭上には生徒会室の窓。

そこに座り込んで、少し沈黙が訪れたところで、
ナツミは小さく溜息をついた。
とりあえず、キールを連れて学校を出るなら服を変えないと。とここまで来たのは良いが、
学校を出たとして、それからどうするのだと思ってしまったからだ。

折角会えたのだから、できるだけ長く一緒にいたい。
でも、きっとそんなに長くはいられない。
考えたくはないけれど、きっと、すぐに別れを告げなくてはいけなくなる。
そう思って、くしゃっと顔を歪ませては、これではダメだと目を見開いて、ぐぐっと口角をあげてみたりする。

そんなナツミを見て、少し考えてから、さっき夢を見たのだと、キールが語りだした。

魔王召喚儀式の夢。

成功させてしまいそうな自分が恐ろしくて、それでナツミを呼んだのだと。

「サイジェントにいるみんなが、死んじゃうのが嫌だったんだ?」

話を聞き終えたナツミが、少し目を細めて言う。
自分がいなくとも、キールには皆がいてくれると思うと、安心できる。
別れを告げた後の事を考えている自分が嫌で、それを隠すように、少しからかうような調子を作った。

「ああ、少し驚いたよ。直前まで、ずっと君に会う事だけを考えていたから。
 皆の事を思い出して、皆が死んでしまうのが嫌だと思った。
 僕は…皆の事が大事なんだと分かったよ」

キールはちらっとナツミを見て、なんだか全部気付いてるような顔をして答えた。
少し憎たらしく思えたが、今の話を聞いてちらりと頭の片隅に浮かんだ事を、軽いノリで話してみることにした。

「うん、よろしい。
 ね、前に、きっとキールがわたしを呼んだんだって話してたよね。
 もしかしたら、さっきのは夢じゃなくて、本当に今のキールが、わたしを呼んだのかもしれないね。」

「そうかもしれないな」

「え?」

軽く言ったつもりでいたのに、驚くほど真剣な表情でキールが頷くので、ナツミは驚いた。

「あの頃、僕は君の事を知らなかった。
 誰かが死んでしまうことや、自分が死んでしまうことだって、どうでもいいと思っていた。
 それなのに、助けを呼んだ筈がないよ。
 でも今の僕は知ってる。過去で、今の僕が。なんておかしな理屈だとは思うけれど、
 だけど、君を召喚するなんて、今の僕にしかできない。」

自信に溢れた言葉と真剣な表情に、そうかも。と思う。すこしどきっとした。
そして、少し笑いながら告げられた、次の言葉にぶっとんだ。

「同じ様に、僕を召喚することだって、今の君にしかできないよ。」




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