「ごめん、フェア。この花の世話なんだけど、毎日水をやればそれでいいのかな?」
「ああ、それリシェルに貰ったやつね。
わたしが世話するから、部屋の窓辺に置いていてくれたらそれでいいわよ」
かわいらしくリボンを結んだ鉢を抱えて来たアルバが、少し困惑気味に訊ねてきたのに、フェアがそう返すとアルバはとても驚いた様子だった。
「なんで、リシェルから貰ったって知ってるんだい?」
「だって、助けてもらったお礼にするから、面倒見てあげてくれって頼みに来たもの。
シーツとか替えるついでにやるし、ミントお姉ちゃんのお世話メモもあるから、心配しないで」
「だ、駄目だよ。おいらが貰ったんだから、ちゃんとおいらが面倒見るよ。」
「そう?それじゃ、はい。これ、お世話メモね。
ところで、アルバってカネル好きなの?」
大事そうに鉢を抱えて慌てて言うアルバに、メモを渡しながら、フェアが訊ねる。
「好きだよ。思い出がある花でもあるし。なんでそんなこと聞くんだい?」
「アルバ、じきに旅に出ちゃうのに、なんで鉢植えなんだろうって思って、聞いてみたの。
そしたら、ミントお姉ちゃんがね、リシェルが
『アルバはカネルが好きだと思うから、花が終っても大丈夫なように鉢植えにして』
って言ってきたっていうから、本当にそうなのかな?って思って」
「へえ。驚いたな。なんでわかったんだろう。
でもそうか、わざわざ鉢にしてくれたんだから、ますます大事にしないといけないな」
そう言って花に目をやる。
ミントの家の庭に咲いていたのを、懐かしかったので、よく見ていたような気がする。
誰にも言ってはいなかったので、自分がカネルを好きなのだと気付いたのだとしたら、多分それでわかったのだろう。
しかし、見ていたにしても、ずっと見ていたというわけではない。よくそれで気付いたものだ。
「すごいなあ。リシェルは」
つぶやいて笑う。
子どもの頃、花を探しにいった思い出と同じように、この鉢植えを貰ったことを忘れないだろうなと思いながら。
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