「リシェル。この鉢植え、貰ってくれないかな」
そういって、初めてブロンクス邸を訪ねてきたアルバが、小さな鉢植えを差し出した。
「これって…」
「うん、リシェルから貰った、カネルの鉢植え。
宿に植えてくれって頼もうかとも思ったんだけどさ、リシェルに貰って欲しいと思って」
「あたしが貰ったって、結局宿に植えるかもしれないわよ?」
「それならそれで、構わないさ」
「嘘。大事にするわ。ちゃんとあたしが面倒見るから、安心して」
「おいらがいない間、フェアとミルリーフのこと、よろしく頼むよ」
「まかせておいて」
いつかと逆のやりとりを交わして、目を見合わせて笑う。
「ねえ、アルバはカネルの花が好きなの?」
アルバは明日、再び旅立つ事になっている。
好きなんだろうとは思っていたけど、そういえば、聞いていなかった。
こんな他愛ない事だって、聞くならもう今しか機会がないと思って、リシェルは訊ねた。
「ああ、おいらが一番好きな花だよ。家族との思い出の花で、おいらが初めて、女の子から貰った花で、リシェルとの思い出の花さ」
照れくさそうに笑いながら、少し赤い顔でアルバはそう言った。
少し赤くなってリシェルも言う。
「そうね。あたしにとっても、好きな花になったわ。初めて男の子から貰った花で、アルバとの思い出の花よ」
もう一度目を見合わせて、笑い合った。
<<3:アルバが花をもらった直後
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