「悪い、錫也。明日クッキー作ってきてくれないか?」

最近ずっと、思いつめたような顔で、購買の食品を食べ続けていた幼馴染の七海哉太が、そう言って来たのは昨日の事。
久しぶりだし、購買生活も随分と堪えていたようだしと、いつもより心持ち丁寧に作ったクッキーを渡したのが今朝の事。

「おおっ!何かいつもよりうまそうじゃん!ありがとな、オカン!」

とても嬉しそうに言うので、先日、月子から聞いた非常食発言を問い詰めてからかうつもりだったのを、
あくまで方便だったのだろうと聞き逃しておいてやることにした。


そして、放課後。

たまたま見かけた哉太が、あまりにそわそわしているものだから、
一体何なんだと、曲がっていった廊下をひょいと覗いてみて、錫也は頭を抱えたくなった。

そわそわしながら待ち伏せして、先輩これ…!ってクッキー渡すって、哉太くん。
きみ女子中学生か何かですか…。

しかも、渡してる相手、あの人だし。


状況を理解した瞬間に、その場を離れたのでその後の会話は聞いていないが、
その一瞬で、クッキーを渡すことになった事情に察しがついてしまった。


「俺は馬鹿だな…」

見るんじゃなかった。

哉太が月子や自分の時と同じように、そわそわして一生懸命プレゼントを考えていたのだと気付いて、凄く嫌な気分になる。
拘ってる自分が馬鹿みたいじゃないか。
そして、誕生日を覚えていた自分にも、それでよりによって自分が作ったクッキーを渡す哉太にも、腹が立つ。

今自分が物凄く嫌な気分だというのを、自覚する事で、更に嫌な気分になる悪循環。
こういう時には、何か料理でもしないとやってられない。
そうだ何か作ろうそうしようと、呟いて、メニューを練り始めた。


<<2:一番おいしいのをあげたい。

>>4:八つ当たりだけど、不味くはないよ。

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