Preface/Monologue2025年 10月


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塩田平から子檀嶺岳を遠望する

ここまでのCover Photo:塩田平から子檀嶺岳を遠望する

1 Oct 2025

映画『ザ・フー キッズ・アー・オールライト』を観る。 1979年に製作完了したものの、日本では映画館未公開だったものの初上映。

一昨日のツェッペリンに引き続き、大画面大音量のロック映画だが、映画版”tommy”でファンになり、アルバム”Quadrophenia”で十代半ばを生き抜いた(というのは大げさかもだが)身としては、観に行く一択。


(以下、説明をいろいろ端折って書きなぐっています)

いやキースとジョンが動いているだけで感無量・・・。若いころのキースのドラムはスティックさばきが本当に凄い。華麗と言ってもいい。「華麗」なんてキースに最も似つかわしくない言葉だろうけど。映画のクライマックス、”無法の世界”で特に明確なジョンのベースの運指がまた凄い。ベースなのにネックの上端から下端まで瞬時に動かす。素人耳には聴いてるだけだとまるでわからないがああやって出していたんだ音を。

この”無法の世界”のライブ、ピートがやたらと飛び跳ね、乗りに乗っている。幼少期にバレエを習っていたという身のこなしが見ていて楽しい。ステージパフォーマンスではロジャーは負け気味だが、ヴォーカルは力強い。あのシャウトは大迫力。ついでにピートが手前に膝スライディングしてきてこれまた感激。キースのドラミングも若いころほどではないけれど見ごたえ十分。

ウッドストックフェスでの”シー・ミー、フィール・ミー”、ビデオでも見ていたしCDでも聴いていたが、終盤、ロジャーの声が聞こえないところがある。どうしたのかなと思っていたが、今作でもその映像が流れ、どうやら一時的に喉が不調になったらしいと初めてわかった。ピートとジョンのバックヴォーカルに任せて一コーラス分休んで復活したけれど、ピートが心配そうにロジャーを見ていた。


ツエッペリンの映画はメンバーが現在の姿を画面に現わして言葉を紡いでいたが、『キッズ・アー・オールライト』は記録映像をひたすら繋いでいる。最も新しくても50年近く前。メンバーたちの若い姿、4人のうち2人は生前の姿が出続けている作品を観終わって、だいぶ寂しい気になってしまった。そういうものなのだろう。ピートもロジャーも長生きしてくれ。

3 Oct 2025

ようやく鎌倉に行く気になる涼しさに。

この5月に結願した鎌倉三十三観音霊場巡りのお礼参りとして、一番札所の杉本寺へ。平日だからか、修学旅行的な小学生の小グループを除けば外国からの参拝客ばかりがやってくる。鎌倉最古の寺ということで訪れるのだろう。このお寺は内陣まで入れると初めて知った。見上げる前立ての仏像が威厳あって気が引き締まる感触に。

杉本寺からは荏柄天神社の近くへと続く道に入り、いつも人出が多い鶴岡八幡宮の境内を横切って北鎌倉に続く車道に出る。巨福呂坂洞門を抜けて向かったのは春秋に限定公開される長寿寺。本堂や書院の表や裏にある庭園が禅寺らしい端正なもので、室内のそこここに用意された座布団や椅子に座って開け放たれた軒先から眺めていると、たとえ北鎌倉を走るエンジン音が響いてきたとしても、とても気分が良いままでいられる。紅葉の時期になると賑やかすぎるだろうから、人の少ないこの季節でちょうどよいというものだった。


長寿寺に参拝する前に、八幡宮の脇にある神奈川県立美術館の鎌倉別館に寄った。何を展示しているかと気になったからだが、「彫刻に触れる展覧会」というのが開催中で、観覧料250円。その値段ならハズレでも悔いなしと入ってみた。ブロンズや木や鉄の作品を、薄手のゴム手袋をしたうえでだが、好きなだけ触れることができる。木は家でも山でもよく触れる機会があるのであまり珍しいものではないが、磨き上げられた金属の立方体とかは冷たさも含めて新鮮な感触だった。「官能的」という言葉は、やはり触覚が一番当てはまるんじゃないかな、とか考えたりも(お寺巡りの最中なのだが)。傾けると湧き水のような水音がする筒というのもあって、音楽家のかたが製作したらしい。これは一つほしいくらいだ、売り物でないのが残念。鎌倉別館、立ち寄って正解だった。

5 Oct 2025

東武東上線に乗って小川町へ。慈光寺周辺の金嶽、都幾山に登る。


白石車庫行のバスに乗って切通しバス停で下車。目の前にあったコンビニは残念ながらだいぶ前に閉店してしまったらしい。笠山参道に沿って南下し、途中で参道と別れ、さらに南下して慈光寺の巡礼道に入ろうとするも入り口が判然とせず。「ここかな」と思える場所があるも、蜘蛛の巣が多そうで行く気がせず、車道をひたすら上がることにする。

”ときがわトレッキングコース”の通る稜線に出てようやく山道に。金嶽は、頂上まで植林の展望のない山頂。緩やかな南側の山道にところどころ岩が出ているところがあり、まるで磐座のよう。そこで腰を下ろし湯沸かし休憩。まわりは杉林だけど静かで落ち着く。


金嶽と都幾山の鞍部からトレランのランナーが続々と追いついてくる。追いつかれるたび脇にどいて先に行かせるので歩みがややはかどらない。金嶽同様に植林の山頂だった都幾山で本日がトレラン大会の日と告知された張り紙を見つけ、そうと知っていれば別日か別ルートかにしたのにと思ったけれどもう遅い。このときは中高年のかたが多かったけれど、みな体幹と足腰が頑健。よく転ばないものだ。


都幾山からは巡礼道を下って金嶽川に出ようと思っていたものの、車道から山道にはいるところから蜘蛛の巣だらけで不快そうなので断念。登り同様に車道歩きに専念していたら、小川町に向かうつもりが反対方向のときがわ町に出てしまう。山道より車道のほうが間違いやすい。というか地図をよく見てなかったな。松岡醸造のレストランで甘酒を飲むのは、またお預けに。

場所はすでに川のほとり、小川町へは下ってきた車道を登り返さなければならない。そんな元気はもうないのであきらめてほぼ川沿いに八高線の明覚駅へ。駅では観光案内ブースのようなものができていて、そこで慈光寺入り口行きの町営バスがこの一日から運行開始されたと教えられる。それはいい、都幾川周辺の山を計画するのが楽になる。この冬にでもぜひ。

10 Oct 2025

連れと精進湖へ。精進自然観察路を歩く。

当初は山に登ろうと思っていたものの、連れの調子が上がらず低いところを短時間。赤池交差点近くに湖畔展望台があり、ここに僅かながら駐車スペースがあったので車を駐め、国道139号線山側の歩道を西に歩いて観察路入り口に着く。入り口と言っても車道の湖側のガードレールが切れた先の林内に案内板があることで気づくほどのそっけなさ。入るにしてもこちら側のガードレールを跨ぎ越して車の往来のある車道を渡って行かねばならず、小さな子供連れだとかなり注意が必要だろう。

自然観察路は富士山の溶岩流の上を経巡るもので、歩く部分は整地されていて岩に足を取られるということはなかった。湖畔近くを行く道のりは木々が明るく、コケに覆われていたりいなかったりの溶岩がそこここで盛り上がり、精進湖の湖水に洗われている。深い入り江を見渡すところでは岸辺の草が秋色に染まりだし、秋の風情を感じさせる。

反時計回りに歩くと観察路は精進活性化センターなる施設の脇に出る。ここから赤池まで森の中をどのようにたどるのかわからず、センター敷地内に入ってみると体育館のような建物のある奥に森の入り口らしきがあり、そこからコースが続いていた。やや山側に入ったせいか、森は少々暗く、冷え固まった溶岩流はそこここでクレバスのような裂け目を造り、数メートル程度とはいえ荒々しい崖を見せつける。そういう個所を避けてコース取りをしているため、うねうねと歩くようになっていて長く歩いているような感覚になってくるが、実際のところは休憩込みで一周しても2時間程度だった。

歩き出した頃は湖を取り巻く山々の稜線はガスに覆われていたが、戻ってきてみると晴れていた。しかし富士山は終日雲の中だった。


精進湖北岸には広い無料駐車場があって、その中央に精進マウントホテルというホテルが建っている。たまたまこの駐車場に寄ったところ、どこかで見たことがある建物だなと思っていたら、連れがこれはこの1-3月に放映されたTVドラマ”ホットスポット”の舞台では、と興奮気味に言う。まさかそんなと調べてみたらそうだった。これはびっくり。近隣にはドラマの中で登場人物たちが買出しにでかけたコンビニもある。昼食を食べに入ったレストランは、ドラマの舞台にはならなかったそうだがロケ弁を頼まれていたとのことで、”宇宙人”役の役者さんのサイン色紙が置いてあった。山歩きに来たのが、気づけば人気ドラマの聖地巡りにもなってしまっていたのだった。

11 Oct 2025

山を越えた甲府市内で一泊し、武田神社に詣で、武田の杜遊歩道をほんの少し歩く。

10年ぶりに訪れた神社は水琴窟の水が止まっていた。神社近くにある竜華池堤防への階段道は当然ながら完成していて、すぐ近くにある橋も通れるようになっていた。本日はこの池を取り巻くようにだけ遊歩道を歩いたが、天気がすぐれてなかったせいか誰もおらず、あちこちに蜘蛛の巣がかかっていた。

神社では時期柄、千歳飴を売っていて、連れが関東の堅いやつを食べたことがないと言うので数十年ぶりにあの長い袋を手にした。現物はその袋の長さの半分くらい。もっと長かったはずだが・・・。飴自体も手で簡単に折れるもので(場所柄、断面に武田菱が浮かび上がる)、子供のころに口にしたと思うキャンデー風ではなかったが、十分に美味しかった。しかし3本入りで500円か、ちょっと高めだな。

12 Oct 2025

川崎ミューザで楽聖の『田園』とストラヴィンスキーの『春の祭典』を聴く。

生オケで聴くのは初めての『田園』、鼻炎薬を飲んでいたせいか、第二楽章と第五楽章が冗長に聞こえてしかたない。生き生きとした第三楽章と、嵐を描写した第四楽章は眠気も醒める迫力なのだが。

『春祭』は何度目かだが、やはり見ても聴いても面白い。予測しがたい狂乱のリズム。この音はどの楽器が出しているのかと視線も休む暇なし。手持ちのCDとCDプレイヤーでは聞き取れない”ギロ”という楽器の音を初めて耳にした。ノコギリザメの嘴のようなものを洗濯板のようにこすり上げて音を出す。

大太鼓、ティンパニを初めとする打楽器はもちろん大活躍だけど、リズムを刻むのは弦楽器も管楽器も同じ、全てがリズム隊になっている。二部構成の曲のうち、第一部終盤の”Procession of the sage”と”Dance of the Earth”でのオケの停止がまた見事。静寂が生きた波のように会場を覆う。そういえば休泊もまたリズムなりか。

17 Oct 2025

富士急行線を挟んで三ツ峠山と対峙する倉見山へ。登山者用駐車場のある西桂町の町民グラウンドを起終点に周遊。平日だからか、好天の朝8時に歩き出して一人のハイカーにも出会わなかった。


中央自動車道を潜り抜けて出る厄神社から先の登路は、全般として考えると歩きやすい。出だしはヤブが被ったように見えるがすぐ終わる。北東から南西に延びる稜線に北西から登るので傾斜は急なのだが、山道は上手くつけてあって稜線直下の急斜面もさほど疲れないジグザグ登りで高度を稼げる。

稜線に出ると梢越しだが正面に三ツ峠とは違う幅広の山体が現れる。何だろうと思えば杓子山から鹿留山に続く山塊だった。その左手奥には御正体山の鯨のような巨体が控えている。さらに左奥を見れば今倉山の三つ頭も窺える。

稜線に出てすぐの山頂では切り開きから富士山。本日は素晴らしい好天で雲一つなく、頂稜右端に剣ヶ峰がそばだつのがはっきり見える。湯を沸かして休憩した倉見山山頂から岩がちのルートを下って10分少々で細長い平坦地があり、そこからは遮るものなく霊峰が見渡せる。


しかしここで楽しいのは国内最高峰の眺めばかりでなく、右手の裾野の先に立つ山々。彼方には悪沢岳、赤石岳、小さく台形に突き出している聖岳の姿が。その手前に足和田山が三角形の形佳い姿を見せ、その左奥に連なる毛無山から竜ヶ岳の天子山塊が南アルプスに負けない存在感を発揮している。

南アの右手、三ツ峠から伸びる稜線の上には荒々しい山頂稜線を連ねる十二ヶ岳、ちょこんと尖った節刀ヶ岳。その右奥に山頂部を覗かせる農鳥岳、間ノ岳。先ほどの道志の山々の眺めといい、倉見山はじつはよい山岳展望台なのだった。


この展望地から先、下っている気がしない道のりが続くが、アップダウンが少なく散策気分で歩けるよいルートだった。しかし石碑が二基立つばかりの堂尾山公園なる小平地から町民グラウンドに戻るルートに入ると、うってかわって陰々滅々な植林の山中を行く。足元もぐずぐずな山腹道もあり、半時ほどで明るい里近くに出るものの実時間以上に長く思える道のりだった。車で来ていなければ寿駅方面に出たほうがよいかもしれない。

24 Oct 2025

鹿沼の横根山周辺を連れと歩く。三枚石・方塞山と横根山との間にある前日光ハイランドロッジまで車で上がり、ここを起点に歩き回った。


昼前に到着したロッジの周辺一帯は牧場の草原が広がり、この季節でもまだ牛が放牧されている。まずはすぐそこに仰ぎ見られるレーダー施設を乗せた方塞山へ。牧柵の脇に沿って100メートルほど高度を稼げば山頂で、根本山らしきが牧草地の彼方に見える。牧場とは反対側の道のりは林床の見通しが良く、冷えた秋めいた空気が漂ってきていた。

同じように見通しの良い林のなか、緩やかな上下をわずかで三枚石。重厚な花崗岩と石碑石像が取り囲むなかで昼食休憩。鹿沼の”まちの駅 新・鹿沼宿”で買い込んだ赤飯やパンを食べ、豆をひいてコーヒーを淹れ、二人してご飯が美味しいパンが美味しいと繰り返す。かつて古峯神社から歩いて登ってきた場所にさほど苦労することなく連れといることがなんとも不思議だった。


往路をロッジに戻り、方塞山とは反対側の横根山へ。近ごろではガイドブックの部分地図を示す名にもなっている山だが、来てみると灌木が山頂部を取り囲んでいて、昔のガイドにある眺望の佳さは消失してしまったようだ。その先の井戸湿原へはやや下る。”湿原荘”を案内する標識が目に入るが、これはかつての避難小屋で、いまではただのあずまやになっている。

すでに時刻は3時、 午前中は晴れていた空は一面の曇天となり、湿原に差し込む光は陰ったようなものとなっていた。そろそろクマが活動し始めてもおかしくない時間帯なのでいつも以上に熊鈴を鳴らして歩く。”五段の滝”なるものが湿原東端の先にあるので足を延ばして見に行ったところ、積みあがった大きな丸石の隙間から流れ落ちる沢水が30センチから50センチの高さの小さな連瀑を成しているというものだった。なんともかわいい滝だ。


井戸湿原からは”象の鼻”なる展望地へと山道を上がり、未舗装道路に出た。そこからロッジまでは20分ほどだった。左手に広がる牧場の彼方に数時間前に登った方塞山が見える。歩く道のすぐ先の放牧地に黒い動物が見えて連れともどもぎょっとしたが、草を食んでいる黒牛だった。

象の鼻からは、天気が良ければ赤城山、袈裟丸山、皇海山、日光白根山に日光連山が見えるらしいが、このときは雲がだいぶ下がってきてしまっていて赤城山の裾野しか見えなかった。じつに残念。鹿沼に来る機会はまだまだあるはずなので、好天時に再訪する計画を立てて下野の名山群を眺め渡しに来ようと思う。


なお、前日光ハイランドロッジは建物はあるものの宿泊も食事提供も行っていない。コロナでダメになってしまったらしい。いまでは自動販売機も撤去されてしまっている。宿泊ができるような案内がネット上に残っているが修正がi行き届いていないようだ。有人の休憩所として開放されており、かつての受付があった建物ではストーブが焚いてあった。16:00には管理人が下山するので施錠される。泊まれるものなら泊まりたかったのだが・・・。


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