雑記帳


英国版新年の抱負 Part2
Part1からひきつづき、COUNTRY WALKING 2006年1月号(#221)の”50 GREAT IDEAS TO KICK-START YOUR WALKING YEAR(ウォーキング新年50の抱負)"という記事から、その後半を。


26 自然の音に耳を傾ける
 ”騒がしくない場所に行って息をひそめてみよう。耳をすませてみよう。鳥がさえずり、せせらぎが歌い、牧草地を歩き回る羊の鳴き声が遠くで響くのを聴いてみよう。半時ほど、もろもろのことから心を解き放ち、自然の奏でる柔らかな音色に耳をひたしてみよう。一週間のなかで最高の時間になること請け合いだ。”
美が壊れやすいもの、儚いものなら、静けさはそれ自身が美の分身かもしれない。防音設備でつくり出された静けさは、悪くはないが、美しくはない。


27 海辺を裸足で歩く

28 新しい通行権を行使する計画を立てる
 ”従来は立ち入り禁止扱いだったが新しい通行権の法律のもとで開放された地域のことを考えてみよう。行きたいと思いながら行けなくて、やっと思いが叶うことになったところは?これだけの娯楽が合法化されるのはめったにない。”
2005年10月末、ウォーカーにアクセスが認められていなかったイングランド西部と東部の地域が開放されたという(詳細はこちら)。これで全イングランドの共有地、オープンスペースがウォーカーにアクセス可能になったとのこと。


29 日の出を見るウォーキングをする
30 ウォーキングブーツを「車検に出す」
31 野生動物の足跡をたどることを学ぶ
32 盛大な日没を見るウォーキングをする
33 いつもとは逆方向に歩く

34 フットパス(歩行者用の道)の補修をする
 ”だれしも、補修が必要だったり障害物があったりするフットパスをみかけたことがあるはず。補修されていないものが多いのは、だれもしかるべき筋に連絡してないからだ。だからほかの人にまかせないようにしよう。あなたのためにとっておいてあるのかもしれないから。”
アスリートが競技場を大切に扱うのと同じく、ウォーカーも歩く道を大切に扱おう。


35 行き交う人に会釈する

36 最高の眺めを忘れないようにする
 ”「ポジティブ・ビジュアライゼーション」と呼ばれるものがある。素晴らしい眺めやステキな瞬間を満喫しているときに、なにか身体的な動作、たとえば親指を握りしめるとかを行う。この動作は「アンカー(碇)」と呼ばれるが、その特定の”瞬間”に人の心を(碇のように)つなぎ止めるという意味から名付けられている。つなぎ止めには何回かの体験が必要かもしれないが、じきにこの身体的な動きとリラックスした感覚とを互いに関連するものと無意識に覚え込む。家庭や職場でストレスが高じて危険区域に達しつつある場合、目を閉じ、この「アンカー」の動作を行って、心をカントリーサイドでの平穏なひとときに戻そう。ぜひやってみてほしい。これは効く。”
"positive visualization"という言葉は英文サイトでこそ目にしたが、日本では成功体験を事前に視覚化する「イメージトレーニング」としてのビジュアライゼーションが幅をきかせていて、ここで言われているようなヒーリングを主とした内容はあまり紹介されていないのではと思う。心を落ち着ける方法というのは古くからいろいろ考えられてきているもので、数珠や十字架に手をやるのもそうだろう。”人”の字を手のひらに書いて飲み込んだり、畳に”の”の字を書いたりと(いやこれは違うか)。心乱れることの多い世の中だが、できれば過剰なストレスとなる原因からなくなってくれればよいと思う。


37 農地を歩く
 ”農家への補助金支払い方法が変わったことで、ウォーキングの利益になるような経営方式に置かれる農地が増えている。つまり農家は補助金をもらおうとして歩行者用の通り道をつくり、歩行者は門柱や踏み越し段に「ここは歩けます」という標識を目にするわけだ。こうして2,000もの新しい道ができているので、これを使わない手はない。詳細はこちら。”
先の28と同じで、歩ける場所が増えた、広がったというのはウォーキング好きの人には朗報だ。しかし農地のなかに歩行者用の道を整備することで補助金を出すという方針が通るのだから、いかにイギリスでウォーキングが大切にされているかがわかる。


38 とっておきのお弁当を考える
39 何はおいても月に一日は歩くと決める
40 エネルギー源となる食べ物を見つける
41 ゴミを拾う

42 ”一生のこだわり”を追い求める
 ”行き先の候補が足らないなんてことはないはずだ。マンローの284座やウェインライトの214座、さらにはコーベットの山々やグラハムの山々まであって一生困らない。しかし自分だけのものをつくってもいいのでは?地元の長距離パスを歩き尽くすというのはどう?同じく地元のユースホステル全部に泊まるというのは?独創的で、まったく違うものを考えよう。自分自身のこだわりなのだから、他人のものをコピーすることはない。”
イギリスの山を話題にするとき、”マンロー(Munro)”といえばスコットランドの山のうち3,000フィート(914メートル)以上ある独立した山のことを言う。スコットランド山岳会(SMC)が選定管理を行っていて現時点では284ある。名称は1891年に初めてこれを選定したマンロー男爵にちなむ。いわば日本での百名山や二百名山等に相当する目標になっているようで、全山踏破はもちろんのこと、冬季登頂(スコットランドの冬は厳しいはず)、できるだけ短期間での全山登頂など、いろいろな挑戦が行われているらしい。深田久弥は山の品格、歴史、個性を尺度にし、基本的に1,500メートル以上の山から百を選んだが、”マンロー”は基本的に高さのみ、かつ独立した山とみなされるものから選ばれている。
スコットランドの最高峰はイギリスの最高峰でもあるベン・ネビスだが、1,344メートルしかなく、284座を全て登るのは易しそうに思えるもののそう簡単なことではないらしい。全山登頂者は申告すればSMCで管理しているリストに名前が載って世界に公表されるのだが、1901年に最初の完登者が認められて以来100年以上経つのに現在4,000人に達していない。とはいえここ10年くらいは加速してきていて、年200人くらいのペースで達成者が増えている。イギリスでもすでにそこにある山のリストを目標にする人が多いらしい。COUNTRY WALKING誌があえてひとりひとり独自の目標設定を提案するあたり、少々過熱気味になってきているのかもしれない。
ところで、湖水地方の紹介者として有名なウェインライト(Wainwright)の214座とは、古典となって久しい”Pictorial Guide To The Lakeland Fells”全7冊に記載された山々のことらしい。また”マンロー”とは別に、スコットランドの山々からコーベット(Corbett)は2,500から3,000フィートの独立した山を219座、グラハム(Graham)は2,000から2,500フィートを224座、高さを主体に選んでいる。
ウェインライトの山々は別として、まず100などの数字ありきで山を選ぶ日本と、まず尺度ありきで山を選ぶイギリス(スコットランド)と、この傾向の違いはどこからくるのだろう。われわれは基準をあいまいにしておくのが好きなのか、あいまいな基準のなかで遊ぶのが好きなのか。いずれにせよこの傾向が悪い方に出て、達成できない数字を掲げて無理を重ねるなどという事態に陥らなければよいのだが。山に限らず。


43 車は家に置いてくる
44 今まで以上に遠くまで歩く

45 子供たちに策略を使う
 ”子供たちをララ・クロフトから引き離して終日野外に連れ出すのは生やさしいことではないだろう。そこで策略を使おう。怪物話や伝説めいた語りを紡ぎ出して地方のステキな場所に誘い込もう。プー棒投げで遊ぶのもよし、戦争ごっこも許そう。自分の親がなにをたくらんでいたか気づくころには、子供たちはウォーキングの経験を十分に積んで、トゥームレイダーよりクーム(cwm)レイダーになるほうがいいなぁと思っているだろう。”
自分の楽しみを見つけた子供を遊びに誘うのは一苦労だろう…とくに親離れが始まったあとでは。
ところでララ・クロフトって誰?どこかで聞いた気がするが…。調べてみるとトゥームレイダーというゲームの女主人公で、なんとイギリス生まれだった。1996年に第一弾が製作され、ゲームの主人公としては知的で勇敢な女性というのが受けたのか、続編もつくられ、小説やコミックなどにも進出し、とくに欧米でララはゲームの枠を超えてもてはやされたらしい。アンジェリーナ・ジョリー主演で映画化さえされた(2001年)。ちょっとしたカルチャー事象というところか。いまはどの程度の扱いなのかわからないが、一時の熱狂であったとしてもまだ記憶に新しいのだろう。
駄洒落のために引っ張り出された"cwm"という言葉だが、これは谷を表すウェールズ語。ウェールズの山岳地域、たとえばスノードン近辺の地図を見ればこの言葉を含んだ地名がそこここにあるので、イギリスのウォーカーにはとくに目新しくないはずだ。もっとも"cwm xxxx valley"とかいう”Mt.fuji-yama”めいた呼び方もある。
”プー棒投げ”はこれまたイギリス産の『くまのプーさん』の話に出てくる有名なエピソードのひとつで、川の橋のうえから上流側に小枝を2つ落とし、どちらが橋の反対側に出てくるのが速いか比べて遊んだというもの。プー棒投げには世界大会まであって2006年には23回目を迎える。個人部門と団体部門とがあり、2005年には両方とも日本のチームが優勝している。日本人はかなりプーさん好きらしい。


46 自分自身にご馳走する
47 不要な道具を整理する
48 歴史散策に行く

49 COUNTRY WALKINGに手紙を出す
50 機会を逃さないようにする!
 ”今年一年のウォーキングの抱負を決めたところで、せいぜい2,3週間もしたらどこかに消えてしまうとお嘆きのあなた。そういうかたのためにこそCOUNTRY WALKINGがあります。予約購読していただければ、ウォーキングにでかけたくなるようなモチベーションとインスピレーションの素を毎月お届けいたしましょう。”
お約束の結び。興味のあるかたはこちらへどうぞ。
2006/01/14 記

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