特異フィンガリング 

 「Hold On は親指だけで弾いた」という話は、ヒューズに対する皮肉をこめた彼一流のジョーク(ひょっとしたらバッキングプレイのことかもしれない。1995年のTVインタビューでバッキングのことだと判明)だとして、実際ステージでパフォーマンス的に親指オンリーフィンガリングを見せてくれるときもある。人差し指・中指・薬指あたりも6弦側からクルッとネックの裏側を通って6弦ベース音をよくシングルノートさせて遊ぶ映像がよく見れる。


   

 前述したSpace Trukin'のクロマティックリフやパワーのサビ部分のdpリフ、'77Munich Cath The Rainbow ロングソロ・ラスト・ボーカルイン後、'73年Smoke On The Waterなどビデオで登場するが、毎晩のステージで飽きがこないようにするため一部分をお遊びってことで弾いているにすぎない。

    

 
 
 更には不可解な親指の動きを2004年来日時のTV映像→に捉えることができたので、実際に再現すると共に検証してみた。Queen For A Day PartTのバッキングアルペジオ中に実施しているのだけれど・・・親指6弦ルートをスタッカートさせた後、ネック下へ親指を大移動させる。正直、その理由について確信に迫ることはできなかった。

 大凡の推測では、1.単純に視覚に訴える意識したパフォーマンス 2.ミュート気味のバッキングアルペ時におけるある種の意識外の癖 3.親指コードにおける1弦をスタッカートさせるために人差し指を効率よく寝かせるため・・・・・あたりを列挙してみたが、何れも想像の域を超えることができない。1.はあまりにもさり気なくて目立つには迫力不足。2.については、癖にしては他に実施しているところをほとんど見受けない。3.に至っては親指を移動させずとも十分に効果的なスタッカートが実施できる。実際コピーしてみた感想は意識しないと難しく、再現録画にあたって親指の動きを失敗して何度か録り直したほどた・・・このことから、特に聴衆に訴えるためではなく、軽意識下でお遊びっぽくスタッカートを確実に!って自分に訴える程度というのが顛末ではなかろうかと・・・・・・↓
  
  
 1984
年オーストラリアのChild In Time オルガンソロのバッキングアルペでも同様の映像が、更に近年のRainbow公演映像(2017年Cacth The Rainbowのアルペbacking)でも確認できることから、実際は映っていないときにそれなりの頻度で実施されている可能性もある。どうしてもソロが中心に映像化されるオフィシャル映像では限界がある。1984年のChild In Timeではプレーン弦部分のトーンが怪しく、意図しないミュート音となっていることから、コード押弦の角度が甘くなってしまったのを補正すべく、指を少しでも確実に押さえるため実施しているのだろうかとも思われる。正直バレーコードと比較すると、親指コードは指が長いことがまず大前提で、その条件を持つプレイヤーであっても親指ったまま全弦鳴らすには不向きな形態だ。
   
 
 

 小指のフィンガリング
 
 まずは小指多用の極みを検証してみる。一種のスケール練習とも捉えることができるものとしてバッハのBrandenburg concertoのフィンガリングを1979.12.1live映像(再現映像は1980.5.9東京よりコピー)にて追ってみた。きっちり4フレット跨りのポジションを人・中・薬・小指へ平等にあてがう様が見て取れる(7F図参照)。ここで注目したいのは、小気味よいフレーズの弾き出しが小指から開始されるのみならず、小指→薬指→小指と折り返されていることに着目したい。即興演奏ではなく事前に完成された指捌きとはいえ、この弾き出しの動きはかなり忌避感が強く、どうしても人・中で開始となるポジションを選択したくなるが、RBコアマニアとしては諦めて手本に従うしかなさそうだ。
 また、転調後(9F図参照)のリピートフレーズでは中指@の繰り返し再スタートに備えてFG間は狭隘な3フレ幅にも係わらず、最大幅対応可能な小指・人指を投入、Hへは薬指を対応させるという、映像で確認できないとなかなか思い至らない格好となっている。3フレ幅程度だと人・中指を使用するプレイヤー(ゲイリームーア、マイケルシェンカーなど)もいるほどだが、通常のプレイヤーなら人・薬を選択することが圧倒的だと思ふ。
 
 
 
 
 このように小指を標準的に使用するフィンガリングがRBの基本とはいえ、私がギターを始めた当初は人・中・薬の3本が一般的なロックギタリストの標準で、教本等によりブラックモアの小指の運指について非常に強調されていたため、過剰にまで小指を酷使したものだ。そもそもすべての指先を自由に動かせない初心者時代より小指を酷使していたので、ギターをマスターしていく過程において小指の運指に特段苦労したという感想もないのが正直なところではある。
 
 当たり前のように映像が収得できる昨今、ステージや映像で研究した結果、小指の使用度は他の3本に比べ2分の1以下であろうと推察する。要は当時のベック・ペイジ・クラプトンあたりの大物ギタリストがほとんど使用しないことと比較した場合、無理なフィンガリングを避けるために小指にも役割分担を与えていたということである。フレット幅の狭いハイポジションに至ると更に小指の出番はないようである。ちなみに、Rainbow Japan Tour'84 Difficult To Cure の前奏弾き出しから相当の間、小指の出番はない・・・・・

        
 
 とはいえ、逆に小指を使用しなくてもよさそうな場面で小指を宛がう場合もある。前述済のgreensleevesやMemmingenあたりのEmは薬指でも対応が充分可能だけれど、ブラックモアは小指を使用する。このことから、このポジションに近い系統は小指使用に留意する必要がある。特に下記のEmフレーズは半音H&Pのヒネリにもかかわらず、中・小指にて対応している。1音ヒネリなら場合によっては中・小指はありえるが、半音なので4弦2フレに人指取られてもポジション的にここはブラックモアも、中・薬を使用だと完全に思い込んでいた。この映像は、ブラックモア風フィンガリングに対する既成概念がいかに危険か、ということを再認識させられた。Emコードのポジショニングにおける1弦3フレ小指は彼のスタイルで、こういう指使いがごく自然に発生したと思われる。薬指は中指と小指に挟まれ、所在なげで窮屈そうにしている。
      


 ちなみピッキングパターンの項で紹介した下記の無調性フレーズも、人・中・小と運指し、3フレット幅しかないポジションにも係らず薬指は一切使用しない。
   
 
  このように薬指を無視して半フレット進行に中指⇔小指使用が散見される中、あの印象的なSpace Truckin' のクロマティックリフにもこの展開が行われていようとは・・・・・

  

 2015.7.3のBNライブにおけるSoldier Of Fortune独演をコピー中、ふざけてWoman From Tokyoを爪弾くポジションを何気に見ていて驚愕してしまった。Eコードで独演を締める寸前に押さえているポジションはそのまま崩さず、左手を5ミリほどナット側へ移動させ、3弦2フレットに入る隙間を作って4thに小指を使用しているではないか!!! 当然に2フレットは中・薬・小の3本が異弦同フレにて集中するポジションとなる。中学生の頃に初コピーしたんだと思うが、4thは薬指で入れていた。そもそもEコードを崩してズーっと間違えて弾いていた。念のため、1982年サンアントニオのオフィシャル映像でAll Night Long前のお遊びで同曲を爪弾いている部分を確認してみたら、正しくsus4は小指で押さえてEコードを崩していなかった。
  

 その他の特異事項としてスキャロプト効果を最大限活用した小指のヴィブラート、小指のチョーキング等も時折実施していることから、見逃せない小技として習得しておく必要があろう。Journeyman (A Knight In York)
             

 
 結びに
・・・奏法自体には全く影響のないことであるが、ブラックモア風左手小指の容姿について一言。小指未使用時でもピンと伸ばしておくことが重要である。RBのフィンガリングが華麗で美しく見える大きな理由のひとつだと言っても過言ではない。大分よくなってきたけど管理人もまだVTRでチェック入れると、長時間に渡り小指の出番がないとき等折れ曲がってしまう場合が多々あり、今でも意識して事あるごとに矯正(セロテープで曲がらないように固定したこともあったっけ。)するようにしている。
 ブラックモア自身折れ曲がってプレイする場合もあるが、他の奏者と比較すると折れ曲がる頻度・時間は圧倒的に少ない。このことは弾き始め初期にクラシックギターのレッスンを受けた影響があるのかもしれない。模倣者はとりあえず意識して曲げずプレイするようにしてマスターするしかないだろう。癖を矯正するのは弾けないフレーズをマスターするより難しい。
                  2011.5NYの独奏