親指フィンガリング・セーハ

 左手の親指によるフィンガリングを多用する。リフを演奏する場合、ロックギタリストは開放弦をよく使用するが、ブラックモアは6弦ベース音を左手の親指で押弦してしまい、F#(MistreatedJealous LoverDanger Zoon)、G(BurnCan't Happen Here)、B(Spotlight KidFreedom Fighter)など開放弦以外にベース根音を使用し、残りの指で複雑なフィンガリングを可能にして様々なKEYに対応している。コードポジションをとる場合にもしばしば利用し、6弦のみならず場合によっては5弦あたりまで押弦するときもある。ブラックモアがコードポジションを取る場合、バレーコードで親指をネック裏側へもっていくスタイルのセーハは100%実施しないと断言する。下記はG7をポジショニングしている様子。

  

 「(指は何本ある?指は全部使わなきゃいけないよ。親指も含めてね。)とリッチーに言ったかな。親指を使わないと押さえられないようなコードをいくつか弾いてみせた。ブルースやジャズだと親指を多用するんだ。ベース音を響かせるコードがあるからね。親指を使わないといけない。」(ブラックナイト・リッチーブッラックモア伝潟Vンコーミュージックエンタテイメント発行より抜粋) ジムサリヴァンのレッスンを受けた影響は大きい。
  

    
  
     

 下の画像は上のHush演奏前、司会者にギターを渡し、アーミングをさせてやる1コマだ。ブラックモアはDの省略コードを根音・5度・オクターブと押さえてもらうのに、5弦5フレの根音を親指で押さえるよう指導している。ギター弾いたことのない素人にはきついポジションだろう。

        

 ただ、やみくもに5弦ベース音を何が何でも親指で!というわけでもない。ごく稀に華麗で美しい指裁きのRBらしからぬ(小指をひん曲げた不細工な)フォームにて和音混じりのフレーズをアドリブる場合がある。Paris-MoonのDVDよりMinstrel Hallのラスト独演←(参照)では2弦5フレに薬指で長3音を奏でたまま、静かにC音を追加挿入するために人差指を5弦に持っていく場面が写っている。直前のフレーズの指使いの影響からか小指は完全に折れ曲がり、普段ピンと伸ばしていることが多い姿と比較するとかなり違和感のある格好となっている。同日に演奏されたFires At MidNightの中間独演アドリブでも実施していたことから、ある種のフレーズパターンによっては、指癖になっているのかもしれない。あまり見られない指使いであることから、積極的に使用するのは控えたほうが良いだろう。
 なお、5弦をルートにしたストラトのパワーコード(根音・5度・オクターブ)の場合は人差指で押弦することが多く、上記のパイプのオッサンに押さえ方を伝授している方法はポピュラーなケースとはいえない。(とはいえアコギでは結構多いかも。Minstrel Hallのメインメロでは、5弦根音Cコードを親で5度と8度をセーハ薬のパターンで実施している。)
 ただし、6弦ベース音のコードはパワーコードに限らず親指での実施率は限りなく100%に近いので間違わないように! 
 
  

 親指でのフィンガリングが卓越してくると、更に高度な技術を導入することは当然の帰結ともいえる。親指スライドの実施である。下記映像は'84年12月14日のシドニー公演からのDifficurt Tu Cure独演演奏中に垣間見たものだ。5弦3フレC音に人差指を立てて押さえたなら、異弦同フレ6弦3フレG音はもう親指でないと素早く対応できない。そしてそのままKEYコードのルートとオクターブでフレーズを締めくくるには親指をスライドさせるしかない。

       

 セーハについては、1970年のビデオDoing There ThingでWring That Neckのラスト独演ソロ中、バッハの「gavotte」やジングルベル等で人差し指で小セーハしているのが確認できる。また、1977年Munichにおいて、定番Greensleeves を静かに奏でるパートにおいて同様に人差し指の小セーハが見受けられるくらいであまりお目にかからない。
       
                 
           
 5弦を根音とするメジャーコード(マイナーは死ぬほど出てくるので必須ポジションだ。)は5度・8度・10度と異弦同フレが3つに及ぶことからなるべく避ける傾向にあるブラックモアだが、7フレカポのGhost Of A Roseにおいては、やむを得ず実施しており、同フレ3音については薬指でセーハしている。ストラトではパワーコードで済ましたり、ハイポジションに移動して6弦ルート型にてポジショニングすることが多いわけだけど、7フレカポでオクターブ上の長3度音が欲しい場面では、更にハイポジション部に移動することは実働的でないためか、使用頻度の薄いコードポジションを取っている。薬指はセーハしても根音は親指で押さえなければならないことを申し添えておく。

        
 
 同様のメジャー異弦同フレ3音において、今度は小指によるセーハを2016年のBNのコンサートにおけるSoldier of Fortune独奏中の映像から見分してみた。Amフレージング後にE7のコードを6弦開放、5弦7フレと一旦オクターブ後に4弦開放短7度、続いて同弦6フレに人差し指をもっていき、間髪いれず同弦9フレからの異弦同フレ長調3音は小指で一気に押さえる。最後の1弦開放を鳴らすためには指板よりセーハした小指を離反させる必要があり、コード和音を同時に響かせるというよりは、E7コード構成音をフレージングしたといった趣である。↓ちなみにフレーズ音上昇時の右指の様態は@〜Eまでは親指、FGは人差し指で弾いていることにもRBマニアとしては注目し、右指にどう役割分担させるかを模索していく上において、視覚を期待できない音源を耳コピするしかない場合の重要な指針とすべきである。

  

 さて、本来コードポジションの項目で論ずるべきかもしれないが、話の流れからここで解説しておく方が理解を得られやすいと判断して前に進みたい。
 上述した5弦を根音とする異弦同フレット3音を伴う親指メジャーコードは非常に押さえずらい。邪道(個人的主観)なコードフィンガリンク、つまり人差し指で不細工にバレーすれば容易に実施できるのだが、残念ながらRBの辞書にバレーコードは載ってないわけだから、ここは親指コードを中心に据え代替するしかない。管理人にとっては大嫌いなコードポジションであり、メジャー3thを省略したり、ベース音を 5弦9フレF#にして7フレの異弦同フレ3音を人で小セーハ、などの方法で30年以上忌避しまくってきたが、このほどブラックモア先生も私と同じく避けているのを映像として目の当たりできたことはマニア冥利につきるというものである。 ↓I Think It's Going To Rain Todayより(チューニングは半音下げのためコードネームに留意)
  
      
      
  上記のとおり同映像のDコードをすべて当たってみたが、5弦5フレベース位置による異弦同フレ3音メジャーコードの使用は確認できなかった。
 
 小セーハの考察を続ける。下図は77年ミュンヘンよりGreensleevesを奏でている様子をまとめたものである。

    

         
 
 次は1976〜78年頃にCatch The Rainbow前奏で必ず演奏されていた定番アルペジオ、バッハのPrelude In C Major(後にWeiss HeimNow And Thenでも使用)は特異フィンガリング案件だ。親指をネック裏側へ廻す人・小指のダブル小セーハから一気に親指で5弦を押さえるプレイにより、原曲に忠実なコードトーンを聴かせてくれる。ここまで小セーハは人、薬、小指と確認できたところだが、中指についてはどうだろう・・・今後の更なる検証に期待されたい。
  
     
      
 
 BNのGreensleeves中、転調後のキーはCmで開放弦の使用が困難の中、親指多用フィンガリングにてバッキングアルペジオのベース音に対応している。また当該転調後のB♭(onA)コードの登場については、親指のみ移動させるコードポジションの有効的使用について新めて肝に命じた次第だ。
 当初転調後のプレイについては親指コードでコピーしつつも、親指対応では結構負担のかかるポジジョンの連続で押さえずらい、及びスタジオ盤のあまりにクリーンなアルペジ音に一瞬カポによるオーバーダブを疑ったが、ライブ演奏中にカポ装着またはギター交換などは馬鹿げており、念のため中野サンプラザのビデオで確認したところ、レギュラーチューニング・カポなしのまま移調し、余裕でCmキーのコード進行を下記の親指移動を盛り込みつつ実施している様子をバッチリと違法撮影者(オフィシャルビデオの芸術的映像遊びは、目が疲れる上に教科書としては最悪。他のメンバー無視してバッキングプレイもブラックモアにカメラを固定し続けるブートは最高の教科書だ。)は映像を残してくれていた。

             Greensleeves親指コードバッキング
         ↓