レスター・ヤング(Lester Young)

Forever Young
モダン以前の古いジャズの中でも、レスター・ヤングは別格です。
去年(2003)の暮、NHKで「Ken Burn Jazz」の放送があり、ジャズの発生から、コルトレーン辺りまで、ジャズの歴史を辿っていました。それを見て、初めてよーく分ったのは、ルイ・アームストロング(「サッチモ」)の偉大さでした。
サッチモが現われて、ジャズが始まったのです。それ以前の音楽と較べると、サッチモの始めたことの中に、我々がジャズという言葉で知っているものの特長が如実に現われています。(今のテナーサックスは、大抵コルトレーンの影響を受けていますから、今の若い人がコルトレーンのCDを聞いても、その革新性が分らないかもしれないのと同じです。)
昔の音楽を聞くのには、知識が必要です。また、音がよくありませんから、集中力も要求されます。でも、そうしたハンディキャップがあったとしても、レスター・ヤングの音楽は、直に心に訴えかけてきて、録音の古さを忘れさせます。

映画『ラウンド・ミッドナイト』の中で、デクスター・ゴードンが演じる主人公が、演奏中に、「歌詞を忘れたから、吹けない」と、テナーサックスを置いて出て行く場面があります。これが、実際には、レスター・ヤングが言った言葉であることは有名です。レスターは、テナーサックスを吹きながら、いつも歌っていた、と言うか、レスターは歌うようにテナーサックスを吹いた、と言うか、どちらでも同じですが、レスター・ヤングの演奏は、本質的に、歌なのです。

粟村氏は『モダン・ジャズの歴史』の冒頭で、「モダンジャズの歴史は、レスター・ヤングとともに」ではなく、「レスター・ヤングの音楽とともに始まった」と書いて、レスターの音楽の革新性とその影響の大きさを指摘しています。引用すると―、
「レスター・スタイルの最大の特徴は、音色もさることながら、その前人未踏のユニークなフレージングにあった。レスターは四小節や八小節単位の型にはまったフレーズ創りを嫌ったばかりか、しばしば一小節を一音で吹いたり、逆に無音のまま見送ったりして、次のフレーズへの導火線を作り、『ブー・ブー』と一聴無意味な同一音をくり返したあとに、突如スムーズな均整のとれたメロディーをつないで、先の捨石を蘇らすという芸当をやってのけた。絶頂期のソニー・ロリンズが、これに通ずる発想法を駆使して、モダン・ジャズのアドリブに一紀元を画したが、その源は、遠く三〇年代末期のレスターのプレイに発したのである。
リズムに対するレスターの<乗り>が、これまた独自のもので、ビートから微妙に遅れるフレージングが、常に全体としてレイジーな雰囲気を作り出し、ために、上昇フレーズが予想されるところで下降フレーズが現われるという予想外の展開ですら、<緊張>よりもむしろ<余裕>となって聴き手を寛がせた。こうした終始一貫した<寛ぎ>の精神こそ、レスター・ヤングの録音を、いまなおエヴァーグリーンのものとしている最大の要因であろう。」
なるほど。レスター・ヤングの茫洋としたテナーの音色と、ふわふわして漂うようなフレージングは、永遠のものですね。

Brunswick Sessions
私が、いちばん好きでよく聞くのは、テディ・ウイルソンのブランズウィック・レーベルでの録音です。これには、しばしば若き日のビリー・ホリディが歌手として加わっており、レスターとの絶妙な絡み合いを聞かせてくれます。「Mean to me」とか「When you're smiling」とか、名演揃いです。(ほぼ同じメンバーで、ビリー・ホリディ名義の録音もありますが、その場合にはビリー・ホリディが二コーラス歌います。テディ・ウイルソン名義の録音では、一コーラスだけで、こちらの方がレスターのソロが長く聴けるので、私は好きです。)
前に「古いジャズは心から楽しむという境地から遠い」というようなことを書きましたが、これは、例外です。一曲三分ですから、ソロも短いし、録音も悪い中のですが、そういう条件に関係なく、いまなお最高の音楽の一つを聴くことができます。

昔、LP時代に、アメリカのCBSから、二枚組み五セットで出た『Lester Young Story』が、カウント・ベイシーやビリー・ホリデイとの共演を中心に、当時手に入りにくかった貴重な演奏まで網羅した名盤でした。(今は「全集」みたいな形で、いろいろ出ています。)
ブランズウィックのテディ・ウイルソンのセッションは、アメリカの「Chronological」シリーズや、フランスの「Masters of Jazz」シリーズで、全て出ています。
レスター・ヤングの演奏を、いい音で聞きたいという人には、ジョン・ルイス『Grand Encounter』を勧めます。テナーは、ビル・パーキンスですが、レスターそっくりのソロを聞かせてくれます。あるいは、名盤の誉れ高い、ソニー・ロリンズ「Way Out West」辺りも、理想的なレスター・ヤング・スタイルの演奏です。


ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)

ついでに、ビリー・ホリデイについても書いておきます。(準備中)


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