セシル・テイラー(Cecil Taylor)

音楽(主にジャズですが)について、好きなことを書こうという、このコーナーでは、なるべく、いま活動している音楽家を扱おうと思っています。だから、二十年以上前に死んだ、ビル・エバンスやチャールズ・ミンガスについて書くよりは、まだ活動している、オーネット・コールマンやセシル・テイラーの方を優先することにしました。
とはいえ、結構好きで、学生時代には愛聴していたのですが、セシル・テイラーについて、何をどう書けばいいのか、分りません。
だったら、書くなと言われそうです。でも、書きます。

セシル・テイラーは、フリー・ジャズを代表するピアニストです。

セシル・テイラーのCD
愛聴盤と言うと、「Conquistador!」(Blue Note)「ソロ」(Trio)「Dark to Themselves」(Enja)辺りでしょうか。
「JCOA(Jazz Composers Orchestra Association)」では、オーケストラをバックにしてソロを取っています。それは、「凄い!」としか言えませんが、「愛聴」できるようなものではありません。
学生時代、お茶の水のレコード屋(と言えば、Disk Union でしょう)で、ECMの輸入盤で、マル・ウォルドロン「Free At Last」を買いました。家に帰って聞いてみると、表題が「Free」だと言っているとはいうものの、不協和音に満ちたオーケストラの演奏で、しかもピアノの音が余り聞こえません。何か変だと思って、レコードをよく見て考えると、どうも「JCOA」のレコードのようです。ECMもJOCAも、レコード番号が1番なので、ドイツの工場でプレスする時に間違えたのでしょう。中味が違うので、返品しましたが、今思うと、そんな珍しいもの、返さないで持っていればよかったかもしれません。
という訳で、音楽とは余り関係ないことを書いています(笑)。
Blue Note には「Unit Structures」という名盤もあります。また、ソロでは、「Silent Tongue」(Freedom)とか「Springs of Two Blue J's」とかもありますが、日本のTrioで録音したソロは、音がよく、演奏も短めで、聞きやすいという美点があります。
初期のカフェ・モンマルトルでのライブも、世評の高い演奏ですが、後の、もっとパワーアップされた演奏を聞いた耳には、少し物足りなく聞こえます。でも、セシル・テイラーの個性が十分に発揮された、初期の名盤であることには変わりはありません。(どこが一番もの足りないかと言うと、アルトサックスのJimmy Lions です。)

Dark to Themselves
最近、新宿のDisk Unionに行くと、中古で「Dark to Themselves」のCDを安く売ってました。解説を見ると、レコードでは時間の関係でカットされていた部分を復元した「完全版」のようです。一応買って帰り、プレーヤーに乗せました。「フリー・ジャズ」とは何かを知りたかったらこれを聞け!というくらいのパワー溢れた名盤です。しかし、演奏は60分以上切れ目無しに続きます。その日、これを終りまで聞き通す元気はありませんでした。夜中でしたし、近所から苦情が来る(周りにとってはただの騒音です!)かも知れないという心配もありました。レコードなら片面が終わる辺りで、針を上げました。やはり、片面二十数分という、レコードの収録時間は適正だと思います。(その後、エンリコ・ピエラヌンツィのCDを掛けたら、本当に美しい曲だなぁと、しみじみ思えました。)
この演奏は、76年のライブ録音です。ピアノとドラムとアルトサックスという変則的なトリオで、セシル・テイラーは長く演奏を続けてきましたが、これは、ドラムのメンバーを変え、トランペットとテナーサックスを加えた、新しいユニットでの演奏です。そのドラムやトランペットやテナーがガリガリと元気のよいソロを取り、アンサンブル(テーマ)→ソロ→アンサンブル(テーマ)→ソロ…と、全体のフォーマットが明確な演奏になっています。その意味では分りやすい演奏です。

私がフリージャズで聞いているのは、主に、演奏のパワーとエネルギー、緊張感と疾走感、です。
例えば、ピーターソンは、何かしながら聞いても、リズムやメロディが心地よく、CDを掛けてる意味があります。ところが、フリージャズには、そういう要素が全くありません。しかし、それだから逆に、即興性とか創造性が際立ちます。
セシル・テイラーの場合、ソロに移ると、確固としたメロディもハーモニーも見当たらないのですから、何を弾いているのかは、聞き手には謎です。しかし、押し寄せて来る音の流れに圧倒されます。
それが一番よく現われるのは、ソロでしょう。

Silent Tongue
セシル・テイラーのソロ・ピアノをまとめて聞きました。
大半はレコードで持っていたのを、CDで買いなおして改めて聞いたのですが、二十年ぶりくらいなのに、印象は最初に聞いた当時と変わりませんでした。
今回聞いたのは、「Indent」(Freedom)、「Silent Tongue」(Freedom)、「Air above Mountains」(Enja)、「Garden」(hat Hut)など、です。
評価としては、 「Silent Tongue」>「Garden」>「Air above Mountains」、というところでしょうか。
上に書くのを忘れていましたが、当時「黙舌」という邦題がついていた「Silent Tongue」(「沈黙の言語」でしょうか)―これも学生時代の愛聴盤でした。今回聞いて驚いたのは、こんなに叙情的な演奏だったか、ということです。
全体が短い(と言っても10分くらいの)演奏の連続で、構成もドラマチックですから退屈する間がありません。よく出来た短編小説の連作を読むような充実感があります。驚くべきことに、詩的な叙情性さえ漂うのです。(音が今一つ良くないのが欠点でしょうか。)
これに対して、「Garden」は二時間近い大作で、滔々たる大河小説の趣があります。
(続く)


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