アーチー・シェップ(Archie Shepp)

シェップは人気が無いのか?
先日、ディスク・ユニオンに、不要なレコードを30枚ばかり持っていった時、Impulse! のオリジナル盤「Fire Music」の査定額が\500 でした。「Impulse! はモノラル盤の方が人気が…」とか、「シェップは売れ残っちゃうので…」とか、言われましたが、全く納得できないので、これだけは持って帰りました。
確かに、シェップは、あのちょっと濁った、ちょっとハスキーな、テナーの音からして神経に障るし、ガーッと吼えるような、ウオオオ〜ンと唸るような、フレージングも押し付けがましいし、特に元気のない時などには、鬱陶しくて聞く気にならないのは事実です。
また、最近、Venus Records 辺りから出している甘口のバラード集は、シェップの資質を生かしているとも思えず、どこが面白いのか全く分からない駄作であるのも事実です。
しかし、しかし、です。シェップ先生の初期の名作「Fire Music」のオリジナル盤が500円で良い訳がないでしょう!それが事実なら、 アーチー・シェップに関しては、世間の方で、何かが間違っているのではないかと思います。

今年(2005年)の春、ヨーロッパ系のピアノばかり聞いていた時期があります。一時、ピアノ・トリオ・ブームとか、ヨーロッパ・ジャズ・ブームとか、喧伝された時期があり、あるいは今でもブームなのかも知れませんが、そのおかげで、ちょっと珍しいようなものもいろいろ(しかも場合によっては中古で安く)手に入ります。一例を挙げると、殆ど聞いたことのなかった、Bobo Stenson とか、Thierry Lang とか、Edouard Ferlet とか、Thomas Clausen とか、その他多数のピアニストを今回聞いたのですが、どれも個性的ですし、静謐なリリシズムを感じさせる、素晴らしいピアノだと思います。確かに、聞いていると引き込まれます。しかし、Enrico Pieranunzi の頁でも書いたように、続けて聞いていると、反動で、何かもっと汗臭く黒っぽいものが欲しくなってくるのです。煙草中毒の患者がニコチンやタールを欲するように、年季の入ったジャズ中毒の患者には、何か大事なものが足りないようなのです。
という訳で、その後、Roland Kirk とか、Don Cherry とか、Archie Shepp とか濃い音楽を無性に聞きたくなり、CDもいろいろ買いました。この中で今も存命で活動しているのは、シェップだけです。息の長いテナーです。
その息の長いシェップにも、1973-74年頃には、レコーディングの中断期があり、75年にカムバックした時、前衛派の闘士だったアーチー・シェップも、再起後は伝統的な音楽に回帰した、ということになったようです。(特に日本のレーベルに吹き込んだものの中に、例えば「人間の証明」のテーマとか、コマーシャリズムへの迎合と言われても仕方ないような、そうした傾向はありました。)現在の目で見ると、60年代も70年代も、シェップの音楽自体は、大して変わってはいないのですが、音楽に対するスタンスに若干の変化が生じた、ということはあるようです。それが何なのか一言で言うことはできませんが、良く言えば、肩の力が抜け、結果として音楽の幅が広くなった、と言うことは出来るでしょう。

シェップの代表作
シェップの録音で、私が好きなのは、その、70年代半ばと言うか、70年前後の10年間くらいと言うか、前衛的な表現と伝統的な表現がミックスした頃の録音で、学生時代に買ったレコードも、そこら辺りが中心になっています。逆に言うと、Impulse! 初期の、ツッパリ度の甚だ高いものには余り手が伸びない。また70年代終わり辺りからの、軟弱化度の著しく高いものには更に手が伸びない、ということです。
学生時代に好んで聞いたのは、ドナウエッシンゲン音楽祭でのライブ「One For The Trane」(MPS 1967年)とか、ニュルンベルク東西音楽祭でのライブ「Steam」(Enja 1976年)とか、編成を拡大した「There's A Trumpet In My Soul」(Freedom 1975年)、あるいは、カーリン・クロッグ(vocal)と共演した「Hi-Fly」(Compendium 1976年)とか、Joe Lee Wilson(vocal)を加えた「A Touch of the Blues」(Fluid 1977年)、とか、でしょうか。(他にもいろいろ買って聞いたような気もしますが、今手元にレコードがありません。)
「Blasé」「Live At The Pan-African Festival」「Poem For Malcolm」「Yasmina, A Black Woman」など、70年前後にフランスのBYG に吹き込まれた作品も全てCD化されて安価に手に入りますから、今回買って聞きました。どれも中々の力作です。
数多いシェップのCDのうち一枚だけ残して後は捨てろと(無茶なことを)言われたら、(二枚組みですが)「Attica Blues Big Band」(Blue Marge 1979年)を選ぶかも知れません。シェップの持っているソウルフル=ごった煮的なエネルギーが溢れ出た演奏で、シェップの音楽の集大成ではないかと思います。よくスイングしているし、サウンドがカラフルで、聞いていて楽しいという点でも、シェップの作品中の筆頭でしょう。Impulse! の「Attica Blues」よりも、こちらの方が、ヴォリュームもパワーも上のような気がします。
(続く)

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