アルバート・アイラー(Albert Ayler)

Holy Ghost
表紙の挨拶(2004年の12月)に書きましたが、なぜか急に円高になって、輸入盤が安くなりました。Amazonのリストを見ていると、ちょっと前まで6000円だったものが、5000円くらいになっていたりします。そういう安直な理由で、これまで手を出しかねていた、ちょっと値段の高めのボックス・セットをいくつか注文してしまいました。その中に、アルバート・アイラーの未発表録音を集めた、「Holy Ghost −rare and unissuied recordings (1962-70)」があります。
付録のアーミー・バンドの録音も含めれば、CDが10枚。幻のセシル・テイラーとのレコーディング、コルトレーンの葬儀での演奏、「ファースト・レコーディング」以前や「ラスト・レコーディング」以後の録音、など、熱心なファンにとっては宝の山のようなセットです。箱の表には、「コルトレーンが父、ファラオが母、私は聖霊だった」というアイラーの言葉が飾られています。
このセットを買って、一番良かったと思うのは、一曲だけですが、セシル・テイラーとの伝説的な共演が聞けたことです。わずか数ヶ月前の伝統的なスタイルでの演奏と違い、アイラーは、もうあのアイラーの演奏スタイルになっています。(テイラーのピアノの音をテナーサックスに移すと、アイラーに似ているかもしれないと思います。)
「ジャズの歴史におけるミッシング・リンクが発見された」と解説で言っているように、アイラーがセシル・テイラーとの共演から何を学んだか、これを聞けばよく分ります。また、セシル・テイラーの演奏は、同時期の「カフェ・モンマルトル」(62年12月)での演奏に近く、既に打楽器的な自分のスタイルを確立しており、これも迫力があります。この演奏は、オーネット・コールマンの出現に次ぐ、フリー・ジャズの歴史で二番目に重要な瞬間とさえ、言えると思います。

「フリー」・ジャズ
アルバート・アイラーという名前は、ちょっと詳しいジャズ・ファンなら、知らない人はいないでしょう。60年代を駆け抜けた、フリー・ジャズの彗星です。64年の「Spiritual Unity」や「Ghost(Vibrations)」を聞いて、圧倒されなかった人はいないでしょう。少なくとも私は、学生時代にアイラーのレコードを聞いて、衝撃を受けましたし、いま改めて聞いても凄いと思います。ジャズという音楽の持つ、自由さ、激しさ、大らかさ、を最も強く感じさせる天才でした。(と言うより、「自由(フリー)」という言葉の持つ、「激しさ」と「ラディカルさ」と「大らかさ」でしょうか。)「フリー・ジャズ」と言えば、私は、先ず、アイラーを思い出します。
(一言説明しておくと、フリー・ジャズというのは、曲のメロディや和音やリズムに縛られることなく、「自由に」演奏しようという立場での即興演奏で、基本的には、普通の人には雑音に聞こえるかもしれない、不協和音やフリーキー・トーンを交えた、エネルギッシュな演奏スタイルを言います。サックスの場合には、しばしば人の悲鳴や唸り声にも似た響きの音が発せられます。)
アイラーの録音で、私が一番好きなものは、「ラスト・レコーディング(Les Nuits de la Fondation Maeght)」です。ゴスペル風のシンプルなテーマに基づき、シンプルなリズムに乗って、自由なソロが美しく繰り広げられます。もし、コルトレーンがこれを聞いたら、「私がやりたかった音楽は、これだ!」と叫んだのではないでしょうか。それほど、自由で美しい、素晴らしい演奏です。(コルトレーンの音楽には、リズムの変革という、別の要素もありますが。)
(続く)

→音楽喫茶に戻る
→村の広場に帰る