妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
 
 
M−9:腕を絡めて痴話喧嘩するヒト達
 
 
 
 
 
 シンジが部屋へ戻ると、マリアはすやすやと寝息を立てていた。
 下着の上に毛布を掛けただけだが、室温が少し高めに設定してあるから身体が冷える事はあるまい。
 シンジはベッドに腰を降ろし、眠っているマリアの寝顔を見つめた。
 血の気を失いやつれていた顔も、もうすっかり回復して頬はほんのりと赤みを帯びている。
「ん?赤い?」
 何を思ったか、シンジがその顔をじっと見た。
 まるで、不審者を見抜く税関職員みたいな視線だったが、間もなくマリアの唇が小さく動いた。
「シンジ…おっぱいもっと…やん…」
「……」
 
 
「シンジ…頭いたいんだけど…」
 頭をおさえて起きてきたマリアに、
「あ?」
「起きたらこぶできてたの」
「ふーん。マリア昨日何の夢見てた?」
「プ、プールにいる夢を…」
「裸でか?」
「どっ、どうしてそれをっ」
 言ってからかーっと赤くなる。
「思考の透視だ」
「ま、まさかアイリスと…」
「何?」
「い、いえ何でもないわ」
 住人の一人と同じ能力かと思ったマリアだが、まさかもにゃもにゃ呟いた寝言で発覚したとは夢にも思わなかった。
「変な独り言呟いてないで食事行くよ。まったくろくな夢見ないんだから」
「今、なにか言わなかった?」
「いーや、気のせいだ」
 マリアを追い払ってから、
「縄で縛っときゃ良かったな。なんなら天井から逆さ吊りだ」
 シンジはぶつぶつとぼやいた。
 
 
 
 
 
「やるな。何者かは知らないが、ここまでの使い手だとはな」
 第一陣の脇侍は壊滅し、第二陣の銀角もまたボスと一緒に殲滅された。おまけに今度はミロクまでが重傷を負って帰還し、さぞ激怒してると思ったのだがそうでもない。
 確かに予想もしなかった事態ではあるが、総合的な戦力差を考えれば、特に強がりでもあるまい。
「確かにあいつは強いよ。一人しかいなくても、あれなら銀角まで倒されても無理はないね」
 声はしたが、奇妙な事に人影がない。
 いや、よく見ると葵叉丹の足下に子供みたいなのが一人いる。
 このような所に子供がいるのは奇妙な話だが、こんな所で悪の親玉と会話している以上、普通の子供ではあるまい。
 何より、その全身から漂う気もまた、尋常ではないのだ。
「刹那、ミロクの具合はどうだ」
 刹那と呼ばれた子供が、
「良くないね。傷口はもう止血してあるから大丈夫だけど、片胸を吹っ飛ばされて怒り狂ってる。とりあえず落ち着かせるのが先みたいだよ」
「それだけ元気があれば大丈夫だ。それで、奴はどうやってミロクの胸を吹っ飛ばしたのだ?」
 葵叉丹の問いに、
「火だよ」
 刹那は短く答えた。
「もっとも、それだけじゃないみたいだけどね。猪と鹿の残骸は、非常に微量だけど炭化した物が残ってた。でも蝶の方は文字通り欠片も残っていなかった。方法は分からないけど、蝶を倒したのは違う方法という事になる。本来なら一発かましておく所だけど…ぼやぼやしていたらこっちまでやられていたんだ」
 ぎり、と刹那の歯が鳴った。
 一瞬の隙を突いてミロクは救出したが、それだけで文字通り逃走に移らなければならなかった事が気に入らないらしい。
「やはり、尋常な相手ではないようですな」
「それは分かっている。だがミロクめ、しくじりおって」
 葵叉丹の顔が初めて、少し苦い物になった。
 ミロクが片胸を吹っ飛ばされて帰ってきたことではない。そうなった事自体である。
 だいたい、ミロクに命じたのは小娘とその連れの居場所を探ってこいと言ったのであって、片づけろとは言ってない。
 三騎士とは元々命じた内容が違うのだ。
 にもかかわらず、あんな姿になって帰ってきたのは、ほぼ間違いなくそっちじゃなくてこっちの居場所を掴まれたからだ。
 もしかしたら、首をにゅうっと伸ばしている所をばれたのかもしれないぞと、病床の本人が聞いたら逆上しそうなことまで葵叉丹は考えていた。
「葵叉丹様、次は私が参りましょう。いずれにしても、放っておくわけには行きますまい」
「放っておく」
「はっ?」
 怪訝な表情を見せた木喰に、
「ミロクがなぜあんな目に遭ったのかは知らないが、少なくとも奴が興味を持つ事にはなった筈だ。後は、奴がやって来るまで待つとしよう」
「それでよろしいのですか」
 味方の相次ぐ敗戦を気にも留めていないような葵叉丹だったが、顔を上げた途端木喰は凍り付いた。
 軽く目を閉じてはいたが、その全身からは凄まじい怒気が吹き上げていたのである。
 やはり、この不甲斐ない状況を楽しんでいたわけではないらしい。
 
 
 
 
 
「さーて、どう出てくるかねえ」
「だれが?」
「誰ってあの連中だよ。お前思考能力鈍ってるな」
 ぽかっ。
「も、もう痛いじゃない」
 マリアは現在シンジを膝枕――してるわけではなく、膝枕として使っている。その姿勢自体は別としても、この緩みきった表情を見た日には、女神館の仲間達が度肝を抜かれるに違いない。
「シンジは、どう見てるの?」
「来ない」
 マリアの髪をくしゃくしゃとかき回しながらシンジが言った。
「昨日の奴は、単にへなへなだっただけ。マリアと一緒で」
「わ、私あんなにへなへなじゃないもん」
「あんなモンだ」
 マリアの抗議を一言で退け、
「昨日だって、たかが五分保てばいいって言ったのに、それすら出来なかったじゃないの」
「だ、だってあれはシンジがえっちな事言うからその…ひあっ!?」
「予想された事態を指摘しただけだ。やっぱり感度の訓練からしないと駄目だな」
「ちょ、ちょっとシンジ、あんっ」
 膝枕されてるとは言え、シンジは別に身体を拘束しているわけではないから、その気になれば抜け出せるのだが、シンジの指が鎖骨辺りへ侵攻してきても、マリアはわずかに身体を揺らしただけで、抵抗しようとはしなかった。
 蛇のようにシンジの指が蠢き、それに伴って徐々にマリアの声が喘ぐようなものへと変わっていった。
 
 
 それから数日後、二人の姿は武候祠にあった。
 言わずと知れた成都の名所であり、古の大軍師諸葛亮と、彼が仕えたお人好しだけが取り柄の劉備玄徳以下の諸将が祭ってあるところだ。
 元は諸葛亮一人を祭る社だったが、隣にあった劉備の漢昭烈廟と併合されたのだ。
「しかし、訳分からないよね」
「何が?」
 シンジにきゅっと腕を絡めたまま、マリアが訊いた。
「当代きっての、と言うより史上希に見る大軍師が、あんなお人好しに三回誘われただけで着いていっちゃった理由。マリア、三国志は?」
「演義なら知ってるわ。大衆娯楽から生まれたもので、勧善懲悪の形を取っているものでしょう。お芝居でも、魏の曹操は常に悪役で蜀の劉備は善玉だったと思ったわ」
「化粧が全然違うんだ。お肌に悪そうなのが気になるが――何?」
 くすっと笑ったマリアを、シンジがちらりと見た。
「だ、だってシンジお化粧なんかしないのに、そんな事気にするんだもの」
 ぴたっと笑いを収めて、
「肌荒れが気になる娘(こ)が知り合いにいるのかしら?」
「別にいないけど何か?」
「そ、そう…」
 妙に嬉しそうな顔のマリアに、
「時々お前の頭の中、解剖してみたくなるな。人肉饅頭って映画知ってるか?」
「じ、人肉饅頭?」
「人体を解剖して、要らなくなった部分は饅頭に詰めて店に出すんだ。B級ホラー映画だよ」
 そんな話では全然ないのだが、シンジの脳内ではそう言う作品になってしまっているらしい。
「わ、私を解剖するのっ?」
「しない。面倒くさいから」
(め、面倒だからって…)
 シンジらしい。そう、確かにシンジらしい台詞なのだが、腕を絡めている娘に取っては、面白い台詞とは言えない。
 ただ、そんな物がシンジにはあまり関係ないと、マリアにも分かってきており、高望みするのは止めた。
 そんなマリアの様子など観察する気配もなく、シンジの足はさっさと違うところへ向いている。
「これが出師ねえ。確かに気合いは入ってそうだね」
「諸葛亮が北伐前に暗愚な君主に送ったとされるものね」
「名前は?」
「名前?え、えーと誰だったかしら…んんっ」
 絡めている腕を逆に取り、シンジが服の上から胸を揉んだのだ。
 人が周囲にいないからいいようなものの、こんな声を聞かれたらどうするのだ――おまけに赤くなった顔まで。
「劉禅だ。間抜けな君主でも名前ぐらい覚えなさい」
「だ、だからっていきなり胸揉まなくてもいいじゃないっ」
 顔を赤くして抗議するマリアに、
「触られたくない?」
「あ、当たり前でしょうっ」
「あっそ。じゃ、一切触らない」
「え?」
「触るなって言う女に触るほど物好きじゃないの」
 一切とは表で公然としないの意ではない、そう気づいた時勝手に言葉は出ていた。
「ちょ、ちょっとあのっ」
「何よ」
「べ、別にそう言う意味じゃなくて、その…ひ、人がいなかったらって」
「いいの?」
「ええ、いたっ」
 ぽかっ。
「マリアのえっち」
「シ、シンジのせいだもの」
「俺のせい?ふーん、数分も我慢できないでイクような娘が、俺のせいにするんだ」
「そうよ、シンジのせいよ」
「天性のくせに」
「天性じゃないもん」
「じゃ、生まれつきだ」
「も、もっと違うわよっ」
 なおこの間中、腕は絡め合ったままなのが、この二人らしいと言えるかもしれない。
 が、終わりは唐突にやって来た。
「『ん?』」
 不意に二人が気づいた――周囲から向けられる視線に。
 いつの間にか、痴話喧嘩もどきに見物人が大量発生していたのである。
「退却」
「そ、そうね」
 かさかさとその場から立ち去る二人に、いい川劇でも見せてもらった、と言うような視線が向けられた。
 なお川劇とは、四川の地方劇の事である。
 げんこつ。
「い、痛いじゃない」
「マリアのせいで出師の表が見られなくなっただろ。まったく石牌三絶牌までみられなかったじゃないか」
「石牌三絶牌?」
「諸葛亮を讃えて作られたやつで、気絶・悶絶・壮絶の三つがあるから三絶って言うんだ」
「う、嘘」
 まさかそんな物はないと思ったら、
「うん、嘘」
 あっさりとシンジは頷いた。
「気絶・悶絶って、そんなマリアじゃあるまいし。正確には碑文・書・彫刻の三つが卓絶してるから三絶って言うの――顔赤いよ」
 かーっとマリアの顔が赤くなり、
「し、知らないっ」
「いだだだ」
 絡めた腕に力が入り、おまけにぎゅっとつねられて、シンジは逃げようとしたが――逃げられない。
「だめ。逃がさないわよ」
 マリアはぞくりとするような声で囁いた。
 そうは言ってみても、実際のところ敵う筈もなく、
「さっさと泳げー!」
 プールに突き飛ばされたマリアは四往復してからやっと、あがる事を許された。
 無論着ているのは例の、紐とも水着ともつかない代物であり、白い尻が隠せていないのも相変わらずだ。
「はあっ、はあっ、はあっ…」
 泳げるようになったとは言え、元々カナヅチだったものが強引に水練へ引っ張り込まれたわけで、タイムはやはりまだまだ遅い。
 濡れた髪が貼り付き、ついでにギリギリで隠している乳首が、ぷくっと下から布地を押し上げていると言う扇情的な格好のまま、肩で息をしているマリアに、
「お疲れさま」
 自分がさせた事など初耳みたいな顔で、シンジが声を掛けた。
「い、いくら泳げるようになったからって、まだ初心者なんだからもう少し――!?」
 す、とシンジの顔が近づき、すぐに離れた。
「……」
 陶然となったマリアの指は、自分の唇に触れている。
(ど、どうして…その、あのえーと)
 頬にキス、は既に経験しているが普通にキス――唇へのそれはまだ一度もされていなかったのだ。
 そしてそれは、唐突に訪れた。
 たちまちマリアの顔が赤くなり、視線が彷徨うように宙を泳ぐ。
 赤くなって狼狽えているのは普通なら可愛いとか言うが、何せ着ているのは紐型の水着であり、しかも黒である。
 おかしなプレイを要求されて狼狽えているようには見えても、生憎それ以外の光景には見えない。
「先帰ってる」
 そう言って立ち上がったシンジだが、歩き出してからマリアの反応が無さ過ぎるのに気づいて気がついた。
「キャーッ!?」
 みるとそこにはゆっくりと水中に没していくマリアの姿があり、慌てて駆け寄ったシンジが飛び込み、よいしょと引き上げた。
 
 
「こ、ここは…」
 マリアが目覚めた時、辺りは真っ暗であった。
「私はどうして…」
 呟いた時人の体温を感じ、見ると自分がシンジの腕の中にいるのに気づいた。しかも自分はパジャマに着替えさせられており、ご丁寧に下着も着けている。おまけにブラだけしており、下半身は裸というかなり欲情モードの格好で、こんなのを男に見られたら日には、即猛獣と化して襲いかかって来かねない。
 だが自分に着替えた記憶はなく、プールから上がろうとしたらシンジにキスされて、頭の中が壮大な迷路と化した直後から記憶は抜けている。
 上がってきて、なおかつ着替えたのを覚えていないだけ、と言う事はあるまい。
 だとしたら。
「お、起こせばいいのに、わざわざ下着まで…もう」
 もう、が何を包括するのか、マリアは自分でもよく分かっていなかった。
 ただし下半身が裸なのは、シンジの趣味と言うよりも、さすがにパンツまではと考えた結果であろう。
 ふと視線を動かすと、そこにはうっすらと朱を帯びたシンジの唇がある。ほんの少し開いた唇は、まるで誘っているかのように見え、マリアの喉が小さく鳴った。
「……」
 少し、また少しとマリアの顔がシンジの唇に近づいていく。
 数時間前、初めて触れ合ったそこが再度触れようとしていた。後数センチ――もう吐息は感じられる距離まで来ている。
 だが、そこは結局触れ合う事は無かった。
 寸前で、マリアの顔がぴたりと停止したのである。
(何故?)
 どこかで、もう一人の自分が囁いたのだ。
 シンジは自分にキスなどしなかった。いや、してもそれは頬止まりであり、決して唇には触れようとしなかったのだ。
 それがどうして急にしたのか?
 マリアの脳裏にシンジの台詞が浮かんだ。
「俺が片づける」
 シンジはそう言ったのだ。
 フェンリルがその場にいれば、
「楽しそうだな」
 で済んだであろう。そしてまた、シンジの胸中もそれであった。
 だが、マリアはシンジを知らない。
 正確に言えば、その性格をあまりにも知らなかった。
 無論、まだ会ってから数週間だし、シンジの事など理解する方が難しい。ただシンジの方は、マリアの全貌をほぼ掴んでいたのだが、その差はひとえに会った時と育った境遇の差である。
 マリアは確かに戦闘には長けていても、それはあくまで自分のための戦闘であり、シンジのように余裕のあるそれではない。
 シンジの素性を知らないマリアは、無論実弟を愛するアブナい姉の事は知らないが、シンジ自身が一人だけ人外の力を持つわけではなく、小さい時から常に両親や姉を見て育ってきた事で、時として人を不幸にしかねない強大な力にも、余裕を持って接している事は事実だ。
 そしてまた、普段は本気など出せない事もまた。
 だいたい、シンジにとっては脇侍やら銀角やらを相手に暴れる方が、どんな石頭でも股間をおさえて呻きかねない下着で迫る姉から逃げるよりも余程楽なのだ。それに、シンジが出なければ、マリアは確実な死の待つ特攻を選ぶのが分かっていて、黙って見物しているシンジでもない。
 何よりも――本当はシンジが状況を楽しんでいることを、マリアは分かっていなかったのである。
 勿論、普通に考えれば理解に苦しむ発想ではあるが、シンジにしてみれば、やっと本気で暴れられる程度のものなのだ。
 しばらくシンジの顔を見つめていたマリアだったが、何かを決断したような表情になると、間もなくしてシンジの腕の中にそっと滑り込み、身を寄せていった。
 
 
「ねえマリア」
「何?」
「なんで最近、夜になると俺の所に入ってくるの」
「疲れるから」
「え?」
「水泳って結構疲れるんだから。シンジは私ばっかり泳がせるけど」
「それで?」
「だからその、シ、シンジの腕の中だと疲れ取れるし…そ、それにシンジはおかしな事したりしないから」
「ああ、それはない」
 シンジは頷いて、
「疲れてる躰に何かする趣味はないから」
「…そうよね。それに、私がくっついても何とも思わないんでしょ」
「うんそれは当――い、いやその毎晩理性が決壊しそうで怖いんだけど」
「嘘ばっかり。そんな事よりシンジ、話の続き聞かせて?」
 確かに最初は自分から腕に抱いては寝たが、何にもしてはいない。
 別に気持ちよくはなかった筈なのに、毎晩夜になると添い寝状態だ。マリアの心中を知らないシンジは首を捻ったが、元より答えなど出ないから、今晩もまた、マリアは腕の中にいる状態だ。
「はいはい。えーと、それで何の話してたっけ?」
「シンジがベッドの下にポルノを秘蔵してる話よ」
「そうそう…って、それは俺じゃなくて友人の話」
「本当に?」
「本当だってば」
「言いにくい事ってよく、友人の経験談にするわよね」
「それは女の子の話。俺と一緒にするなってば」
「シンジは持ってないの?」
「ない。現地行って現物見ると興ざめするから」
「何の事?」
「何でもないよ。さ、ほらもう寝るよ。夜更かしは肌に悪いんだから」
 この数日間で、シンジは何となく子供を寝かしつける母親の気分が少しだけ分かったような気がした。
 そう、少しだけ。
「マスター、見つけた」
 フェンリルが戻ってきたのは、その数日後の事である。
 なにせ広大な土地で本拠地を探したもので、さすがのフェンリルも日数が掛かったらしい。
「どこにいた?」
「ここから西南へ下った所へ冬は湖だが、長期間干上がって草原になる所がある。その付近に山があるのだが、そこの山麓を一面埋め尽くしていたぞ」
「あ、あの…」
 遠慮がちに口を挟んだマリアに、
「何だ」
「か、数は」
「二千では足りん。辺りがあの者達で埋め尽くされていた」
「そ、そんな…」
 とそこへ、
「ちょうどいいじゃないの」
 呑気な声がした。
「一騎当千じゃつまらないし、もうちょっと上やって見たかったんだ。フェンリル、いいね?」
「私は常にマスターと共にある」
「シンジ…」
 不安そうにシンジを見たマリアに、
「大丈夫だってば。気にするようなもんでもないよ」
「え、ええ…」
 その日の晩、
「マリア、俺はもう上がったから入ってきたら…マリア?」
 シンジが入浴する前は確かにいたのに、マリアの姿が見えない。
「おかしいな?」
 首を傾げたが、
「その内出てくるでしょ。じゃ、俺はゴロゴロしながら烏龍茶でも…」
 布団を持ち上げたシンジの手が固まる。
「…マリア?」
「シンジお願い、一度だけ、一度でいいから…抱いて」
「……」
 中で待っていたのは、一糸まとわぬ全裸のマリアであった。
 
 
 
 
 
(つづく)


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