妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
 
 
M−6:混浴と初めての言葉
 
 
 
 
 
「マスター」
「何?」
「生肉を食べる習慣などあったのか?」
「あるわけないだろ、俺を何だと思ってんのさ」
「…」
「マリアの事?」
「そんなに気に入らないのか?」
「フェンリルはまだ、人間が分かってない」
 シンジがわずかに薄目を開けた。
「私が?」
「そう。俺は別に、しつこく嬲る趣味はない。気に食わなければ、もっと違う手段で片づけている。お前ももう少し、主の事は知っておくことだ」
「…分かった。それでマスター、気に入ったのか?」
 シンジはほんの少し笑った――ように見えた。
「さて、ね。気に入らないのでなければ好き、と直結するもんでもないよ」
「ではどうする気だ?」
「取って食う気はない。目下はそれだけさ」
 よく分からぬ答えではあったが、この人間の主については、確かに自分もよく分からない部分が多い。
 と言うよりも、聞くほどに難解な思考が返ってきそうで、フェンリルはそれ以上訊くのを止めた。
 
 
 
 
 
「そんなに食べないじゃない」
「え?」
「昼は一日十キロぐらい食べるのかと思ったけど」
「そ、そんなに食べるわけないでしょう」
「昼のあれからすると、三倍してそれくらいなるんだけど」
「あ、あれはその…」
「俺に対する嫌がらせ?」
「べ、別に…」
 別に、どころか嫌がらせそのものだったが、
「ま、その前に生肉食べさせたしね。八つ当たり食いもやむを得ない」
「そうよ。元はと言えばあなたが…あ」
「やっぱり嫌がらせだなー!」
「ちょ、ちょっと止めっ…あうっ」
 にゅうと伸びた腕が胸を襲った途端、とんでもない快感が襲ってきた。理由を分析する余裕もなく、マリアは慌てて胸を押さえたが、いかんせんエレベーターの中で、逃げ場はない。
 咄嗟にしゃがみ込んだマリアに、
「パンツ見えてるよ」
「くっ!」
 きゅっと足を閉じたが、チャイナドレスだから今度は横が心許ない。追いつめられたマリアに、
「着いた。そんな所でヤンキーのお姉さんやってないでほら行くよ」
 何をしてるのかと言わんばかりにシンジが手を伸ばす。
「待って、ちょっと力が入ら――ないのっ」
 蹌踉めいたと見せかけて思い切り手に力を入れる。
 シンジが躓いた隙に立ち上がり、そんな所で何をしているのと言ってやるつもりだったが、どうやら見抜かれていたらしく、
「しようがないな、もう」
 長身ごとぐいと引き寄せられてしまったのだ。
 ほとんど触れ合う位まで顔を止せ、
「二泡吹かせてやろうとか思ってなかった?」
「お、思ってないわそんな事はっ」
「ふうん。まあいいや、行くよ」
 最上階の部屋はさすがに眺めもいいが、灯りのない場所の方が多いのは、やはり自然を抱えた街だからだ。
「お茶にしよ。マリアお茶いれて」
 上着を脱いでハンガーに掛けながらシンジが言ったが、そう言われても分からない。
「お茶?」
「そうお茶。そこにポットみたいなのがあるでしょ。そこに入ってるから」
 言われて水差しみたいなそれを見ると、なるほどまだ熱い烏龍茶が入ってる。
「タイマーはついてないのに」
「どしたの?」
「まだこれ熱いわ。数日前からこの部屋を取ってあったの?」
「違う。下で予約した時に頼んだから。ここ三十四階だし、うちらがエレベーターで遊んでる間にそれくらいの時間はあるんだ」
 それにしても、パスポートすら失った自分であり、確か泊まる時にはパスポートの提示を求められる筈だ。
 無論マリアは、シンジからして不法入国である事は知りもしない。
 湯飲みを傾けると熱い液体が食堂を滑り落ち、じわりと芯から暖めてくれる。
 ふと、マリアはテーブルを挟んでシンジがじっと見ているのに気がついた。
「な、なに」
「マリア、お前まだ後悔してるの」
「ごめんなさい…」
「……」
「シンジが言う事は分かるの。私がもし反対だったらきっと、身を挺しても逃がそうとしたかもしれないもの。でもやはり…自分の甘さが悔やまれて…」
「うぬぼれるな」
「シ、シンジ?」
「そんなに自分が評価できるのか、お前は?」
「ど、どういう事」
「いい、マリアが今言ってるのは、自分の選挙区に気に食わないのとどうでもいいのとがいて、気に食わないのが数千票の差で圧勝したのを見て、自分が投票していれば変わったのにとか言うようなモンだ。分かった?」
「……」
 完全には納得していない表情のマリアを見て、シンジはそれ以上言わなかったが、その代わりに、
「マリア、ちょっと来い」
「え?」
「ここだ、ここ」
 二人の間にあるテーブルは椅子に座るタイプではなく、床へ直に座るタイプだ。
 自分の足の間を指したシンジに首を傾げたが、
「ここだってばほら」
 もう一度促したシンジに、よく分からぬまま移動した。
「座る」
 言われるまま座ってから自分の位置に気がついた――自分が今どこにいるのかを。
 立ち上がろうとした途端、にゅっと腕が伸びてきた。
 コブラみたいな速さで伸びてきたそれはマリアの肩から回され、
「マリアは少し余計な意味でこだわり過ぎるんだよ」
「…私が?」
「マリアの事はこの際放っておくとしよう。ところで、死んでいった連中は最後まで何を気にしていたと思う?連中がこの先どこを目指すか、か?それとも南郷さつきに報告出来ないこと?どれも違うよ」
 軽く首を振り、
「女――マリアがちゃんと逃げおおせたかどうか、だ。責任感ではなく義務からでもなく、プライドの為にもマリアには逃げてもらわにゃならん」
「プ、プライド?」
「戦死した時、女を巻き添えにしなかったという事だよ。そもそも、マリアの配置は最後方だったでしょ」
「ええ」
「それはつまり、戦力外通告とか言う事よりも、女を巻き込みたくないと言う方が多分強かったんだ。まして、数で力に自信があるなら尚更だ。男だったら顔に傷を負っても名誉の負傷で澄むけど、女はそうは行かない。どんな美貌でも、小さな傷一つで台無しになる、あるいはそう見なすのが女だからだ。でもマリア」
 回した手に軽く力を入れ、
「どうして、そこまで気にするの?」
 ふうっと吐息が耳にかかり、マリアの身体がぴくっと揺れる。
「それは…」
「それは?」
「二度目だからよ」
「マリアって前世とか信じてる系統なの?」
「そんなんじゃないわ…私のミスで仲間が死んでいったのが…はうっ」
 ふううっ。
「お前のミスじゃないっつーの。いい加減しつこいぞマリア」
 確かにシンジの言うとおり、仮にマリアが抗議したとしても、四十名からなる精鋭達が、自分達の十分の一程度の数しかいない敵を前にして、さっさと撤退したとは思えない。なによりも、こんな所にあんなのがいましたと報告するより、倒して残骸なり何な利を持って帰った方が役に立つ事は事実なのだ。
 その点では確かに、マリアがいくら自分を責めた所で、冥土に行った者達の懸念の種が尽きぬだけであり、前向きとは言えない。
 だが二度目、とはどういう意味か。
「シンジ、それは違うわ」
 はふう、とかかる息に悶えそうになる身体を何とか抑えながらマリアが言った。
「確かにシンジが言うように、私が何かしたところで、事態は何も変わらなかったかもしれない。でもシンジは、危険に遭った時、何もしないで諦めるの?」
「俺の辞書に屈服とか言う単語はないの」
「そうね。そしてまた、すべきだとは思わない?」
「あー分かった分かった。例え結果はどうあれ、何もしなかったってマリアは言うんだろ」
「そうよ…んんっ」
 首筋に唇が触れたと思った瞬間強く吸われ、思わずマリアは喘いだ。
「二週間位は消えないから、毎朝鏡で見るたびに思い出すがいい。この話はこれまで――それで?」
「それでって?」
「だからこれが二度目になる原因のお話」
「今回私は最後方だった。でもあの時私は最前線――いつも先陣を切っていたのよ。あの時だって私の判断ミスで隊長を死なせてしまった…」
「ネズミと敵部隊を間違えたの?」
「似たようなものよ。廃村に敵を追いつめ、斥候を行かせたわ。報告は敵影一つも見あたらず、だった。敵は三名を切っていた筈だし、私達は三十からいたから確かに逃走は当然に思えたわ。でも隊長は何故か慎重だった」
 マリアは、いつの間にか抱き寄せられた自分の身体がシンジに寄りかかっているのに気づいたが、なぜか引き離す気にはなれなかった。
「村へ入った私を待っていたのは、戻ってきた筈の斥候の死体だったわ。敵の中に、他人の姿や声をそっくりに模写出来る者がいたのよ。隣にいるのも前方で死体となって転がっているのも両方同じ人間――気づいた時にはもう、私は機銃を向けられていたわ。私は奇跡的に三発の銃弾を浴びただけで済んだ…銃声が鳴りやんだ時、そこにいたのは三発の銃弾を受けた間抜けな女と、数十発の弾丸を浴びた隊長、そして額を撃ち抜かれた偽の斥候だったわ。しかもそれは、私の手による傷ではなかったのよ」
「マリアはびっくりしちゃってた?」
 囁くような声に、
「その通りよ」
 マリアは自嘲気味に笑った。
「双子じゃない、というのは本能で分かったわ。つまり、何らかの方法で入れ替わりが行われたのだと。でも分かったからって普通はあり得ない――そんな下らない事を生死の境で考えて、手すら動かなかったのよ」 
「隊長さんが最後の力で撃ったか。ところでマリア、その隊長ってのは義勇軍みたいなもんだったの」
「似たようなものよ。構成していたのはいずれも、ソ連の崩壊に伴う内乱で、家族や大切な人を失った者ばかりだったわ」
「ふうん。で、その隊長は男?」
「ええ」
「即死だった?」
「なっ…」
 無論マリアにとっては、決して笑い話にはならない。それをいとも簡単に即死だのなんだのと、シンジは一体何を考えているのか。
「即死だったか、と訊いてるんだけど」
「ち、違うわ…」
「あの世に行く前に最期の話はしたんだな」
「え、ええ…」
「お前に恨みとか言ったか?マリアタチバナ、お前が間抜けじゃなかったら、自分は死なずに済んだんだとか、お前のせいで自分の未来は終わっちまったどうしてくれるんだコラとか、言われたか」
「……」
 
 
「隊長っ、隊長っ!!」
 血相を変えて駆け寄ったマリアに、隊長は血に染まった手を上げた。
「あまり…大きな声を…出すな…。お前に…話をする前に…お迎えが来るだろうが…」
「今、今すぐに手当をっ」
「いい…それより聞くんだマリア…」
「は、はい」
 手どころか既に全身が朱に染まっており、何で生きてるのかすら不思議な位である。
 文字通り最後の力を振り絞り、
「傷は…大丈夫か…」
「こ、こんなのはかすり傷です、たいしたことはありませんっ」
「そうか…無事で……良かった…俺は…大した事ない人間…だったが……お前を死なせなかったのは…地獄の門番にも…自慢できる…いいかマリア…俺はお前など……待っていないからな…百年は…来、る……」
「隊長っ!!」
 
 
「男だねえ」
「…馬鹿にしてるの」
「マリアが馬鹿だっつーの。学習して無いじゃないの」
「…どういう意味」
「銃弾をそんだけ浴びれば、もう意識は朦朧となってるし、一言話すだけでもつらいはずだ。それが、何でお前にそんな事延々と言ったと思ってるんだ。お前が馬鹿の一つ覚えみたいに、責任とか言い出すのを分かっていたからだ。少なくともその隊長ってのは遺言通り、お前を死なせなかった事で満足して死んでいったんだ――魔道省の連中と同じようにな。そんな時、女同士だったらどうなるかなんて、俺は知らないし興味もない。でも少なくともその連中に共通してるのは、女を死なせずに済んだという一種の侠気にも似た感情だ。それが一度目ならまだしも、二度目になってもまだ分かって無いじゃないの」
「分かってるわっ!!」
「…」
「だから、だから男は勝手なのよっ!自己満足で死んでいく人はいい、だけど、だけど残った人はどうなるのっ。自分だけ生き残って万々歳、そう言えると思ってるのっ」
「思ってる」
 マリアの叫びと反比例するかのように、シンジの声は静かであった。
「隊長とやらの一件は、震えていたお前に代わり、銃弾を浴びながらも敵を片づけたんだ。だが今度の一件はどうなる?マリアにはいくつか道がある。まず一つは素手など無視して敵に斬り込み、まったく被害を与えられずに討ち死にする事。そしてもう一つはなんとしても日本へ帰り、魔道省長官に事態をすべて報告する事だ。お前を派遣した間抜けな奴は知らないが、さつきの婆さんならすぐに事態を判断して動く筈だ。傍観するにせよなんにせよ、ね。でもねえマリア、お前が何を勘違いしてるのかは知らないが、そのいずれも生きてる人間にのみ許された事であって、幽霊や地縛霊に出来る事じゃないんだよ。それ分かってる?」
 マリアの激昂にも、シンジは決してつられる事はなく、回された手にもまったく変化は無かった。
 沈黙が流れた数十秒後、シンジは腕に熱い物を感じた。
 回していた腕に涙が落ちてきたのだ。
「ごめんなさい、本当は…本当は分かっていたの…」
 シンジは動かなかった――涙の量が増え、やがて袖を熱く濡らすまでになっても。
「ある意味では、死んだ人間の方が楽なんだよ」
 素地はもう出来ていたのだろう。
 そしておそらく、シンジの一言はだめ押しだったに違いない。
 とまれ、黙ってれば袖だけで済んだものを、シンジは胸まで濡らす羽目になった。
 マリアが一頻り泣いた後、シンジはそっと立ち上がった。
「ど、どこへっ?」
 姿を消す母を見た子供みたいな表情で訊いたマリアに、
「お風呂。服が濡れたから入ってくる」
「あ、あのっ」
「え?」
「な、なんでもないわ」
「…一緒に入る?」
「べっ、別に私はそのっ、そ、そんなつもりで言ったわけじゃっ」
「そう。じゃ、入ってくるから待って――て?」
 きゅっ。
「あ、あの、わ、私も…」
 シンジは気を利かせて言い出したわけではない。ただ、マリアが反射的に反応したような気がしたのだ。
「入る?」
 マリアは俯いたまま、小さく頷いた。
 
 
「ちょ、ちょっとシンジそこやだっ」
「洗ってるのに?」
「も、揉んでるだけじゃない――ふあっ」
 自分で入ると言ったくせに、バスタオルで身体を覆っているマリアに業を煮やし、シンジは強引に湯船に引っ張り込んだ。
 三人は優に入れる造りになっており、シンジの足の間に引っ張り込まれてもじもじしているマリアを見て、
「そう言えば、裸に剥いたけどまた身体検査とかしてなかったな」
 と、とんでもない事を言いだした。 
「ちょ、ちょっとシン――ひゃっ!?」
 ちゅっ。
 首筋に唇を付けると軽く吸う。
 うっすらと鬱血したそこに指を這わせ、
「不摂生な生活してた割には綺麗な肌してる」
「べ、別にそんな事…はふっ」
 指は左側を、唇は右側を担当し、俗に性感帯の一つとも言われる首筋を丹念に責めていく。
 指が肩胛骨辺りまで達した時には、もうマリアは全身をピンク色に染めていた。
 しかし、無論それだけでは終わらず、脇の下を指がなぞり、マリアがぴくっと背を反らした途端、乳房はその手にすっぽり収まっていた。
「じゃ、洗ってないと言う事にしよう。その上で再度揉み直し」
「だ、だめっ、そこ弱いのっ」
「どこ?」
「む、胸…あう」
 乳房から指を離し、
「胸とはここからここまで全部だ。ほら、ここ弱くないじゃない嘘つき」
「う、嘘つきってそんな…」
「もう一度訊く。どこが弱いの?」
「そ、その…はあっ」
「胸なんて大嘘言ったらお仕置き。ちゃんと言ったら許してあげる」
「そ、そんな意地悪いわな…ううンっ」
「言う気はないみたいだね。じゃ、このまま――」
「ま、待ってっ」
 慌ててマリアはシンジの手をおさえた。
 どういう原理かは知らないが、シンジに触れられると、それだけで電流みたいな快感が流れ、乳房がかーっと熱くなる。
 それが、自分の感情とは無関係である事にマリアは気づいていた。
「言う?」
「ちゃ、ちゃんと言うから、だからその…」
「じゃ、止めてって」
「え?」
「おっぱいは感じ過ぎちゃうから止めて、そう言ったら止めてあげる」
「そ、そんなっ!」
 そんなに卑猥な台詞ではないが、マリアは今までに一度も口にした事がない。
 だいたい、男と二人で入浴などと言う事からして、初体験なのだ。
 しかしシンジの指は早くも脇腹に移動した。
「感じるのはそこだけじゃない。他にもまだまだあるよね」
 片手は膝を立てているマリアの脇腹をうろつき回り、
「くふうっ…」
 もう片方の手は、何とか唇を噛んでこらえているの無駄だと言わんばかりに、乳首をきゅっと挟んだ。
「ひうあっ!?」
 二本指に挟まれた途端、みるみる乳首が硬く尖ってくる。
「だ、だめ止めてえっ」
 ぴたっと指が止まり、
「じゃ?」
「…お、おっぱい…」
「だけ?」
「お、おっぱいが感じ過ぎちゃうから止めてえっ」
「よく言えました」
 すっと指が離れた。
「でも乳首も硬くなってるし、せっかくだからやっとこうね?」
「ちょ、ちょっとそんな話が違っ…シンジの嘘つきーっ!!」
 そして三十分後。
 全身を茹で蛸のように染めて、ベッドの上で荒い息をついているマリアがいた。
「あー疲れた。マリアってば感じやすいんだから」
「シ、シンジのばか…もう信じないから…」
「胸だけで三回もいったくせに。だいたい、放って置いたらあのまま土左衛門だったんだぞ」
 シンジの言葉通り、シンジの指は肋骨から上しか侵略しなかった。
 それでも揉まれ、挟まれ、ねじられる度に信じられないような快感が吹き上げ、マリアは喘ぎながら身悶えし、結果として胸だけで三度も達してしまった。
 おまけに最後は脱力状態になっており、放って置いたらいずれぷかぷか浮いてきたかもしれない。
「ところでマリア」
「なに…」
 気怠げに顔を上げたマリアに、
「おっぱいとか言ったの初めてでしょ」
「し、知らないわよばかぁ…」
 ぷい、とそっぽを向こうとしても身体に力が入らない。陸揚げされた魚みたいな動きのマリアを見ながら、
「長湯したからのぼせた。何か飲む?」
「飲む」
「買いに行くのも面倒だから持ってきてもらおう」
 メニューを見ていたシンジの目が、ある所で止まった。
「国王ヌーボー?なにこれ?」
「どうしたの?」
「ワインの一つに国王ヌーボーってのがあるんだ。これ何だろ」
「飲んでみましょ。毒は入ってないでしょう」
「俺飲めないんだけど」
「私は飲めるわ」
「いや、俺が飲めなくて――」
「シンジにさんざんおっぱい触られて、もうおかしくなるかと思ったわ。シンジはいいわよね、触るだけだもの」
「分かった分かった、じゃこれにしよ」
 急激に色香を増したマリアの流し目に押され、シンジは内線に手を伸ばした。
 国王ヌーボー、それがどんな物なのかを知りもせずに――。
 
 
 
 
 
(つづく)


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