妖華−女神館の住人達外伝
 
 
 
 
 
M−4:五文キャラ退治
 
 
 
 
 
「マスター、なぜ自分で飛んだ?私が行ってもかまわなかったが」
「にゃに?」
「だから私が行っても良かった、とそう言っているのだが」
「なんてこったい」
 肩まで浸かったまま、シンジは大げさに天を仰いだ。シンジの方が先に目を覚ましたのだが、下着がない状態で毛布を掛け、なおかつきゅっと抱き付かれるとどうなるか。
 簡単な事だが体位が変化し、しかも周囲を囲む小さいながらも火柱達のおかげで十分に暖かいから、毛布はついてこないで体だけ移動している。
 その為シンジが目を覚ました時、一番最初に視界に入ってきたのはピンク色の乳首であり、シビウやその他の娘と一緒に寝ていた時でも、この体験は一度もした事がない。
 一瞬白昼夢かとぎょっとしたシンジだが、数回目を瞬かせてから、
「お〜、そう言えばそんな事もありました」
 思い出したらしい。
 が。
「ちょっと元気だ――お風呂入って来る」
 健康はいい事の筈だが、ひょろりと立ち上がると自分で作った露天風呂へと歩き出した。
 しばらく浸かっているとわずかな気配を感じ、振り向くとフェンリルがいた。
 珍しく妖狼のままである。
 シンジをじっと見ているから、どしたのと訊いたら、冒頭の台詞が返ってきたのだ。
「マスターの命に私が従わない、と?」
「そう言う問題じゃないよ。ただ、頼んでいいもんか決めかねてさ。だから自分でへろへろと飛んでいったの」
「へろへろ?随分と慣れた飛行のようだったが。ところでマスター、あの娘を発見した時の事だが、何時の間にあんな技術を?」
「あんな――アンナ…ああ、あれね。色々考えたんだが、一つ分かったんだ」
「何を」
 フェンリルの声が幾分尖って聞こえるのは、無論マリア絡みではなく、シンジの見せた技量にあったろう。
 教え子に出し抜かれたような気がしているのかも知れない。
「フェンリル言ってたよね、俺の素質はそこそこあるって」
「幾分だ」
 シンジは別に気にした様子もなく――と言うより突っ込むと面倒だと思ったのかもしれない。
「と言う事は、使い方だと思うんだ。要するにイメージ」
「イメージ?」
「つまり、普通の人間に火の使い方って言っても、日常生活の中でやってる事しかできないし、例えば落雷で木が燃えて火事になる、なんてちょっと変わった人間しか思いつかない。だから俺の劫火とか見たら腰を抜かすんだ。でもその逆に、イメージが出来れば別に怖くないし、加えて好きなように操る事も出来るってね」
「その結果があれか?」
「そうあれ。見方を変えれば可能性は無限大に――とは少しオーバーだけど、かなり広がるんじゃないかと思ったの。例えば」
 湯の中からシンジの腕が湯を弾きながらにゅっと出てきた。そして五本指が軽く開かれ、そこから飛びだした巨大な炎が、五頭の虎の形を取るのをフェンリルは黙然と眺めていた。
 それをどう取ったのか、
「フェンリル姿戻せ」
 否定も肯定もせず、フェンリルが女の姿を取るのと、シンジがその手を引っ張るのとがほぼ同時であった。無論、正確には後者が若干遅れてはいるのだが。
「別にフェンリルが不要なんて思ってないよ。この程度で用済みなら、最初から従魔になんかしてない。フェンリルには、俺が世界制服するまで付き合ってもらうからな」
「何を言うかと思えば。そのような事、私が気にするはずも無かろうが。とは言え、引きずり込まれた以上は仕方ない、付き合ってくれる。しかしなぜ世界制服なのだ?普通は征服の筈だが」
 フェンリルは少しだけ早口で訊いた。
 理由は分からない。
「バレリーナみたいなピンク色で、ついでに背中には盆暮れって書かれた制服を、世界中の被征服民に着せるんだ」
「何のために」
「盆と暮れは、俺に付け届けを欠かさずさせるため」
「面白い事を言う人間だ。もっとも、それもまた変わった趣向ではあるな」
 フェンリルの指が動いてその体から衣服が取り払われ、そのまま裸体がシンジを引き寄せる。
「何?」
「何となく、だ。たまには良かろう」
「あんまり良くないんだけどな〜」
 言いかけたが途中で止め、その代わりにシンジの眉が僅かに寄った。
 
 
 
 
 
「マリア?」
「え?」
「今なんつったの」
「だ、だから銀角って」
「金角って知ってる?」
「金角?いいえ、知らないわ」
 駄目だこりゃ、と肩をすくめたシンジにマリアの表情がぴくっと動いたが、すぐに驚いたような表情へと変わった――自分に対して。
(なぜ私はこんな反応を…)
 そんな動きを知ってか知らずか、
「金角ってのは銀角と合わせてやっと一人前で、名前を呼んだら吸い込ん――こら」
 ぽかっ。
「な、なにっ?」
「なにっじゃないよ、俺今なんて言った?」
「あ、あの、えーと…」
「聞いてなかったな?」
 ずもももも。
 マリアの自問などお構いなしに、危険な気が立ち上ったシンジだったが、
「まあいい。こんなのに聞いた俺が馬鹿だった」
「こ、こんなの?」
「モンスターを前にしてぼーっとしてるし。妄想でもしてたの」
「し、してないわそんな事はっ」
 別に妄想ではないが、思わずムキになったマリアに、
「ふーん、あっそ。じゃ、頑張って」
「え?」
「その銀角とか言う奴。狙いは俺じゃなくて君でしょ?巻き込まれるのは嫌だし、さっさと片づけちゃって」
「……」
 きゅっと唇を噛み、ぐっと手を握りしめるとマリアは何も言わず歩き出した。既に銀角共は二十メートルほど先に迫っている。
 だが素手のまま、体術も持たぬマリアは一体どうするつもりなのか。
 
 
 
 
 
「探索?何のために?」
「はっ、それが脇侍の残骸がまったく見つかりませぬ。断崖から落ちたとしても無論破片は残ります。ですが、探査機にそれが皆目映らぬのです」
「どういう事だ?」
 初めて顔をこちらへ向けた葵叉丹に木喰は、
「考えらにくい事ではありますが…何者かに滅ぼされた可能性が――」
「ほう。しかし、あれの素材は簡単に消え失せるような物なのか?」
「斬られた、或いは撃ち抜かれた程度では消えませぬ。ですがもし…もし万が一凄まじい熱量のエネルギーなどが加わればあるいはということも」
「木喰」
「はっ」
「この辺りに活火山はない。そして無論、沸騰する湯が湧き続ける天然の温泉とやらもだ」
「御意の通りにございます」
「にもかかわらず脇侍が数十体、跡形もなく消えたとあればかなりの可能性で人為がそこに加わっていよう。この計画には、些かの齟齬も許されぬのだ。すぐに人を出して捜させよ。おそらく其奴はまだ、この近くにいるはずだ」
「はっ、さすれば猪鹿蝶の三人に銀角を付けて行かせます」
「それでいい」
 こうしてやって来た者達が…不幸にしてシンジと会ってしまったのである。
 
 
 
 
 
 歩き出したマリアの背中に死神の影を見ながらも、シンジは動かなかった。それどころかその視線には、まるで車中から流れる景色を眺めている感すらある。
 と、不意にマリアが身を低くして走り出した。
(何すんだろ)
 それでも手は軽く曲げたままシンジが見ていると、一体の銀角に狙いをつけ、その右腕を蹴り上げると落とした刀を手に取った。
「いやあああっ!」
(まあまあ…あ、大丈夫)
 眺めているシンジが内心で呟いた。
 確かに刀を手にしたまでは正解である。どのみち、武器はないのだから。
 しかしそれで斬りかかるようではならないのだ。胴から真っ二つにする技量があっても刀が保たず、消費の時間を早めるのみとなるからだ。
 マリアもそれは分かっているようで、手や足、あるいは首を狙って正確に切り落としていく。
 たちまち数体が地に転がったが、しかしそこまでであった。
「電子牡丹!」
 やや甲高い声と共にマリアの足下を襲ったのは、なんと雷撃だったのだ。
「じゅ、十万ボルト」
 うーんと感心しているシンジだが、次の瞬間そこへマリアが飛んできた。
 無論吹っ飛ばされたのだ。
 ぼむっと受け止めると、息の荒いマリアに、
「お帰り」
 と囁いた。
「は、放してっ」
「まあまあそう言わないで」
 はふうっ、と耳元に息を吹きかけるとマリアの体がびくっと揺れ、たちまち耳朶が赤く染まった。
「悪くはないよ。でもね、根本的に足りないの」
「足りない?」
 抱きかかえたままのマリアに、
「マリアって銃しかないでしょ。だから結局それが無いとお手上げになる」
「そ、それは…」
「こんな中国のど田舎に来ても見るものないでしょ。はるばる帝都から来たんだから冥土のみやげに、じゃなかった参考までに見ておくといい――五精使いのスキルを」
 マリアをそっと降ろし、
「その辺で見物しててちょうだい。俺の目に悪いから」
「ど、どうせ私の動きなんか見苦しいと言うんでしょ」
「そうではなくて」
「?」
「たしかにおとなしめのスリットではあるけど揺れるんだ。しかもマリアってばパンツ穿いてないんだよね」
 ぼっ。
 次の瞬間、マリアの顔が音を立てて染まった――怒りと羞恥の色に。
「み、見たのっ!?」
「きんい…ううん、なんでもな――OUCH!」
 飛来した小石が音を立ててシンジに命中し、シンジは後頭部をおさえた。
「…痛いじゃないかこら」
 しかしギヌロと睨んだ先は銀角共であり、マリアには向かなかった。
「さっきマリアに雷ぶつけた馬鹿はどこにいる。さっさと出頭してこい」
 雷などどこ吹く風みたいな表情のシンジに、銀角の群れを割って中ボスらしき三人が姿を見せた。
「ところでマリア、なんでこの連中銀角なの?」
「親玉がそう呼んでいたのよ。昨日あなたが倒したのは脇侍と呼んでいたわ」
「脇侍は分かる。脇に控えている侍だから。でも銀角が分からない。銀角は常に、金角と一緒って相場が決まってるんだ。片方しかないのは正式な銀角じゃない。そんなのは偽物だ。そんな事も知らないんじゃ、大ボスのレベルもたかが知れてるな」
「葵叉丹様の悪口は許さないわよっ」
 キンキンする声にシンジが顔をしかめながら、
「…誰だアンタ」
 訊ねたシンジに、
「よく訊いてくれたわね。アタシこそは葵叉丹様の――」
 だが最後まで続ける事は出来なかった。
「風裂」
 竜巻のような形状をした風が刃と化し、その体を分断したのである。
「朝っぱらからキーキーうるさいっての。お前はどこかの悪魔みたいな名前のやかましいおばさんか?」
 悲鳴一つあげる事も出来ずに消滅したそれを見て、残りの二人が血相を変えた。
「『蝶っ!』」
「蝶?また嘘つきな名前付けちゃって」
「何だとっ」
「蝶なら羽がある。羽があるなら飛べるものだ。なぜかわさなかった?」
「貴様…」
「大丈夫、すぐに後を追わせてあげるから。一応名前だけは聞いておこうか」
「聞いて驚くな。降魔三騎士が一人猪」
「同じく鹿だ。蝶は油断したからやられたが、我らはそうはいかんぞ。食らえ、氷魔紅葉落としっ!!」
「あ、氷芸」
 ざざっと銀角達が後方に下がり、それと同時にその両手から放たれた冷気でみるみる周囲が凍りついていく。
「このまま貴様も氷漬けにしてから木っ端微塵に砕いてくれる。覚悟しろ!」
 それがなかなかの速さで迫って来るにもかかわらず、まるで打つ手を奪われたかのようにシンジは動かない。
「シ、シンジっ!」
 思わずマリアが叫んだ途端、
「間欠泉タイム」
 ぽむ、とシンジが地を踏んだ刹那、同時に開いた四つの穴から凄まじい勢いで熱湯が噴き出して来た。それは洞窟内を凍り漬けから救い、しかも鹿の方に方向を変えて襲いかかったのである。あっという間に周囲が蒸気に満たされ、一瞬視界を遮られたマリアが思わず目をこすった時、ふっと体は抱きかかえられていた。
「ちょ、ちょっとっ!?」
「服乾かすのが面倒なんだよ。も少し後方で見物しててね」
 シンジがマリアを軽く降ろすのと、
「爆炎・萩列砲弾!」
 今度は勢いよく火の行列が襲ってくるのとが同時であった。
 一瞬にして水蒸気を消し、湯の流れさえこちらに敵する物と変えたそいつのせいで、今度は火に後押しされた熱湯がこっちに向かってきた。
「合体攻撃か、なかなか面白い芸をする。でも相手が悪かった――五精使いには大地も含まれる事、覚えておくがいい。三途の川を渡る時、渡り賃代わりのテストに出る」
 ぴしっと周囲の岩壁に亀裂が入った途端、巨大な岩が一斉に落下すると揃って湯と火への壁となって立ちふさがる。
 バリケードを築いて防いだ、と思われたのもつかの間で、みるみるそれが圧力に耐えかねて壊れて行くのを見たマリアは顔色を変えたが、シンジの方は平然としている。
「結局のところ、三人を全部合わせると反発するってわけだ。分かる?」
 ふるふると首を振ったマリアに、
「熱湯なら水でうち消せばいい――自家用雹作成機」
 奇妙な台詞と共に、左手からは風、右手からは水が放たれ、岩はあっという間に巨大な雹と化した。
 またも洞内に水蒸気が充満したがそれもわずかな間で、
「一本ではポキッ、二本でも何とかポキ。でも三本なら誰にも折れない。これが三本の矢の教えという。三人まとめて来るべきだったねえ」
 姿の見えぬボス二人に説教みたいな口調で言うと、シンジはすっと腕を伸ばした。風がその腕にまといつき、みるみる大きな渦を描き出す。
「火と雷と氷。技の配分間違ってるな」
 確かに火と氷は単体なら強力でも、合わせるなら余程慣れたタイミングで無ければ相殺してしまう。
「では」
 シンジが軽く腕を振った途端風はその腕を離れ、周囲の物を巻き込みながら崩壊しようとしている岩に向かっていく。
 巨大な雹となったそれが木っ端微塵になった途端、
「雹魔乱舞」
 口にした意味はすぐ明らかになった。
 雹、その物体自体は変わらず、小石ほどの大きさになったそれだが、元は岩だから量も半端ではない。
 それが皆降魔達の方へ吹っ飛んでいく有様は、一種圧巻ですらあった。
 刹那短い悲鳴が聞こえ、やがて洞窟内に静けさが訪れる。
「はい中ボスの活け作り三丁あがり…あれいない?」
 視界を遮る物が無くなった後、洞窟内にはもはやボス達の誰もその原形すら留めていなかった。
 文字通り、木っ端微塵に消え去ったのである。
 しかし、親玉は消えてもまだ兵隊は残っている。
 やっと我に返ったように銀角達が起きあがり、シンジ達に向かって刀を構えて突撃してくる。
「よく考えたんだけどね。ボス三人じゃ身の回りのお世話がいないんだ。さっさと行ってご奉仕しておいで」
 そう言ったシンジは、何故か突きだした右手の手首を左手で押さえた。
「やってみるのは初めてだけど――烈火猛虎演舞」
 口にした瞬間、五本の指から巨大な炎の固まりが飛び出し、秒と経たずにそれは巨大な虎の形を取った。
 ただ出力が大きすぎたのか、シンジは僅かながら後ろによろめいた。どうやら、自分でもそれは予想していたらしい。
 そして数分後。
「何じゃこりゃ」
 洞窟の外に出て、ちょっとご機嫌斜めになってるシンジがいた。
 予想された事態ではあったが、せっかく作ったお風呂が破壊されていたのである。
 おまけに水源まで断たれている。
「これじゃもう移動しないとならないじゃないの。しようがない、マリア行くよ」
「え、ええ」
 頷いたが、初めて見る力にマリアは内心で驚愕しており、それと同時にもしシンジが一人いれば魔道省の者達も、あんな無惨に死ぬ事も無かったのにと唇を噛んだ。
 無論それ自体は、シンジのせいではないのだから。
 フユノが告げた切り札予定の者、それがこのシンジだとは思わなかったが、全部うち明けて強力してもらおうとほんの一瞬マリアの心に浮かんだが、すぐにうち消した。
 出る時に絶対機密と言われており、女神館の住人達ですら知らないのだ。政治も絡んでいる以上、迂闊に口にする事はできない。
 まして、何故か魔道省長官南郷さつきを、ごく当たり前のように名を告げたのだ。反政府関係とも限らないのである。
「マリア、どしたの?」
「いえ、今行くわ」
 シンジと並んだマリアに、
「ところで」
「え?」
「さっきシンジとか言ってなかった?」
「あ、あれはその…と、咄嗟に…」
「別に構わないけどね。シンジ様とか呼ばれるのは嫌だし。マスターの呼称は一人だけと決めてある」
「そ、そうなの?」
「そうなの」
 シンジは頷き、
「抱えて持ってく。飛行するから少し目を閉じていて」
「この辺りに空港は無いはずよ」
「だから目を閉じてって言ったの。ほら早く」
 シンジの口調に言われるままマリアが目を閉じると、シンジはその体を軽々と抱え込んだ。
「きゃっ」
 と出かかったのを何とか押さえ込んだ途端、その身体がシンジごと空に浮いた。
(う、浮いてる!?)
 飛行機で浮くならまだしも、人に抱かれて浮いた経験など無い。しかも浮いたまま移動しているのだ。
 目を閉じたまま、マリアはぎゅっとシンジにしがみついた。
 
 
 それから二時間後。
 マリアは試着室に入っており、シンジはぼんやりと壁の衣装を眺めていた。
「何でもいいから自分に合うもの買ってきて。俺が見ても分からないから」
 とマリアを行かせたシンジだが、マリアと違ってこっちは服も全部あるし、別に買う物もない。
 壁に掛かった手作りの民族衣装を眺めていると、
「マスター」
 不意に声がした。
「何?」
「随分と苦戦していたようだが、あれが本来の力か?」
「ちょっと加減しただけ。別に苦戦じゃないよ」
「あの娘がいたからか?」
「んー」
「マスター、私を一時的な興味で従魔にしたのではない、とそう言ったな」
「うん」
「それは私も同じ事だ。この程度の力量で終わりなどとはつゆほども思っていない。そしてまた、この程度で終わらせる気もない。それをこんな所で死ぬ事など許さぬし、また手傷を負う事もだ。あの娘の、いや誰であってもその存在のためにリスクを負う戦いをせざるを得ないなら、この私が殺す。それは忘れるな」
 マリア限定、と言えば違う返答もあったろう。
 だが誰であっても、と言われれば、
「分かってるよフェンリル」
 そう返さざるを得なかった。
 確かにフェンリルの言う通り、後ろにマリアがいるからかなり手加減していたのは事実である。あれでマリアがいなかったら、斬り込んでとっくに終わらせている。
「でも、たまにはそんなのも良かろう。ハンデ付きなんだし」
 シンジが小さく呟いた時試着室のカーテンが開き、
「あの…ちょっといいかしら」
 マリアが顔を出した。
 
  
 
 
 
(つづく)


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