第五十七話
 
 
 
 
 
「あ、熱い…」
 雨の中、無論傘は持っていたがそれを差さずに帰ってきたシンジは、高熱に冒されていた。シンジがまだ、アサシンなどとは縁が無く、そして心もごく普通に、いやそれよりも弱かった頃の事である。
 学校から帰ってきたシンジは、
「今日は食欲がないから」
 とヒナギクに声を掛けると、そのまま部屋へ入っていった。
 ここの所、やや元気のないシンジの様子には気付いており、ヤマトにもその件は言われている。
「シンジが気になる、近々調べよ」
「かしこまりました」
 一礼したのだが、その日のシンジの容態までは気付かなかった。使用人はいるが、シンジ専属の運転手はいない。シンジが要らないと断ったのだが、もしもいればやや落ちた顔色に気付いたかも知れない。
 しかし、いない以上当然だが気付くことは無く、
「お祖母様、あの子は?」
 首を傾げたのは、帰宅したアオイであった。
 既に170センチ後半の長身になっており、成績と美貌、そして長門病院の一人娘とは異なりやや柔らかい雰囲気は、大量にラブレターの類をもたらしているが全員撃退されている。
 もう一つ付記すべきは、呼び出された事がない、と言う点であろう。筆記のそれはあるが、面と向かって告げるほど、度胸を持った者はいないらしい。
 もっとも、恋だの愛だの言葉を口にするだけで自分の矮小さを呪いたくなるユリと比して、人当たりの気が柔らかいと言うだけであり、既に裏稼業の腕前はヤマトからも認められている程になっている。
 そのアオイを捕まえて告白など、ある意味では冥府で罪人を裁く閻魔を下僕に望むのと等しいかも知れない。
「お祖母様、今日は少し具合が良くないようです。私が側に付いておりますから」
 シンジの部屋から戻ってきて告げたアオイに、ヒナギクは軽く頷いた。
 では、と軽く一礼したアオイだが、シンジの部屋に入った途端表情は一変した。
 ノックにもまったく応答が無く、ドアを開けたアオイが見たのは、熱にうなされるシンジの姿だったのだ。
 熱は三十八度台、おそらくは雨に濡れた事で風邪を引いたのだろうとアオイは判断した。単なる風邪だから、長門病院へ連れて行けば事足りるし、何よりもヤマトかヒナギクへの報告が優先の筈だ。
 だがアオイはそのいずれもしなかった。
 何故?
 答えはすぐに明らかになった。アオイがその全身から、衣服を滑り落としたのだ。
「ユリに連絡すれば済むことだけど今日は−私が側にいてあげる」
 未だ打ち解けてはいない少年の傍らに、それが熱にうなされているとは言え、何故アオイが身体を横たえたのかは分からない。
 だが。
 翌朝シンジが目覚めたとき、目の前にあったのは裸の胸であり、シンジは光景が理解できなかった。
「確か布団で寝たはずなのに…」
 これは夢に違いないと寝直そうとして、ずしりとした触感に気付いた。
「ま…!?」
 思わず声を上げかけたが、それを柔らかい手がすっと塞いだ。
「気分はどう?」
「あ、あのどうしてここに…?」
「気が付かなかったから」
「え?」
「濡れて帰ってきたのに、お祖母様もお祖父様も気が付かなかったのね。ちゃんと、見ていてあげれば良かったわ」
「そんな事は別に…あ」
 目の前にある真っ白な乳房が、やっと現実の存在として目に飛び込んできた。脳裏に映像が送られ、それと同時にある反応を引き起こす。
 すなわち、ほんの少し赤くなった頬のそれを。
 アオイはすぐ気付いたが口にはせず、すっと布団から起きあがった。
 起きあがると同時に重たげに乳房が揺れる。
「熱はもう下がったみたいだけど、取りあえず着替えた方がいいわ。着替えは枕元に置いたから。今、何か持ってくるわね」
 ガウンを羽織って出て行こうとした後ろ姿に、
「あ、あの…」
「どうしたの?」
 アオイはゆっくりと振り向いた。
「その…ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
 ゆっくりと、一輪の花が咲くような笑みをアオイは見せた。
 それを見たシンジの表情が徐々にだが緩んでいったのは、やはりアオイのそれにつられたものだったろうか。
 初めての、そう、この邸へ来てから初めて見せたシンジの笑顔は。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 敵意とも警戒心とも取れるそれを、あからさまに向けてくるレイにマユミはうっすらと笑った。
「レイちゃん、ちょっといいかしら」
「何」
「あなたに話があるの」
 挑まれた、と思ったのかは不明だが、レイは表情を硬くしたままマユミに近づいた。
「!?」
 マユミが何を思ったのか、いきなりレイの首に手を掛けたのだ。
 しかし別段絞めようともせず、首に軽く手を掛けたまま、
「いきなり首を絞められたり、そのまま持ち上げられたりしたら怖いでしょう?」
 にっこりと笑ったが、それだけで十分であった。
 さっとレイの表情が変わったのは、マユミの言葉の意味を読んだからだ。
「あ、あの…ごめんなさい…」
 マユミがまだ許してはいないと思ったらしい。
 確かに普通ならば、女同士であっても初対面でいきなり持ち上げるような相手は、お付き合いしたくないのが当然である。
 一応レイも、それくらいの事は分かってきたらしい。
 ただし、
「僕の妹に何か用?」
 シンジの言葉にぱっと表情が輝いたが、それも一瞬のことで、
「いいえ、女同士のお話です」
「あっそ」
 あっさりと引っ込んでしまった。
 既にマユミは手を離しており、
「首絞められて私はとても怖かったの。そうね、どうしてもらおうかしら?」
 ひょいとレイの顔を覗き込んだ。この時点で、マユミの顔には笑みが浮かんでいるのだがレイは気付かない。
「人に迷惑を掛けたらお詫びをしなくては、そうお兄ちゃんに習わなかった?」
 マユミはからかうように訊いた。
「…わ、私に何をさせたいの」
「別に何も」
「え?」
「その気がない人に、何かを強要したいとは思わないわ」
 レイが賛同するのを待っている、ややあからさまな言葉にレイがきっと視線を上げ、二人の視線がぶつかり合った。
 だがそれも一瞬のことで、先にレイが視線をそらした。
「…な、何をしたらいいの」
「そうね、あなたのお兄ちゃんを頂戴」
「え…」
 刹那、見事にレイの顔色が変わっていく。
 元から血の気が薄い顔が更に青ざめていき、
「だ、だめっ」
 周囲が振り返るような大声で叫んだが、声帯を痛めそうな声は、間違いなく生まれてから初めての物であったろう。
 が、何故かマユミはにこりと笑った。
「…え…?」
「その顔が見てみたかったの。じゃあね」
 自分が締め上げた時とは明らかに違う、と言うより別人に見えるマユミをレイは呆然と見送った。
 呆然としているレイを置いて、黙って眺めていたシンジの所に来ると、
「慕われるのも、また大変ですね。今は、ご一緒じゃないんでしょう?」
「何で知ってる」
「ユリさんに言われました、落とすなら今が機会だと」
 端的に言うならレイ同様感情を、或いは感情を出すことを憶えたと言うべきかも知れない。
 しかしマユミの場合は、原因がはっきりしているだけに、そして何よりも落とす対象が誰なのか不明であり、そしてシンジも何故か訊く気にはなれず、
「遠慮しておきます」
 首を振ったとき、
「それは残念」
 艶まで増した唇に笑みを浮かべた時、何故かほっとしてしまった。
 
 
 
 
 
 
 全裸にストッキングという、なかなかマニアックな姿のままでマヤはあられもなく身もだえしていた。
 部屋に入ってすぐに肩を掴んで振り向かされた時、もうマヤは濡れていた。きたる状況への期待もあるが、むしろそれよりはにせリツコの放つ気に中毒ったと言った方が正解だろう。
 熱く口を吸われ、荒々しく舌を吸い取るその動きにマヤは自分から応えていった。しかし、絡み合う自分とリツコの舌にいつの間にか脳裏が白くなり、気付いた時にはもう全裸に剥かれて全身を舌で責められていた。
 リツコの舌が太股を這う。脇腹を這う。脇の下を責める。
 初めての快感に、マヤはそれがにせリツコだとは無論気づかない。
「あああっ」
 幾分手入れをさぼり気味になっていたおかげで、脇の下はもう伸びだしている。生えだしているそこを一気に歯で引き抜かれた時、マヤは更に愛液があふれ出したのを知った。
「脇毛を抜かれてもだえるなんて、マヤは変態ね」
 蔑むように言うと、二本指をいきなり肛門に挿入した。勿論、その口調にマヤが燃える事も、滴る愛液で尻が濡れている事も知った上での事だ。
 案の定マヤは、大きく叫んで身をよじったが、そこには痛みよりも初めての悦楽から来る物の方が遙かに大きい。
 ぎりぎりと指を締め付けてくる内壁に、
「マヤ、少し力を抜いて」
 千切れんばかりの強さでさすがに眉をしかめたが、
「せ、せんぱいの指が、指があたしの中にぃっ、へ、変になっちゃうっっ」
 うわずったような声で叫ぶだけで、締め付ける力は益々強くなってくる。これでは逆効果だったかとにせリツコは、赤く充血し丸くふくれた淫核に歯を当てると、軽くではあったがかりっと噛んだ。
「ひぎいいいいっ」
 針に掛かり、船に上がったばかりの鮫よろしくびくっと躰が跳ね、それと同時に尻の締め付けもふっと止む。
 にせリツコがずるりと指を引き出すと、第二関節の辺りまで赤くなっている。
「私の指を傷めるとは…お仕置きが必要ね、マヤ」
 ここだけは本体と同じような口調で言うと、しとどに濡れて中まで見えている淫裂に三本の指を一気に挿入した。加えて…第二関節まで押し込んだところで一気に指を折り曲げたのである。
「だめえっ!そ、そこ、そんなに…ふひゃあああああっ」
 尻に指を入れられて時よりも過剰反応したマヤに、にせリツコの表情がわずかに動いた次の瞬間。
 舌で全身を責められた事で半ばできあがっていたのか、手首にかかるように一気に液体が噴き出した。一瞬ちょろっと出たそれは、一瞬で太い柱と化して吹き上げる。
 濁った液体に袖口まで濡らされたにせリツコは、刹那顔をしかめる風情を見せたが、それも一瞬の事で、すぐに口許に危険な笑みを浮かべてマヤから奔出した液体を舐め取った。
「普段は清楚なオペレーター、その真性は潮吹き娘とは−これは赤木リツコが喜びそうね」
 内容とはかけ離れた口調で言ったが、既に高みで失神しているマヤには無論聞こえることは無かった。
「さて、次はお呼びに答えなくては。とは言え−あまり気乗りはしないのだけれど」
 この偽者は、中身はともかく外見は間違いなく赤木リツコそのものである。そうでなくてはダミーの名を冠する事は出来ないのだが、この女は今気乗りがしないと言った。
 自由意志を持った者として放されたのならともかく、ユリがそんな者を作るわけがない。
 だとしたら…作られた者に自我が目覚めたと言う事なのだろうか。
 
 
 
 
 
(なぜなの…分からない)
 端末は開いているがレイの意識は後ろの席に、すなわちシンジに固定されたままであった。憎悪とか怒りとか、自分に向けられる波動は感じられない。事実、マユミが消えて慌ててシンジに駆け寄ったレイに、
「じゃ、行こうか?」
 向けた顔はいつもの顔であり、レイは一瞬胸が熱くなりかけたのだ。
 だが、
「あの…お兄ちゃん…」
「なに?」
「きょ、今日はその、家に…」
 最後まで聞きもせず、
「駄目」
 あっさりと却下されてしまった。冷ややかではないが、異論の余地など全くない。
 惹かれてしまった弱みで、理由を聞き出せと言われたサツキの言葉もそれどころではない。これがまだ嫌われている反応ならまだしも、至極普通の顔を見せるシンジはレイの理解範疇を超えていた。
 レイをよく知る者ならば、普段と変わらぬ表情の中にもどこか翳りに近い物がある事に気付いたかも知れない。
 だがシンジの影響でやや性格に変動が見られるとは言え、それはあくまでもシンジとの関係であってクラスメートとのそれには関係ない。いやむしろ、シンジ以外への交渉も興味も一段と薄くなっているようにも見える。
 それだけに、もしも縁切りを宣言でもされていればあるいは、の事態も想像されたが宙ぶらりんのような状態にレイはひっそりと煩悶している最中だったのだ。
 とそこへ、
「では次の問題を綾波レイ、前に出て解くように」
「…はい」
 ワンテンポ遅れて立ち上がったが、無論現在の場所など知る由もない。どうしようかと狼狽えたが表情は変わらないのがレイであり、一見すると教師に反抗しているようにも見える。
「綾波レイ、何をしている」
 教師の声に僅かな苛立ちが混ざった時、レイの端末に着信を告げるランプが点滅したが、発信源を知ってその端正な顔が微妙に歪んだ。
 
 
 
 
 
「入れ」
 ノックするひそやかな音に、ゲンドウは精一杯の低い声で応じた。と言うのも、アオイのせいで病室行きになったのだがどうも声が出にくい気がする。そこでぐっと声を押し出すと甲高い声になってしまうのだ。
 失礼します、と入ってきたリツコは白衣姿だが、その下はいつも通りの筈だ。どんなに澄ました顔の女科学者も一皮剥けばただの女−白衣の中は上下とも黒の下着にストッキングをガーターで留めさせてある。
 ガーターベルトその物は見た目を楽しむ物ではないが、一番の使い方はつっかい棒にある。
 そう、バイブレーターのスイッチをガーターに挟んで止めさせてあるのだ。沿革スイッチで強度は中にしてあるから、振動を堪えて濡れた瞳で来るはずだ。
 後はいつもの通り、スイッチを最大にしたまま銜えさせればいい。一滴も残さずに飲み干させてから、バイブと一緒に二本差しだ。
 しかし、
「!?」
 ゲンドウの表情が一瞬硬直したのは、
「こんな機械(おもちゃ)は無粋ではなくて?」
 白衣の前を広げて見せたリツコは、その黒々とした淫毛を割るように深々とバイブを突き立てている。それも間違いなくスイッチは入っている筈なのに、まったく表情に変化がないのだ。
(ちっ)
 今日は何としてもリツコを肉奴隷と化し、自分の思い通りに操らねばならない。まして、あのアオイとユリを向こうに回すのだから男の味を躰に叩き込むのが必須になってくる。ゲンドウは内心で舌打ちすると、手元のリモコンで一気に強度を最大にまで上げた。
 ヴヴーン、静まりかえった室内に音が響き、リツコの表情がわずかに変わったのを見てゲンドウはニヤリと笑った。
 だがそれも秒とは保たず、
「無粋と言った…でしょう」
 ぬぷり、と股間からバイブを放り出すと妖しく蠢いているそれを、そのまま床に放り出した。硬い音がしてそれが床に落ちたとき、ゲンドウはそれが殆ど湿気を帯びていないのに気付いた。
 いつもなら、部屋に入ってくる時点でもうぐっしょりと濡れているというのに。
「ここに欲しいのは…それではなくてよ?」
 そう言ってリツコは白衣をはらりと床に落とした。扇情的な下着だが、何故かブラジャーは着けていない。ぬらりと濡れ光るような乳房に軽く触れてから、
「司令の熱いのをここに…下さいません?」
 淫裂に指をかけて、ぱくりと左右に開いた途端苦痛のうめき声が上がった。
 ゲンドウだ。
 今までに一度もなかった事−男根が突如として強烈に天を仰ぎ、当然の事として下着に阻まれたのだ。
 自分でも信じられぬ程の強度を持った、それが勢いよく股間で暴れ回る…ゲンドウの様子を見て取ったリツコ−無論にせリツコ−は、今度はにっと笑った。
 妖艶な笑みを浮かべたまま、
「私としたい?私のここに思い切り突っ込んで…中をかき回してみたいの?」
 次の瞬間に起きた事を、いったい誰が想像し得たであろうか。にせリツコが茂みから指を抜き出すとそれは透明な糸を引いており、それを見たゲンドウがあたかも強力な磁石で引き寄せられるかのように、せかせかとにせリツコに走り寄ったのだ。オリジナルのリツコが見たら卒倒しかねない。
 渇死寸前の砂漠でオアシスを見つけた旅人よろしく、血走った目でにせリツコの秘所に舌を伸ばしてくるゲンドウから、にせリツコはすいっと身体を下げた。
 飢えた餓鬼のように手を伸ばすゲンドウから、ギリギリの所で身体をそらす。
 既にゲンドウは、にせリツコの秘所に顔を埋める事以外は眼中になくなっているらしく、熱だけで獲物を追う大蛇よろしくじりじりと這ってくる。そしてゲンドウのデスクまでほぼ部屋を一周する奇妙な追いかけっこが続いた時、不意に鬼の足が止まった。普段からは想像も付かないような身の軽さでデスクの上に乗ると、思わず目を見張るほど脚を左右に拡げたのだ。
 普通ならば、股関節に鈍痛或いは激痛が走るに違いないと思われる角度の中心には、無論ピンクの肉襞が誘うように蠢いている。とろりと、湧き出すように愛液が流れているにせリツコの性器だが、木乃伊を取るつもりで自分が木乃伊になっているゲンドウには、その双眸が冷ややかその物である事に気付かない。
 近頃になく天を向いている男根を、必要ないとは言えいつものようにまったく前戯も無しに根元まで一気に挿入する。
「うおっ!?」
 ゲンドウが叫ぶのと、その表情が戻っていくのとはほぼ同時であった。挿れた瞬間、ゲンドウは射精していたのだ。
 赤木ナオコ、そしてリツコと二代に亘って躰で言う事を聞かせてきたゲンドウだが、挿れた途端女が達した事はあっても、自分が先に射精したことは無かった。
 まして…挿入と同時に射精するなどとは。
 初めて女体に触れた中学生のごとく、射精したゲンドウの顔からは血の気が退いていき…すぐに快楽を堪える表情へと変わった。
「随分早いですわね、碇司令」
 ある意味もっとも恥辱的な、慰めるような口調でにせリツコが言った瞬間、その膣内が一斉に動いてゲンドウの男根を締め付け、ゲンドウの性器は急激に回復した。
 いや、回復させられたと言う表現が正確であろう。
 数秒で元の強度を取り戻したのを確認してから、
「正常位で十分ね。今のは一回目、そしてこれが−二回目」
 きゅ、と腰を捻った瞬間に、
「お…おおっ」
 声と精液は一緒に出た。
「二回続けて早漏とは、さすがに特務機関の総司令は特別だこと」
 はっきりと侮蔑を乗せた声で言うと、にせリツコは手を緩めなかった。
 奇妙な事に、にせリツコが右に腰を捻るとたちまちゲンドウの股間は回復し、左に数センチひねると、その瞬間にゲンドウは射精を強制されるのであった。
 一日一回、と言うのは幾分淡泊だが、出した直後に射精を強いられるのは、文字通り凄まじい疲労を伴い、時には痛みすら帯同する事がある。
「も、もう…もう、やめてくれ…」
 とうとう半分死人みたいな声でゲンドウが頼んだのは、八回連続で射精させられた後であった。
「やめてくれ?それが人に物を頼む態度かしら」
 抜かず三発、どころか文字通りまったく抜かぬまま八度の射精を繰り返し、しかもゴムは着けていない。
 出した、と言うより文字通り搾り取られたゲンドウは、この数分の間にげっそりと頬が落ちていた。
 やはり、通常では考えられぬ強制射精はそれだけのものをもたらしたのであろう。
 冷たく嗤ってもう一度腰を捻ろうとしかけたにせリツコに慌てて、
「た、頼む…お願いだ…」
 哀願するような口調に寸前で腰は止まったが、あと一秒遅れていたら地獄の屹立を強いられていただろう。
 しかしまた膣内からは抜かぬまま、
「今日は普段よりバイブの勢いが良かったわね−私に何をさせようとしていたの」
「そ、それは…」
「言えない?」
 にせリツコが視線を合わせぬまま重ねて訊いた時、ゲンドウは女科学者が自分の性器を解放しなかった理由を知った。
「レ、レイを…」
 四度目以降に射精された精液同様、絞り出すような口調でゲンドウは呟いた。
「レイがどうしたの」
「さ、三人目だ…三人目を…用意するのだ」
「二人目のレイが、シンジ君にべったりで補完計画には使い物にならないから新しいレイを用意する、とそう言うことですね」
「そ、そうだ。もはやあのレイは、計画の妨げになりこそすれ決して役立つことはない。ここは極秘に三人目を起動するのだ」
「ですが司令、それでは自我が薄れますが」
「構わん、計画に使える道具でありさえすればいいのだ。自我を確率させてはならぬ事は、二人目のレイでよく分かっただろう」
 自分の性器が柔肉に捕らえられている事など忘れたかのように、
「この計画は、例えいかなる事があっても成し遂げねばならん。そのためには、道具となるレイが必要不可欠−やってくれるな」
「シンジ君を敵に回すことになりますが…よろしいのですね」
 にせリツコの表情が動いたのは、自分の中で力を失っていた男根が回復するのを感じ取ったからだ。にせリツコがまだ、何もしていないのに。
「何人たりとも俺の邪魔はさせん。ユイは常に最優先だ−例え世界を敵に回したとしてもな」
 急激に戻った、と感じた瞬間にせリツコは肩を掴んで押し倒されていた。
「長門ユリに何の薬をもらったかは知らないが、今日は随分と締まり具合がいいな」
 容易く射精させられた事など、もう忘れたような口調で言うと、
「この計画にはリツコ−お前の力が外せないのだ。そうだ、優秀な右手で…俺の女であるお前がな」
 立ち上がると、そのままにせリツコの腰を引き寄せる。俗に言う駅弁スタイルで激しく突き上げられ、にせリツコの口から甲高い喘ぎが洩れた。
 
 
 
 
 
 ぽりぽりと音がして、それが止むと奇妙な音がした。
 そしてその直後、
「終わった〜?」
 聞こえてきた間延びした声に、
「たいした物だ、私の作ったダミーを責め立てるとは」
 ユリは感心したような声で応じたが、声の方は見ない。
 分かっているからだ−少年がおやつの時間であり、なおかつ口移しで現在食べている事を。
 ゲンドウとにせリツコの絡みも見たくなかったが、口移しのおやつなどと言うおぞましい光景は一層見たくない。
 唾棄すべき光景をあげるとすれば、間違いなくトップ3に入るだろう。
 これでアイスなど流し込んでいればまとめて切り刻む所だが、聞こえてくるのはポリポリと言う音であり、ポッキーを一箱食べ終えた二人がこちらにやって来た。
「やっぱり『綾波レイその三』の起動だったか」
 自分を敵にしても、と言ったゲンドウの台詞を聞きながらも、シンジの顔には別段の色は浮かんでいない。
 しかしシンジは今学校の筈であり、だとすればあっちがダミーなのか。
「それで、結局どうなったの?」
「最後の瞬きだ。すぐにダミーの中で放ち、そのまま失神している。確か君はその息子だったな」
「そーゆーこと言うな」
 ぷい、とそっぽを向いた後、
「でも処女が脇の下が感じるとはねえ。今度モミジに試してみよ…あ」
 言い終わらぬうちにシンジは押し倒されていた。
「遺伝するのか、或いは鳶が鷹を産むのか、試してみたくなったわ−あなたで」
 無論押し倒したのはアオイであり、紅い舌で舌なめずりすると、最後の一本のポッキーを舌を入れて奪回した唇をそのまま近づけてきた。
「それに契約上とは言え、モミジの処女はシンジで散ったでしょう。そんな事より、もっともっと気持ちのいいことがあると思わない?」
「濡れてない声で言うの止めようよ」
「…相変わらず風雅が足りないのね」
 そう言う問題なのかは分からないが、アオイはあっさりとシンジの上からおりた。
 だがその顔が急に真顔になると、
「溶けた中で会って何が面白いのかは分からないけれど、司令は補完計画の強行を決意されたようね。どうするの?」
「放っておくよ。ま、美化された死人より優先されたら、それもなんか嫌だし」
「シンジ…」
 理由はどうあれ、唯一の肉親から縁切りを宣言されたような物だが、シンジはあっさりしていた。
 或いは、こうなる時が来ると既に予想はしていたのかも知れない。
 が。
「ただいま戻りました」
 乱れた事などまったく感じさせぬ声がして、三人の視線が一斉にそっちを向く。
「マヤさんの味は?」
 少年の第一声がこれであり、
「悪くなかったわ−食指が動かれましたの?」
 にせリツコが訊ねた時、その目の前で少年の首が変な方向にごきっと曲がった。
「いたたた…んむー!!」
「少しは違うことに気は行かないの、君は?」
 アオイは唇を離すと、そのままシンジを抱えてベッドの上にぽいと放り出した。
 きれいに受け身を取った後、
「いったーい」
 腰をおさえて立ち上がる。痛そうな様子はまったくない。
「三人目を作ってもいいが、二人目と会ったら殺し合いでも始めかねない。僕の妹分には絶対に会わせるなよ」
 かしこまりました、とにせリツコが恭しく一礼し、
「楽園から放逐した割には思いやるのね」
「僕は名医だからな。精神のケアもしない藪医者と一緒にしないで」
「それはそれは」
 と、ユリの口許が危険な形を作った。
 
 
 
 
 
(続く)

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