本編製作前に、まったくキャラクターデザインの違うパイロットフィルムが存在し、それが日本のアニメ史上・屈指の名アニメータ、森やすじデザイン・絵コンテであったことは比較的よく知られています。
可愛い小動物を緻密に描くのに定評のあった森やすじのデザインは、ごらんのとおり、どこまでも優しく、心あたたまる作風です。
森やすじは高畑ハイジを作ったズイヨー映像製作の前年度の作品「やまねずみロッキーチャック」の作画監督であり、その激務のさなかにこのパイロットフィルムを担当しました。
当時の製作環境の過酷さは、業界でのうわさになるほどで、そのためか森やすじは目をわずらって、一時は失明さえ懸念され、アニメ製作の第一線を継続することはできなくなりました。
結局、キャラクターデザインは、同じ東映動画出身の後輩である・小田部羊一が担当することになりましたが、テレビのオープニングのハイジとユキちゃんのスキップは森やすじが描いており、その軽やかな動きと高い技術は、世界的な人気を持つことになった高畑ハイジ全体を象徴するのにふさわしいといえます。
しかし、森やすじの名前は高畑ハイジには登場せず、パイロットフィルムも一般に公開されたことはありません。
また、当時、アニメーターの権利は限定されていて、ほとんど何の権利も主張できないのだそうです。
パイロットフィルムの製作に使ったセル画などは、産業廃棄物として散逸してしまい、一部は多くの個人の手元で保管されているようです。
この9枚のセル画の権利関係についても、実に複雑のようで、はたして掲載していいのかどうなのか、非常に迷うところですが、少なくとも創造性を提供した「森やすじ」の著作物ではないことは確からしいです。
アニメータの権利がどれほど軽く考えられていたかについては、悲しむべきことだと思います。
ですから、あえて掲載して、多くの皆様にみていただき、名作・高畑ハイジの土台となった森やすじの業績を少しでも知っていただけたらと願っております。