バラのレースリ(Rosenresli)
この作品は、すぐによめる短編です。
スピリのハイジ以外の作品の例にもれず、この作品を紹介した本も、ほとんどが絶版となっていますが、第三書房より教材としてドイツ語原文と対訳になっている版があり、今でも購入可能です。
でも・・購入できるといっても1970年代の在庫の残りですから、なくなるのは時間の問題でしょう。
原文と照らし合わせて翻訳文がのっているため、省略はまったくなく、原文の正確で美しい文章にも触れられます。ハイジ以外で気軽によめる数少ないスピリ作品なので、強くおすすめします。
物語は、貧しいけれどバラの花が大好きな少女レースリが、思わぬことで不幸な老女の生活をささえることになり、やがてはレースリも老女も、そのことで幸せになっていきます。
たわいもないでしょうが「可愛い可愛いお話」(スゥイス童話集の紹介より)です。
母親がなく、貧しいも美しい生き方をしている少女。
身を持ち崩して子供を守ってやれない養父。
放浪の果てに立ち直る若者。
教養はないがひたすらな信仰をもった優しい老女。
ほのぼのとしたハッピーエンド。
と、いったスピリ作品によくでてくる設定を使った典型的作品といえます。
スピリ自身は生涯裕福な生活をしていました。でも、医者の娘であり、弁護士の妻ですから、貧しさとその結果を充分に知っていたようです。
そして、貧しい子供でも、どうやれば美しく生きられるかを考え、子供たちがそうなれるように願っていました。
「バラのレースリは生涯そう呼ばれることだろう」という物語の結びの言葉は、ささやかですが、かけがえのない称号として、心優しく辛抱強い少女を、スピリがほめたたえるものです。
レースリは自分の自己規定(アイデンティティ)を「バラを愛し、人を愛した人間」という誇らしい場所におき、日々を楽しく暮らし、意義のある人生を見出せるようになります。
貧しいけれど、きっと少女は、これからも努力して幸せな生涯を送ることができるでしょう。
スピリはそのように思いえがき、そんな自分の願望を表現することで、過酷な環境に生きる、現実の不幸な少年少女たちを励まそうとしています。
華やかな着物がなくても、きれいにしていなさい、花をかざりなさい。
両親が頼りにならなくても、心配いりません。貧しいことは恥ずかしくないのです。心優しくしていなさい。あなたも立派に生きられる道がちゃんとあります。(裏返せば、そうでない崩れた生活を暗に非難しています)
ワンパターンとも言える物語を繰り返すスピリは、自分のできる限りの能力で、精一杯語りかけているのでしょう。
それは、敬意をはらわれるべき行いだと思います。
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