![]() contents トップページ ヨーロッパ速度無制限 貿易風に吹かれて アジアの優雅な日々 トラベルはトラブル 世界はうまい ホテルいろいろ やっぱりNY 思い出に残る街 今日も大空へ 旅のアラカルト 旅のおみやげ |
航空券をなくした! | |
ペレストロイカまっただ中のモスクワ空港でのことだった。この時はモスクワで1泊して翌日の便でリスボンに行く途中だった。 まだソ連の時代で,ホテルも指定された所に泊まるしかなく,自由に観光などできなかったが,ペレストロイカの進行にともなって少しずつ規制が緩和されつつあった。翌日の便に乗り継ぐ人のために,一人10ドルで夜のモスクワ市内観光ができるというので,申し込んだ。この出発までにはだいぶ時間があり,空港のロビーで待機することになった。何気なく手荷物のバッグの点検を始めたMが,「チケットがない!」と気が動転した様子で僕に告げた。 イミグレーションを通過する際,パスポートとチケットの提出を求められ,この時にチケットを受け取るのを忘れたのかもしれないというので,それから空港内での東奔西走・右往左往が始まった。「脱兎のごとく」ということばがあるが,まさにこの時のMがそうだった。 イミグレーションに行ってみると,とっくに閉まっていて誰もいない。あちこち駆け回っても、どこに行ったら手 |
がかりがつかめるのか,そのような場所もオフィスも全く見あたらない。とりつく島がないとう状況になり,僕らは完全に落ち込んでしまった。どうしようもない。明日,チケットを買い直してリスボンに行くか,旅行をあきらめて日本に戻るしかないと決断した。 やがて夜の市内観光へ出発の案内があった。せっかく申し込んだのだから行こうと気を取り直して,バスへ向かった。バスの乗車口に女性係員がいて,申し込んだ人の名前を呼んで確認している。そのときMが叫んだ。「あっ,あの人が持っているチケットは私のだ!」。 チケットが手元に戻って出かけたモスクワの市街は照明は暗く,赤の広場はほとんど闇の中だった。赤の広場では10分だけ自由行動が許可され,その自由さが意外なほどだった。闇の中ではペレストロイカウォッチを売る青年がやってきたりした。Mにとってはソ連の激動の時代とチケットをなくすという激動の体験をしたわけで,ホテルに帰るバスの中ではぐっすり眠っていた。よほど安心したのだろう。 |