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ウンターグライナウ(ドイツ) | |
この時は風まかせの旅だった。チロルらしい高原の風景が広がるところに行ってみようと、ミュンヘンからローカル線に乗ってオーストリアのロイテに着いた。適当なホテルが見つからず、ミュンヘンまで戻ったほうがいいかもしれないと、再びドイツに向かった。 来るときに通った国境近くのドイツの小さな家に「Zimmer Frei」という張り紙が窓に出ていたことをMが覚えていた。そこへ行ってみようとウンターグライナウという小さな駅で降りた。その家は駅から近く、すぐたどり着いた。ふた部屋だけを提供している民宿だった。ご夫婦と中学生ぐらいの息子の3人家族で、ご主人はドイツ国鉄に勤めていた。小さな家の2階の一部屋に通された。小さな家でもとても清潔な部屋だった。 夕食は出ないので近所の村のレストランで食べ、部屋に戻ると一緒にビールでもどうかと誘われた。小さなビアホールを造っている途中なのだという。ドイツ人は自分で大工仕事をする人も多い。ご夫婦と歓談しながらビールを飲んでいると、夜が更けるのを忘れそうな居心地のよさで、思わず延泊することにしたのだった。 朝食は奥さんが芝生の庭にテーブルをセットしてくれた。まぶしい5月の陽光を浴びながらの食事はシンプルなものだったが、ぜいたくな気分に満たされた。滞在中はガルミッシュパルテンキルヘンまで出 |
気持ちのいい朝食だった。 かけたり、近所を散歩したり、のんびり過ごして旅の疲れが癒された思いだった。 帰りはローカル線に乗ってミュンヘンへ向かった。絶対にあの奥さんは列車の中の僕らを見送ってくれるような気がしてならなかった。列車がその小さな家にさしかかると、思った通りだった。奥さんが2階の窓から身を乗り出して手を振っているのだった。 その後、奥さんのWとは毎年クリスマスカードのやりとりが続いた。几帳面な字で、雪が膝まで積もっているなどと近況が書き添えてあった。10年ぐらいたったある年、彼女からの便りがぱったり途絶えた。このわけは、その後で久しぶりに再訪した時に分かることになった。 |