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カシ(フランス)
ある年の年末、寒いユーゴスラビアを旅していて、その寒さに耐えかねて暖かいところへ行こうということになった。計画などまるでなく、気が向いた方へ進路を変えるのはいつものことだ。

Mが言い出したのか、私なのか覚えていないが、地中海の方へ行けば暖かいだろう、マルセイユからレンタカーを借りて地中海沿いに走ろうということになり、列車を乗り継いでフランスのマルセイユに着いた。地中海沿いには風光明媚な黄金の断崖道路とよばれる道路があることを知っていた。

ヨーロッパを車で走り回るようになったのはこの時が初めてだった。マルセイユ駅のエイビスでレンタカーを借りた。手続きをしてキーを渡され、駐車場の場所を教えてくれた。駐車場まで案内してくれたりはしない。そのうちに慣れたが、初めてのこの時は驚いた。

ドライブをする予定はなかったので地図などは持っていなかった。太陽に向かって南に行けば地中海に出るだろう。地中海沿いに東へ行けば黄金の断崖道路に出るだろう。コートダジュールを通ってニースあたり
まで行こう。しかし、螺旋状の駐車場から下って外に出ると、さっそく方角が分からなくなった。気がついたときは地中海ではなくパリの方へ向かっていた。さらに右側通行や周りの車のスピードに慣れるまで、少し時間がかかった。ハンドルを握る手に力が入って固まってしまいそうな気がした。警官を見ただけで緊張したりした。Mは助手席で固まっている様子だった。

おっかなびっくり、2時間ほど走り続けると地中海に出た。車で旅行すれば思いのままに小さな村や美しい風景の中を気ままに走り回れると思っていたが、この時はそうではなかった。とにかくビュンビュン走らないと、お姉さんやおばさんの車にすぐ追いつかれてしまう。制限速度が50kmぐらいの日本の道路がとても平和に思えた。

昼ごろカシ(Cassis)という町に着いた。絵で見るような風景の港町で、ほっと一息ついた。車でなければなかなか行けないような美しいフランスの港町だった。初めて車でたどり着いた町としてこのカシの記憶は今なお鮮やかだ。

   
   カシはユーゴの寒さが嘘のような暖かさだった。

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