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アンコーナ@ (イタリア)
ローマからこの街に着いたときは夕暮れ時だった。この街はアドリア海に面した港町で、ここが列車の終着駅だった。まず、ホテル探しが最優先だ。駅前は閑散としていて、「HOTEL」の文字は見あたらなった。「ALBERGO」という文字を表示している建物が数軒あったが、それがイタリア語で「ホテル」を意味する言葉だということを知らなかった。しかし、マルケ州の州都なのだからホテルがないはずはないと、それらの建物をしばらくにらんでいたら、日本でもホテル以外に「旅館」とか「民宿」という名前の宿があることに気づいた。確認の意味で「アルベルゴとはホテルのことか?」と通りすがりの人にたずねて、やっとそうだということが分かった。

泊まり客は誰もいない様子で、このホテルの主人はいろいろ部屋を見せてくれた。「この部屋は広いけれど表通りに面しているので、少しうるさい」とか「この部屋は小さいが静かだ」などと説明してくれた。イタリア語は分からなかったが、そんなふうに理解して「静かな部屋」のほうにした。

この日はクリスマスイヴ。レストランを紹介してほしいと頼んだが、イタリア語の主人の話がまったく分からなかった。この様子を見ていた小学2年生ぐらいのこのホテルの男の子が、「ナターネ、ナターネ....、クリスマス」とそこへ割って入って私たちに説明してくれた。ホテルの主人はうなずきながら、正面にある駅を指さ
すのだった。私たちは「きょうはクリスマスイヴなのでどのレストランも開いてはいない。開いているのは駅のレストランだけだ」と理解した

駅の食堂はがらんとしていたが、営業していた。バイキング方式で、ショーケースの中にエビ、カニ、貝類、タコ、イカ、シャコなどどれも新鮮でおいしそうな海の幸が並んでいた。地中海に比べるとアドリア海のほうが魚介類の種類が多い。いろいろ食べた中でも特にシャコがおいしかった。ワインは蛇口からカラフに勝手に注ぐセルフサービス方式で、私はほかのおじさんをまねてなみなみ注いだ。殺風景な食堂だったが、おいしい海の幸とローカルワインに、舌鼓を打ったのだった。

翌日、街の人にこの街の見どころをたずね、路線バスに乗って海に向かった。季節外れの海に人影はなく、ポンポンポンと漁から帰ってくる一艘の小船の音と、小さな波の音があるだけだった。

この時は小さな録音機を持っていた。この「ポンポンポン」という音と「ザザーッ」という音、そしてMの「アドリア海の波の音です」という小さな声の録音が今も残っている。どんより曇った海の風景の画像とカセットテープの音からは、ビデオによる記録よりもイメージ豊かにアンコーナの記憶が蘇ってくる。

冬の海はどんよりしていた。小さな漁船を格納する倉庫の洞窟が並ぶ。

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