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列車の旅(4)
この時はミラノから列車でバーゼルに向かった。前日、ミラノ中央駅でファーストクラスの座席を予約したら、窓際のいい席だった。

列車に乗り込むと、コンパートメントの僕らが予約した席には僕らと同世代のイタリア人と思われるご夫婦がすでに座っていた。どうしよう。そこは僕らの座席だと言って彼らにどいてもらおうか。しかし、僕の中で気弱な心とおおらかな気持ちが混じり合った。彼らは全然指定席のことなど気にもしていない様子だった。あるいは予約をすればコンパートメント内では座席は早い者勝ちというのがイタリア流かもしれないとも思った。

まあ、いいか。これから彼らと同室の旅になるのだから、気まずい関係になるのもよくないだろう。それに、イタリア語で気の利いたせりふを言えるわけではないと、通路側の席に座ることにした。

列車が出発すると、彼らとはお互いに中途半端な英語で話をすることになった。繊維関係の仕事をしていて、これからハノーベルに行くのだと言う。英語ならハノーバーだが、ときどき地名などはイタリア語になるのがおもしろかった。

昼食の時間になり、食堂車のウェイターがそのことを知らせにやって来た。同室の奥さんのほうが、「あなたたちのカバン類は見ていてあげるから、先に行ってらっしゃいよ」というので、出かけることにした。案外、親切な人たちなんだな。

ヨーロッパの列車の食堂車は街のレストランと変わ


車窓の風景を眺めるのも列車の旅の楽しみ。


りはない。列車は、国境を越えてスイスへと入ったようだ。谷間を縫うように走る。ワインとコース料理をゆったりした気分でいただきながら車窓の風景を楽しんでいると、Mが言った。

私たちのコンパートメントのご夫婦じゃない?」。ふりかえってみると確かにあのご夫婦がやってきて入り口に近い席に座ろうとしているところだった。「荷物を見ていてあげると言ったわよね!」とMは目を丸くした。僕たちと目が合うと、彼らはにっこりして手を挙げた。

「荷物を見ていてあげると言ったではないですか」と言いたかったが、またしても僕の中で気弱な心とおおらかな気持ちが混じり合った。まあ、いいか。イタリア人たちだから。

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