contents

トップページ
ヨーロッパ速度無制限
貿易風に吹かれて
アジアの優雅な日々
トラベルはトラブル
世界はうまい
ホテルいろいろ
やっぱりNY
思い出に残る街
今日も大空へ
旅のアラカルト
旅のおみやげ
列車の旅(3)
イタリアを列車で旅していたある年、まだ、隣国のユーゴスラビアは分裂する前だった。共産圏の東欧にも足を踏み入れてみようと好奇心がわき起こった。僕らの旅は、決まった計画などなしで出かけることが多いので、気が向いたところへとその都度足が向く。

イタリアのトリエステからベオグラード行きの列車に乗り込むと、僕らのコンパートメントには2人のおばさんも乗り込んできて同室となった。軽く挨拶をしたが、おばさんたちの言葉はまったく分からない。聞き慣れない言葉なので、ユーゴスラビアの人たちらしいということが分かった。

やがて、おばさんの1人が僕に布袋を差し出した。ずしりと重く、袋を触ってみると中には小豆のような豆類が入っているようだった。おばさんはしきりになにかしゃべるのだが、僕はすっかりおばさんからのプレゼントと思い込んでしまった。英語は通じないが、とりあえず「Thank you.」とお礼を言ってとりあえず足下に置いた。しかし、こんな豆のようなものをもらったが、いったいどうしたらいいだろうかと悩んだ。

国境では1時間以上も長い時間列車は停車した。イタリアの税関の職員がやってきてチェックし、その後ユーゴスラビアの税関の職員がやってきた。僕らはパスポートをチェックされただけだったが、おばさんたちはカバンの中まで手荷物を調べられた。だが、特に問題はない様子だった。

     


やがて、列車は出発。すると、おばさんは豆類の袋を返してくれというような態度に出たので、僕は驚いた。何のことか分からずに返したが、おばさんたちは僕がほしくもない様子だと分かってくれたのかもしれないと、半ばほっとした。

あとでMとこの時の出来事を話し、あれはおばさんたちが豆のようなものを不法にユーゴへ持ち込もうとしたのだろうと思い至って納得したのだった。

そのユーゴも分裂し、トリエステから国境を越えると現在はスロベニアだ。スロベニアはEUに加盟したから、現在は物も人も自由に国境を越えているのだろう。したがってあの豆類の布袋のことは、昔話ということになるのだろう。


前ページへ>