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列車の旅(1)
だいぶ前のことになるが、ブダペストから国際列車でベオグラードに向かった。ヨーロッパを車で走り回るのは最も好きな旅のスタイルだが、列車の旅も嫌いではない。国際列車の場合は、コンパートメントの中で他人と一緒に乗り合わせることになり、おのずとおしゃべりが始まったりするからだ。

この列車はベルリン発ソフィア行きの列車だった。私たちがブダペストで乗り込むと、コンパートメントにはすでに2人の男が座っていた。はじめはお互いに黙っていたが、やがて1人がカバンの中からナイフをとりだして僕らのほうに突き出すように見せたので、驚いた。驚く僕たちを見て彼は笑った。よく見ればペーパーナイフで、お土産らしかった

これをきっかけにおしゃべりが始まった。ブルガリア語は分からないので言葉は通じないのだが、なんとなくお互いに理解できるものだ。ブダペストで買ったスパークリングワインを開けて2人に振る舞い、日本の土産物を2人にプレゼントした。2人は他人同士なのだが、ほぼ僕らと同世代で、東ドイツ(当時はまだドイツは東西に分かれていた)へ出稼ぎにいって、新年を故国で迎えるためブルガリアへ帰る途上らしかった。彼らのカバンは土産物でふくらんでいた。

やがてナイフの男がカバンからボヘミアングラスと思われる置物を取り出し、僕たちへプレゼントするという。きっと娘さんか家族へのお土産なのだろうと思い、受け取ることを固く断ったが、らちがあかずもらう羽目になった。十字架がはめ込んであり、キリスト教文化圏を旅していることを実感したのだった。東欧の列車は暖房が十分ではなく、トイレも清潔とはいえなかったが、彼らとのおしゃべりで楽しい旅となり、ベオグラードにはあっという間に到着した感じだった。

いまも、その十字架が部屋の隅にあって、この旅のことを思い出させてくれる。

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