酒と雨と国際列車<前編>


  帰宅途中の電車で、外を見ると仕事に疲れた自分の姿が写っている。その向こうには異国の風景がチラチラしはじめ、鼻の奥でどこかの国の匂いがよみがえってくると、「そろそろ日本脱出時期か・・」という気分になってくる。さて、今回はどこへ行こうか。

「やっぱ暑いはこの国は・・・」と、空港を出たとたんこの言葉がでた。
ほんとに久しぶりだこの国に来るのは。

安宿街に宿をとり、街にでた。

そしてスコール。
店でビールを飲みながら、雨を見ていた。

普段の生活で雨を見つづけることはない。

でも旅に出ると「雨」を見ていることが多い・・・・単にヒマなだけだが。

雨もあがり屋台でパッタイを食べて、汗をかくと、やっと旅にでた気分になってきた。

オレンジの袈裟を着た少年僧が歩いていく。

ポカンとヒマになった。

お寺の境内で子供達とあそんだり、排気ガスの立ちこめる道ばたで麺をすすっていた。

さすがに犬も暑いのか陰で寝ている。

何日か遊んでいよいよ移動。

「寝台券」が取れず、2等車の切符を確保してビールを3本持ち込んだ。
人気がある列車と聞いていたが、満席とは・・・もう少し早く買いに来ればよかった。

ともかく車内用と思い持ち込んだビールだが、暑くてたまらず列車が動く前から飲みはじめてしまった。日本で飲むより苦みの強いビールだがなぜかこの国に来るとこのビールが飲みたくなる。

この国をしのんで日本で飲んだことあるが、苦みばかり強くておいしくなかった。以来、ビールは作った国で飲むのが一番という持論を持ち続けている。
ともかく翌日の13:00までは、国際列車に20時間以上乗り続けることになるうえ、国境を越えるとムスリムの国になるということもありビールの確保は私にとっては最優先事項となる。しかし、国境を越えるどころか列車が発車する前に無くなってしまいそうだった。天井では暑い空気をかき回すだけの扇風機が回り、南国の午後のけだるさのなか、どうやらビールが切れる前に定刻どおり列車は動きだした。しばらくすると、お約束のスコールが来て列車の中にも涼しい風が入ってくるようになり、窓の外をぼんやりと眺めていた。

椰子の木が線路に沿うように並び、池にはアヒルが遊んでいる風景を見ながら列車は南へと下っていった。
 一夜明け、硬いシートに座り続けてお尻も痛くなってきたころ国境に到着。何のトラブルもなく出入国手続を済ませ、さてビールと思いきや、売店にはなし。「もうイスラムの国なんだな」と妙に感心する。「まぁ、朝から飲むこともあるまい」と自分に言い聞かせつつ列車に戻った。

 国境を越えても椰子の木とジャングルはかわらず、隣の席に座っているチャドルをかぶったオバチャンは熱心にコーランを読んでいる。ボクはただひたすらにボンヤリとしているだけで頭の中は空っぽの状態。時はゆったりと流れ、さらに南へ。

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