第49回
『おじさんはなぜ時代小説が好きか』
関川夏央/著 岩波書店、2006、\1700+税
このところ本をじっくり読む時間がなくなっているのですが、きのう読み終えた本が『おじさんはなぜ時代小説が好きか』(関川夏央著・岩波書店)。こういういい本に出会えるのは幸せですね。「おじさんは〜」となってますが、年齢に関係なく読む価値のある本です。
この本のことは4月20日にちらっと「ごあいさつごあいさつ」で触れていますが、新聞の書評欄で知り、ぜひ読みたいと思っていました。
若い編集者に向けての講演という形で、山本周五郎、吉川英治、司馬遼太郎、藤沢周平、山田風太郎、その他数人の時代小説家とその作品を解説しています。ぼくは山本と藤沢以外まだ読んでいないので、この本で他の作家についての勉強もできました。できれば池波正太郎も取り上げてくれるとうれしかったあ、と言っては要求が多すぎますかね。でも期待に十分に答えてくれる内容でした。
著者は1949年生まれですから、ぼくより7歳上。十代の頃はモダニストで、「義理と人情のしがらみ」とかの「日本的感情」を徹底的にバカにしていたと言うことです。でもそれは単に1960年代の流行に従っていただけだったというのです。ぼくもまったく同じ。僕らの世代はみんなそうだったのじゃありませんか。ところが西欧型近代や「進歩」と言うものに少しずつ疑問を持ち始め、そのころから時代小説を読むようになったそうです。そしてその中に自分の心を打つものがあることを発見しました。
ぼくが非常に共感する言葉が、あとがきに書かれています。
「おじさんと時代小説の相性のよさはたしかに「保守化」と関係があるでしょう。しかしその根底には「人間は進歩しない」という経験的確信があります。生活は便利さを刻々と増すが、それは人間の質や幸福感の向上とはなんら関係がない、という苦い認識です。」
時代小説家が非常に闘争的であり、時代小説を書くためには教養と技術が必要とされることが、この本の中でひとつひとつつまびらかにされていきます。大衆小説などとバカにしてはいけない。いわゆる「純文学」などよりはるかに、人間や歴史の本質が描かれていることもあるのです。
ぼくが時代小説を本格的に読み始めたのは3年前。娘が中学校の国語の課題図書で山本周五郎著『さぶ』をもって帰ったのを、興味半分で読み始めてからです。あの衝撃。参りましたね。ぼくはこんな宝の山に気づいていなかったんだって思いましたよ。
時代小説にはまることはノスタルジアとか現実逃避ではない。もちろん多少そう言うものはあっていいし、それは小説を読む大切な楽しみの一つです。楽しみながら、より深く人生の本質に迫ることです。だれに遠慮することなく、おじさん道を突き進みましょう。
6/29/2006
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