第38回

『日本の農業を考える』
               大野和興/著
 岩波ジュニア新書、2004、\780+税

 以前このコーナーで紹介した『あてになる国のつくり方』で、農業の問題が取り上げられていました。自然、昆虫、生き物、食に関心を持つぼくとしては、農業も気になる分野です
。この本はジュニア新書なので若い人向けということになっていますが、内容はほかのジュニア新書と同様、大人にとっても読みごたえ十分です(むしろジュニア新書って、大人の方が読んでるんじゃないか?)。
 著者の主張に『あてになる〜』と一致している部分があります。すなわち、今の経済のグローバリゼーションに農業を当てはめてはいけない、ということ。それは長期的に見て確実に日本社会を滅ぼすというものです。もっと地域性を生かした産業として農業を復活させなければいけない、と力説します。
 本文は全部で5章。1章で日本の農業の現状がどれほど危機的状況にあるかが示され、2章では第二次世界大戦ごろからの歴史を振り返って、政治が農業をどのように衰退させたかをていねいに解説していきます。さらに
3章でグローバル化時代の農業、4章で食の安全と環境問題、という問題が取り上げられますが、正直言って、どの章を読んでも暗澹たる気持ちになるばかり。いまわたしたちはこんなにむごい時代に生きていて、それに気づかず脳天気に暮らしているのだと思うと怖くなります。
 この本がそこで終わっていたら、もうわたしたちは絶望するしかないじゃないかという気にさせられるのですが、著者は最後の第5章で農業を回復させる具体的な方法を教えてくれます。そしてそれらはすでにいま実際に日本各地で行われており、少しずつ広がっていることです。ここまで読んできて何かぼくはやっと息ができるようになりました。
 具体的方法のすべてをここで紹介することはできませんが、そのひとつは、自然(=土)の力を取り戻すということです。微生物に支えられている肥えた土によって作物を育てるわけです。自然の力はすごいのだと改めて驚くとともに、その力は安易な便利さの追求からは決して得られないことがわかります。化学肥料は究極的に土を堅くし、作物や人間の体をダメにしていくのです。便利さや見た目の美しさ・豊かさだけにごまかされ続けているわたしたちは、ここらへんでもう一度自分たちの命を守っていくことを真剣に考えて、身近なところから実践していく必要がありそうです。
 現代人は何のために生きているのか、考えさせられる本でした。
 
                               8/7/2004

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