第19回
『海馬 脳は疲れない』 池谷裕二、糸井重里/著
朝日出版社、2002、\1700+税
帯に書いてあるとおり「あかるくなれる脳の話」。第17回で取り上げた『話を聞かない男〜』同様、この本からも脳の研究が近年、長足の進歩を遂げていることがよくわかる。一日で楽しく読めて、しかも生きる希望と勇気がわいてくる。
東京大学薬学部助手で、脳の研究をしている気鋭の学者、池谷裕二さんと、ご存じコピーライターの糸井重里さんの対談で脳の話が進められる。
話題の中心は「海馬」という、脳のほぼ中央部にある小指くらいの大きさの部位。ここは記憶の製造工場であり、刺激を与えることでその神経細胞がどんどん増え続け、賢くなるのだそうだ。大事なのは、ここで言う賢さとは、いわゆる「お勉強ができる」のとは違うという点。昔、脳は20歳くらいで発達が止まるというのが定説になっていた。ぼくはそんなふうに聞いていた。あるいは幼少期の教育や体験が一生を決めてしまうようなことが、今も過大に喧伝されている。もしそうなら、中年以降の人生などほとんど無意味と言うに等しい。しかしそうではない。たとえば「脳の大切な機能のうちのいくつかは、30歳を超えてからのほうが活発になる」と聞くと、え、ほんと?と驚きつつ、展望が開ける思いがする。凡人が明日突然天才になることはないが、脳にはまだまだ多くの可能性が秘められていて、だれもがそれぞれの個性の中で、もっと伸びていくことができるのだ。その可能性を生かすか殺すかは、ぼくたちの決断にかかっている。「脳は使い尽くせる」のだと。
池谷さんはあとがきで「この本は、私を含め、この地球上に生きるすべての人への応援歌である」と書いている。生き方を励まされるだけでなく、脳についての新しい発見を学べるのももちろん大きな刺激だ。人間の体、脳ってこんなに不思議なものなんだ、ということに想いを馳せるだけでも、すばらしいひとときじゃないか。
10/23/2002
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