須賀川の章
すが川の駅に等窮といふものを尋て、四五日とゞめらる。
先白河の関いかにこえつるやと問。長途のくるしみ身心つかれ、且は
風景に魂うばゝれ、懐旧に腸を断てはかばかしう思ひめぐらさず。
「風流の初やおくの田植うた」
無下にこえんもさすがにと語れば、
脇第三とつゞけて、三巻となしぬ。此宿の傍に、大なる栗の木陰
をたのみて、世をいとふ僧有。橡ひろふ太山もかくやと間に覚られて
ものに書付侍る。其詞、栗といふ文字は西の木と書て
西方浄土に便ありと、行基菩薩の一生杖にも柱にも此木を用
給ふとかや。
「世の人の見付ぬ花や軒の栗」
<須賀川芭蕉記念館パンフレットより>