那須黒羽の章



那須の黒はねと云所に知人あれば是より野越にかゝりて直道を ゆかんとす。遥に一村を見かけて行に、雨降日暮る。農夫の家 に一夜をかりて、明れば又野中を行。そこに野飼の馬あり。 草刈おのこになげきよれば、野夫といへどもさすがに情しらぬには非ず いかゝすべきや、されども此野は縦にわかれてうゐ/\敷旅人の道 ふみたがえん、あやしう侍れば、此馬のとゞまる所にて馬を返し給へと かし侍ぬ。ちいさき者ふたり馬の跡したひてはしる。独は小姫にて 名をかさねと云。聞なれぬ名のやさしかりければ、
「かさねとは八重撫子の名成べし 曾良」
頓て人里に至れば、あたひを鞍つぼに結付て馬を返しぬ。
黒羽の館代浄坊寺何がしの方に音信る。思ひがけぬあるじの悦び、 日夜語つゞけて、其弟桃翠など云が朝夕勤とぶらひ、自の家に も伴ひて、親属の方にもまねかれ日をふるまゝに、ひとひ郊外 に逍遥して、犬追物の跡を一見し、那須の篠原わけて玉藻の前の 古墳をとふ。それより八幡宮に詣。与一扇の的を射し時、別しては 我国氏神正八まんとちかひしも此神社にて侍と聞ば、感應殊 しきりに覚えらる。暮れば、桃翠宅に帰る。 修験光明寺と云有。そこにまねかれて行者堂を拝す。
「夏山に足駄を拝む首途哉」



浄法寺桃雪亭跡芭蕉句碑
(「芭蕉の里くろばね句碑拓本絵はがき」より)



<あし>
東北本線西那須野駅から東野バス黒羽行きで35分、終点黒羽バスターミナル下車( 1日4-5便)。
バス時刻問合せ先:東野バス 0287-36-3348

または東北新幹線那須塩原駅から黒羽町営バス湯津上村役場行きで35分、黒羽役場前下車(1日4-5便)。
バス時刻問い合せ先:黒羽町




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