玄関を入って、右の洋間が深町さんの部屋。廊下を進んで左が俺の部屋。奥に居間と和室。ざっ
と案内をして、居間に腰を落ち着けた。いつもの習慣で空気の入れ替えをし、お湯を沸かしたり食
料を確かめる。
「今お茶いれますから、座ってて下さい」
「あ・・・すいません」
深町さんは、テレビをつけてニュースに見入っていた。その隙に、深町さんの寝室に入る。
自分の部屋があるとはいえ、寝起きを共にした部屋だ。不審に思われないように、そういう痕跡
がないかを確かめる。
これはやばいかな、と思うものを幾つか持ち出して、自分の部屋にしまった。
ヤカンのお湯が沸く音に、慌てて台所へ戻る。
レンジの前に、深町さんが立っていた。変わらない後姿に、ふと縋り付きたい衝動に駆られる。
ポットを探している様子に、自分がやるからと追い出した。
「傷は痛みませんか?お疲れでしょうし、横になっていた方がいいかも知れませんね」
「いや、大丈夫ですよ。やっぱり、何だか不思議ですね。自分の家だっていうのに。全然分からな
いものだから」
そう言って、彼は困ったように笑った。
部屋には全く見覚えがなく、寝室に入って驚いたのは部屋の中央を占めるダブルベッドだった。
結婚していたというから不思議ではないのかも知れないが、それでも今でもこれを使っていたのだ
ろうか。確かに寝心地は良さそうだが。
戸をノックする音が聞こえた。速水さんの声がする。
「お風呂とご飯、どうしますか。すぐ用意出来ますけど」
「すいません、お風呂使います」
結局すべて彼に用意してもらって、恐縮してしまう。自分と彼がどのように同居をしていたのか、
やはりどうしても分からない。彼からしてみれば上官の自分と、四六時中一緒というのは、息が詰
まらないのだろうか。こんな風に気を遣うような相手ではなかったのか。
「頭はまだ洗えそうにないですね。明日は、手伝いましょう」
「そんな、そこまでしてもらう訳には・・・」
「気にしないで。困った時はお互い様でしょう」
そう言って、柔らかい笑みを浮かべる。戸惑っているのは自分だけではない。きっと速水さんも
見知らぬ自分に、どう接していいか困っているのだろう。そう思うと、胸が痛んだ。