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 上陸する頃には、自分がこの艦の艦長をしていて、俺が副長で、というのは判ることだ。その
二人が、同じマンションに住んでいるというのを、どう説明するべきか。
 しばらくは、実家に帰るかな。
 帰港するまで、結局深町さんとは何も話せなかった。


 横須賀港に帰港して、俺はまず艦長の代理として、報告を済ませた。艦長はすぐに病院に送
られ、精密検査を受けている。
 艦の中を興味深気に見回していた。15年前の艦しか知らない彼には無理もない。とにかく入
院して、後は自分が引き受けるからと言うと、恐縮しているようだった。
 報告を終えると、司令に呼び止められた。
「ちょうどこれから連休だし、しばらく休養することだ。速水三佐は出来れば時折、様子を見て
やってくれ」
「はい。そう致します。では」
 司令部を後にして、俺はすぐ病院へ向かった。
 受付に病棟を訊ね、病室へ移っていると教えられる。検査はもう終わったようだ。
 ナースセンターで面会の旨を告げると、もう退院の許可が出ていると言われた。
 病室の前の廊下に、先に来ていた南波曹長が待っていた。
「副長、検査終わりましたよ」
 南波さんの話では、頭部の怪我は軽く、縫う必要もないそうだ。脳波にも異常は無く、やはり
記憶の一時的混乱が生じているという診断だった。
「安静、しかないらしいですよ。いつも通りの生活をして、思い出すのを待つだけだそうです」
「それ、本人は・・・・」
「説明は受けてます。記憶喪失と言っても、25才までの記憶はありますから、日常生活には困
らないだろうって。自分でも、今の住まいに戻るって言ってます」
「そうか・・・・ありがとう」


 目が覚めたら、おじさんになっていた。浦島太郎の気分は、こんななのだろうか。鏡の中の自
分を見て、俺は溜め息をついた。
 潜水艦乗りになることが決まったばかりだったのに、今の俺はその艦長をしているという。
 自分の知らない15年間が気になる。いずれ思い出せば、何の問題も無いとはいえ、本当に
思い出す日がくるのだろうか。
 自宅に帰ると言っても、25の自分が住んでいたアパートではない。そのマンションに連れて
行ってくれるという、あの三佐が来るのを待っていた。
 廊下に話し声が聞こえる。迎えが来たのだろうか。ここまで一緒に来た南波曹長と、もう一人
は、その副長だろう。