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 艦長は頭を押さえながら起き上がる。どうやら怪我はたいしたことはなさそうだ。
「医務官、どういう・・・・」
 医務官は艦長に幾つかの質問をし、最後に言った。
「では深町さん、あなたの年齢はお幾つですか」
「はい、25才です」


 気が付くと、小さな部屋の壁に造り付けられたベッドに寝かされていた。頭の後ろを
打ち付けているらしく、ずきずきと痛む頭には包帯が巻かれている。昨日はどうしたっ
け、と思いながら、回りを見渡すと、医務官の他に、随分と顔立ちの綺麗な三佐が、
自分を心配そうに覗き込んでいた。
 うちの艦にこんな人いたっけ、と思っていると、その人は俺を艦長と呼んだ。深町さ
ん、と聞かれて、慌てて答える。
 どうやらここは艦長室らしいが、何故二尉の自分がこんな所にいるのだろうか。医
務官の質問に答えるうちに、自分の手が、見慣れないものであることに気付く。
 ふと肩に目をやると、いつもつけていたものの倍、金色の線が入った階級章がそこ
にある。
 そこにいた皆の疑問に答えるべく、医務官が口を開いた。
「記憶の後退が起こっています。15年分の記憶が、思い出せない状態のようです。
頭を打っていますから、まず陸に上がってから検査しますが、とにかく安静にして下さ
い。記憶の方は、じきに思い出すとは思いますが・・・・」


 艦長を休ませて、医務官と共に士官室へ移動する。
「外傷は大した事はありません。吐き気もないようですし、しばらく様子を見て、変わ
らないようであれば、怪我の方は心配ないと思います。ただ、記憶が混乱しているよ
うですので・・・・」
「記憶が戻るには、どうすれば?・・・・」
「一時的なもので、すぐに思い出すこともありますが。無理に思い出そうとさせない方
がいいでしょう。不安にさせるのは良くないです。まぁ、上陸して家に帰れば、大丈夫
でしょう」
 医務官の言葉に、俺はどうしよう、と思った。
 家は、あのマンションしかない。家族といっても、確かご兄弟が九州にいたくらいで、
俺も会ったことはない。
 そして、同居人の、自分。
 俺と会うより10年も前の、彼。結婚をしたのは、29の時だと言っていた。
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