―3― 
 自分が指揮をとっている時に、後ろに居られるのは複雑な気分だ。
 珍しく人のことを何か言いた気な目で見ているので、何か、と問い掛け
るが、何でもない、とかわされてしまう。
 もしかして、見合いの件がばれたのかな、と思った。情報網は自分より
余程広いのだ、艦長は。
 台風の近付く海は、予想以上に荒れていた。どこかに掴まっていなけ
れば、立っていることもままならない。
 それは、唐突に起こった。
 手にボードを持ったまま、指示を出していた俺は、潜行に移る時に立つ
位置を変えようとした。だが後ろに出した足が空を切り、揺れも加わって
バランスを崩してしまう。
 何が起こったのか、しばらく分からなかった。
 何故ここに艦長が倒れているのだろうか。
 後ろ向きによろめいた俺は、仰向けに倒れかかった。尻餅をつくはず
が、どこも痛くない。その代わりに、深町さんが、壁に寄りかかるようにし
てうずくまっている。
「・・・・艦長!!」


 深町さんは、三人掛かりで艦長室に運ばれた。すぐに医務官が呼ばれ
る。後頭部が出血しているようだ。
 まだ意識が戻らない。
 体の震えが止まらない。しっかりしなくては、と思う気持ちは空回りし、
自分では動揺を抑えることが出来ない。
 航海長が、発令所の方は大丈夫だからと、俺がまだ手に持っていた
ボードを取って、戻っていった。
「意識が戻りました」
 医務官の声に、艦長室の中に足を進めた。
「艦長!・・・・大丈夫ですか?」
 頭に包帯を巻かれ、深町さんは顔をしかめながら目を開けている。その
反応に違和感を感じ、俺は嫌な予感に捕らわれた。
 深町さんの目に、自分が映っているはずなのに、その目がどこを見てい
るのか判らない。まるで知らない人を見ているような。
「・・・・深町さん?」
「あ、はい・・・・あれ、ここは・・・・?あの、俺どうしたんでしょう」
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