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 翌日、速水さんはスーツを着て出掛けていった。
 どこへ行くのか気にはなったが、そこまで詮索は出来ない。
 暇を持て余していると、電話が鳴った。
「はい。深町・・・」
『あ、艦長。南波です。具合どうですか』
「ああ・・・、傷の方はもう大分良くなりました」
『・・・あ、副長・・・速水さんは?』
「さっき、出掛けた所です」
『ああ、お見合いでしたね。艦長、暇してるかと思って、お見舞い行こうかと思ってるんです
が・・・』
「あの、お見合いって・・・?」
 南波さんは、おそらく親に無理やり受けさせられた見合いだろうと言った。副長ももう35
で、世間的に微妙なのだと。
 昼過ぎに訪ねるからと、電話は切られた。
 お見合い、という言葉が引っかかっていた。何か考えなければいけないことがあった筈な
のだ。それが何なのか、どうしても思い出せない。


 何とかお見合いの席はこなして、帰り際に親に断りを言ってそれ以上の追求を断ち切っ
た。不誠実にならない程度に、相手はしたつもりだった。これ以上付き合う義務はない。
 マンションに帰ると、夕方だというのに明かりはついていなかった。居間に入ると、ソファの
上で深町さんは眠っていた。
 テーブルの様子に、来客があったのは分かった。恐らく南波さんだろう。ここまで来る人は、
他にあまりいない。
 明かりを点けると、気が付いたらしく、深町さんは少し身じろぎをした。
「こんな所で寝ていると、風邪ひきますよ」
「・・・お見合いは、どう・・・」
「何で、それを・・・?」
 起き上がった深町さんは、不機嫌そうに眉をひそめている。
「南波さんに聞いた。どうだったんですか?」
「別に・・・断ってきただけです。そんなつもりないし」
 腕を掴まれて、ソファに座らされた。肩を押さえ付けるように抱き締められて、抵抗も出来な
い。
「俺、考えていたんだ・・・あなたにとって一番いいのは、どうすることなのか。俺がずっとこの
ままで、あなたはちゃんと普通に結婚とかして、そうすれば親だって世間体だって気にする
こともなくなるし。そうするのがいいはずなんだ。だけど、・・・その方がいいと思うのに、嫌な
んですよ・・・やっぱり。俺が間違っているのかな」

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