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「秋亜人、温かいね・・・・」
「そうか? お前もあったかいぞ」
「え、でも僕何だか寒くて・・・・」
「寒い? 寒気がすんのか!?」
 秋亜人はガバッと身を起こした。
「あ、いや・・・・きっと酔いが醒めてきたからだよ」
「そうだな。・・・・もう寝よっか」
「月は? もうすぐ一番欠ける頃だけど」
「ベッドからならさ、見えるじゃん」
 秋亜人は立ってテレビを消した。
「それにお前、眠そーだし」
「そうだね。隣りの客室のベッド、姉さんが整えといてくれたから、すぐ寝られるよ」
 凱はベッドの上に座り直す。その横に、秋亜人も腰掛けた。
「なぁ、俺、もうちょっとここ居ていい?」
「ああ、構わないけど」
「凱、布団入ってていいよ」
 秋亜人はそう言ってベランダへのガラス戸の前に立ち、半分ほど閉まっていたカーテンを端まで
開けた。
「電気、消すよ」
 凱が、布団にもぐっているのを確かめて、秋亜人は部屋の明かりを消した。
 再びベッドに腰掛けて、凱の顔を覗き込む。
「凱、寒くない?」
「うん、少しね」
「俺、入ったら狭いかな」
「えっ?」
 言い切らない内に、秋亜人は凱の横にもぐり込んでいた。うつぶせになったまま、顔を凱の方に
向ける。
「狭いけど、あったかいだろ」
「・・・・ああ。何だか、久し振りだな」
 凱はくすっと笑う。小さい頃、同じ布団にもぐりこんでいたことを思い出していた。
「なぁ、月が丁度、良く見えるぜ」
 暗さに目が慣れ、秋亜人がガラス越しの月を指した。
 頬杖をついた秋亜人の横顔が、月明かりの中シルエットで浮かび上がる。こんな時には、普段
照れ臭くて口に出せないような話をすることが出来るものだと、知らないまでもそんな衝動にから
れるのだった。
「秋亜人、僕さ、少し前に新聞で見た記事があるんだけど」
「うん? どんなの」
 秋亜人は腕を替えて、凱の方に顔を向けた。
「高校生の女の子二人が、ビルから飛び降り自殺したんだ。一緒に、手をつないで・・・・ね。心中っ
て言うんだろうけど。どうしてだと思う?」
「全然判んね。大体俺、自殺する奴の気が知れないもん」
「遺書にね、こうあったんだ。いつまでも一緒に居たい、離れたくないって」
「ますます判んねーや。死んじゃったら一緒も何もないじゃんか。なぁ」
 到底理解出来ないと言うように、秋亜人は口を尖らせる。凱は少し首を傾げて言った。
「うん、でもその子達は、それしか考えられなかったんだろう。死んで一緒になれるのだと思ってい
たんだろうし、生きていて、ずっと一緒に居られる自信がなかったのかなって、思ったんだけど。僕
ももちろん、自殺するのは良くないと思うけどさ」
 凱は何か辛いことを話すように眉をひそめた。枕に顔を埋めるようにして、目を閉じる。
「何だか、一緒に死ねるほどの想いってすごいな、とも思った・・・・でさ、確かに生きていて絶対に、
ずっと一緒に居られるとは限らないのかも知れないなって・・・・」
「う〜ん・・・・でも、死ねるほどの勇気があるんなら、何をしてでも一緒に居る努力した方がいいと思
うな」