W. Nel cor piu non mi sento / 2     
−11−  
 結局二軒目に入り、杯を勧められる。
 一人二人と席を立ち、いつしか深町と差し向かいになっていた。呑む量を抑えようと、いつも
よりも口を動かした。気分を偽って尚、余計に口調は軽くなる。
 他愛のない話もネタが尽きると、深町はまだ帰らなくても良いのかと、気に掛けていたことに
触れる。
「航くんが待っているでしょ?」
 微笑みが、ぎこちなく強張るのを、俯いて隠す。
「いや・・・冬休みに入ってから、実家に帰ってるからな。こっちにはいない」
「ご実家というと、橿原の?じゃあ艦長も戻られるんですか」
 速水の言葉に、深町は首を横に振って、残った酒を呑み干した。
「そうもいかんだろ・・・」
 速水は黙って酌をしながら、深町の横顔を盗み見る。
「どうせ年が明ければすぐに仕事だ。それまで寝て過ごすさ」
「じゃあ、年明けにはおせち料理持って伺いますよ」
「ああ、そうしてくれ」


 結局終電間近まで呑んでしまった。店を出て、駅へ向かいながら、それでもお互いに大して
酔っていないのが判る。
「このまま帰るのはつまらんな」
「つまらないったって、こんな時間からどうするんです」
「どっか行きたい所ないか?」
「別に・・・」
「まぁいい、ちょっと歩こう」
 駅を過ぎて、歩いているうちにさすがに少し冷えてくる。吐く息は面白いほどに真っ白で、見
上げれば良く晴れた空には満天の星が輝いていた。
「なぁ、速水」
 横に並んで歩いていた深町が、低い声で言う。
「はい?」
「ホテルでも行くか」
「・・・え?・・・――――」
「もう時間ないだろ」
「・・・そうですね・・・」


 先にシャワーを浴びながら、速水はかなり当惑していた。この手合いのホテルに入ったことが
ない訳ではないが、男同士で入ったのは初めてである。
 自分にそのつもりがないと言えば嘘になるが、深町にあるのかどうかが判らない。
「お先に、どうも・・・」
「うん」
 深町は吸い差しを灰皿に押し付けて、立ち上がった。入れ代わりにソファに腰を下ろして、速
水は小さく溜め息をついた。
 不安が胸の内に広がり、心細さに両腕で自分を抱き締める。確かなのは自分の気持ちだけ。
それしか持たなくても、良いのだろうか。
 深町が、歩み寄り立ち止まる。背後から名を呼ばれて、速水は立ち上がった。
 深町の姿に、ホッとする。甘えても、良いだろうか――――
 差し伸べられた両腕に、速水はためらいもなく身を預けた。
「・・・いいのか?」
 困ったような深町に、速水は微笑みを浮かべて縋り付いた。
「・・・お願い・・・」


■TOP■ 
■BACK■ 
■NEXT■