坂を上がると、鹿島の町中である。神宮の森を囲んで、街が広がっていた。
駐車場はすでに満車ばかりで、仕方なく神宮から大分離れた場所に停める。真夜中だと
いうのに、凄い人出だった。
夜店の屋台が並ぶ道を、はぐれないように寄り添って歩く。鳥居をくぐり、手を清めた。
本殿の前は、更に人込みが増していた。どうにかこうにか賽銭を投げ入れ、拍手を打つ。
御神酒を頂いたり、御守りを見たり。
「何か御守り買います?」
「買っても、収めに来れないだろ」
「そうか・・・じゃ、おみくじ」
「並んでるぞ」
「いいじゃないですか」
おみくじの所は長蛇の列であったが、そんなことは気にならない。速水は大吉を引き当て
て、大喜びである。
「俺、大吉なんて初めてですよ。何か嬉しいなぁ。何でした?」
「小吉」
二人とも吉なんて、今年は幸先が良い、と速水は喜んでいた。
境内を出る頃は、東の空が白み始めていた。さすがに少し人出も減ったようだ。
「この森の奥行くと、鹿とかいるんだ。奈良の春日大社のと兄弟なんだと」
「ええ、見たいなぁ。でも今は無理か・・・要石ってのも、ここでしょ?」
「ああ、奥の方だがな。なに、夜が明けてからまた来たらいいさ」
とりあえず腹ごしらえに、お好み焼きを買い、車に戻って熱いコーヒーと一緒に食べる。
その頃には、空には夏の星座が輝きを失っていく所だった。段々と青空へ、そして暁の
空へと変化してゆく。
「よし、じゃ初日の出を拝みに行くか」
「どこへ?」
「海。水平線からの日の出が一番だよな」
「・・・ええ」
それを見たかったのかと、速水は会心の笑みを浮かべた。