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 51号線から、下津海岸の標識で右折する。高天原団地を過ぎると、道は海岸へと下り、目の
前に海が近付いて来る。細い道を、民家を擦り抜けながら真っ直ぐ。少し坂を上ると、いきなり砂
浜に出た。
「港の向こう側だと、何キロも一直線の道とかあるんだが。こっち側は海水浴場だからな」
 右手の先に、港の方にある工場の煙突が見える。
「いいんじゃないですか、ここ。本当に、海が目の前」
 車の外に出ると、海からの風がコートの上から身に凍みた。肺が痺れるように震えたが、構わ
ず砂浜へ歩き出す。
 打ち寄せる波は、激し過ぎず優しくもなく、心地好い潮騒を上げていた。
「いいなぁ、やっぱり」
 遠く、太平洋を遥かに見渡して。
 鹿島港に向かうタンカーが、水平線をすべる。
「もうじき、日が昇るな」
 後ろから歩み寄った深町に、速水は振り返って微笑んだ。肩を抱かれるままに、寄り掛かる。
 やがて、水平線上に雲間から、橙色の太陽がゆっくりと顔を出した。みるみるうちに、黄色に輝
きを増し、丸い姿を現す。朝焼けの雲も青い空も、何もかも美しく見えた。
「車に戻るか」
 さすがに体も冷えてくる。肩をたたかれて、速水は頷いた。
 先に歩き出した彼は、車の手前のコンクリートの上に、何か光るものを見つけて身を屈めた。朝
日を受けて輝くそれは、指輪だった。
 やけに綺麗で、思わず手を伸ばして拾い上げる。
 銀かプラチナか。飾りのないそれは、結婚指輪のようで、一体何故ここに、と思い、名前がない
かどうか内側を見る。と、後ろから来た深町が、いきなりそれを取り上げた。
「ちょっと、見てたのに・・・」
 言い終わらぬうちに、手を掴まれた。深町は無言で、その指輪を速水の指に滑らせる。
「え・・・どうして・・・」
 指輪はすんなりと指に落ち着いた。そして、その指が左手の薬指であることに気付く。
「サイズが合うかどうか、少し不安だったんだが」
 深町が、少し照れたように笑う。
「ぴったり・・・」
 もしかして、まさか。それがはっきりと本当に、に変わり、速水は驚きと嬉しさが体の奥から溢れ
出すのに、泣きそうな顔で笑った。
「・・・ありがとう・・・」
 深町の首に腕を回して抱き締める。背中に回された腕が抱き返してくるのを感じながら、目を閉
じた。
 互いの頬が、触れ合った時には冷えていた肌も、互いの体温を感じるようになる。
「嬉しいです、俺・・・」
「もう一声」
「愛してる・・・」
「俺もだ」
 初日の出に遠慮して、続きは車の中へ。
 エンジンをかけて、エアコンで車内が暖まるまで、二人は寒さも忘れるほどの熱いキスを交わし
たのだった。


   −了−

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元ネタは当時やっていたCMより。タイトルは安藤何某という
男性歌手の歌から。シングル持ってました。一発屋ですね。
ありったけの 愛をこめてKiss 君に本気を 今日は見せたい♪
19920902 : Tonbi Hasaki