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Reference . 戸板康二についての基本文献


INDEX
1 * 「ちょっといい話」で綴る戸板康二伝
2 * 矢野誠一『戸板康二の歳月』
3 * 季刊「Bookish」第6号《特集:戸板康二への招待》
4 * 『思い出す顔 戸板康二メモワール選』講談社文芸文庫





1. 戸板当世子編『「ちょっといい話」で綴る戸板康二伝』(戸板康二追文集編集委員会、1995年)

「ちょっといい話」で綴る戸板康二伝

戸板康二の三回忌に配布された私家版の追。この本のそもそものいきさつは、林えり子さんが野口雨情の文献を調べていたとき『みんなで書いた野口雨情伝』という本に出会い、その「みんなで書いた」という点に深く胸を衝かれたことに端を発するとのこと。そして、たちまち110人もの人々の文章集、「みんなで書いた」戸板康二伝、すなわち『「ちょっといい話」で綴る戸板康二伝』の刊行の運びとなり、平成7年1月23日の三回忌に先立つ1月19日に東京会館で偲ぶ会が催されたという。と、110人もの人々による「みんなで書いた」戸板康二伝の刊行が、たちまち本当に実現してしまうこと、そのこと自体が、戸板康二の柄と徳を伝える「ちょっといい話」のような気がする。[>>> 目次

そして、中身も、110もの文章を、戸板康二の生涯をたどるようにして読むことができるという、なんとも秀逸な編集となっている。と同時に、巻末には、犬丸治さん作成の懇切な年譜が付されており、「みんなで書いた」戸板康二伝でもってよい気分で戸板康二についての文章をわんさと読む快楽と同時に、具体的に戸板康二の仕事をたどることで、今後の戸板康二研究(らしきもの)への意欲もみなぎってしまうという、戸板ファンにとっては、一冊全体がぜいたくこの上ないものなのだ。矢野誠一さんの『戸板康二の歳月』とおんなじように、表紙には、戸板康二の筆によるウサギの絵があしらってある。



2. 矢野誠一著『戸板康二の歳月』(文藝春秋、1996年6月発行)

戸板康二の歳月

戸板康二を知って間もない頃、『歌舞伎への招待』を読んだ直後に、戸板康二の詳しいところを知りたいと思い、この本の存在を知ってさっそく読んだ。その後、ますます戸板康二に夢中になりそれはとどまるところをしらないのだった。と、戸板康二道まっしぐら、ちょっと大変なことになってしまったのは、この本の存在に負うところが多い。今まで、何度読み返したことだろう。帯には《その誠実にして軽やかな歩み》と、実に巧い惹句が付いている。そして、この書物の書き出しは、《夏目漱石『心』の書き出しを気取るなら、「私は其人を常に先生と呼んでゐた」ということになる》というふうになっていて、なんと素敵な書き出しだろうと思う。戸板康二によるウサギの絵があしらわれている表紙もこの書物の空気をよく伝えている。

著者の矢野誠一さんは、戸板康二の人物紹介に際し《戸板康二というひとの、たぐいまれなる才能が多彩に発揮されるきっかけには、いつも格好な、それも一流の人物との出会いがあった》として、この書物は、人物との出会いという点に重点が置かれている評伝となっており、そこから立ちのぼる「都会の紳士」の空気、洒落た語り口と洗練された社交は、そのまま戸板康二の歳月を語ることにもなる。つまり、この『戸板康二の歳月』を読むことで、戸板康二の歳月そのものを追うことができるのはもちろんのこと、戸板康二の立つ文化圏を味わうこともできるという二重構造、戸板康二について知るという具体的な効果と合わせて、『戸板康二の歳月』の文章が立ち上る風合いに触れることがそのまま絶好の戸板康二への招待となる仕掛けなのだ。この本を読んだことで戸板康二にさらに夢中になって、古本屋通いに熱中しだしたのは、『戸板康二の歳月』が醸し出す風合いに触れることで、戸板康二そのものの風合いをヴィヴィッドに感じたことがあったのだと思う。



3. 季刊「ブッキッシュ」第6号《特集:戸板康二への招待》(2004年1月23日発行)

「ブッキッシュ」

没後10年の2003年、関西発のリトルマガジン「BOOKISH」で戸板康二特集が編まれて、11回目の命日にあたる2004年1月23日に発行された。[>>> BOOKISH のウェブサイト

《特集・戸板康二への招待》目次


4. 『思い出す顔 戸板康二メモワール選』講談社文芸文庫(2008年5月)

『思い出す顔』

編者の犬丸治さんの解説に《本書は、この「回想の戦中戦後」「思い出す顔」の主要部分を抄録して、戸板康二七十七年の人生に光を当てようという試みである。》とあるとおり、戸板康二自身による2冊のメモワール、昭和54年刊の『回想の戦中戦後』(書誌)と昭和59年刊の『思い出す顔』(書誌)を犬丸さんの絶妙な編集で抄録した本。犬丸さんの編集の妙で、「戸板康二自伝」的な1冊の美しい文庫本が世に送り出された。講談社文芸文庫ならではの著書目録と年譜を完備するという構成が、この1冊の文庫本を、「戸板康二への招待」ないしは「戸板康二の歳月」といったおもむきにしている。前述の『「ちょっといい話」で綴る戸板康二伝』がかなり入手困難な稀覯本であることを考慮すると、犬丸治さん作成の年譜が容易に参照できるようになったという点でも、貴重。



(August 2008)
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