ち り か ら こ ろ と、ちってしまいそうなこと
子どもの頃 透きとおったガラスの水のみで 水を飲んでみたかった 大人になってから 念願かなって 水のみで水を飲んだわ 病気で入院したとき 夫さんに 売店で買ってきてもらったの ところが ひどいのよ ポパイがパイプ吸ってるみたいだ、って笑うの おまけに、水のみはプラスティックだった 5/29 ガラスの水のみの不思議な形は アラジンの魔法のランプに似ていたから あたしはランプの中に住んでいる 巨きい人の 雲のような手にのって ふわふわ とんでいった いったい どこへ おとぎの国へ 母さんの布団に頭をもたせて 眠ってしまう午後に 5/28 母の病気は感染るといわれていたけれど おばあちゃんはいつも そばで縫いものをしていたし 私も布切れをもらって 人形の服を縫ったりしていた あるとき 母がいった 「縫い目がこんなにそろって、 この子はだいじょうぶね」 ああ、私は だいじょうぶだっただろうか 5/22 薄くきざめば ほろほろと 輪になって こぼれる 茗荷を愛す 茗荷を刻むとき 母の水まくらを思い出す ガラスの吸いのみを思い出す 母のために薬包紙をひらく 父の哀しみを思い出す おじいちゃんの お経の本を思い出す おばあちゃんの針箱の 紅絹の切れ端を思い出す 火鉢で煎じる 中将湯を思い出す それぞれの匂い 今となっては微かに甘い 茗荷色のとき 5/22 スミレがタネをはじいた こんな小さい鉢の中で 神さまとの約束を守ったのね スミレの声が聞こえた アタシノイノチヲイキタイ あした 野はらにいって アナタの居場所を探しましょう とびちったタネも 一つ残らず蒔いてあげましょう これからは空の下で暮らすのよ 聞こえるといいな ライネンノハルアイニキテネと 5/10 ヒモをちらちらさせて走るなんて 子どもの頃とおんなじね リリィも子猫の顔でおいかけてる どたばた ゆさゆさ 家が笑ってるよ もう三十になったの 会社ではエイギョウの仕事をしてるの あゝ、スーツ姿だって まだ かあさんにはまぶしいのに もっと猫とあそんだら そういえば 今日は 子どもの日ね 5-5 ピッピドンドン ピッピドンドン こどもの がくたい・・・ スーパーでBGMが流れた 玉ねぎも、食パンも 買い物かごも なにもかも ほっぽりだして かあさんの膝に 顔を埋めたくなった とっくに かあさんはいないんだけど こどもの楽隊はカナシイんだもの あごひものついた帽子がカナシイんだもの なのに あたし 二日も三日も ピッピドンドン って 唄っていたわ 5-2 |