プラテーロとわたし」 J. R, ヒメーネス作 長南実訳  岩波文庫

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坂田寛夫さんの「まどさんのうた」という本の中で

ヒメーネスの「プラテーロとわたし」を知りました。

そのくだりがとても感動的だったので、ご紹介します。

一九四三年、まどさんは三十三歳で兵隊にとられた。

日本の敗戦がはっきりし始めた頃だ。船にすぐ酔うまどさんが、よりにもよって、ちいさな発動機船を動かす部隊に入れられた。翌年日本軍が敗走中のレイテ島へ、決死偵察隊員として、マニラからポンポン船で船出した。乗組員は少尉以下四人だけだ。 昼間は島かげにかくれ、夜だけ航行して、ある日誰もいない漁港に上陸した。ところが、無人の村にたったひとりスペイン人の神父さんが残っているのをみつけた。スペインは中立国だが、神父さんはひどくおびえて、隊長の質問にも答えられない。隊長はスパイかと怪しんで、船へ引き立てて行こうとした。

まどさんはそのとき、自分が好きな「プラテーロとわたし」の作者ヒメネスが、神父さんと同じスペイン人だったことを思い出した。プラテーロは木陰で本を読む詩人のうしろから、舟のへさきのように鼻をつきだして、一緒に五月のバラの詩を読もうとしたロバの名前だ。

『ヒメネス、ヒメネス』 と、まどさんがささやくと、三度目くらいにやっと神父さんは気がついたらしく、それからは落ち着いて受け答えをして、命拾いをしたという。

・・・私は神父さんの気持ちが落ち着いたのは、そのとき「ヒメネス」とささたいた日本兵の、うすい虹のある瞳のやさしさのせいではないかと思っている。