テキスト ボックス: ちょこちょこ歩くクロネコのあとを、のっそりくまさんがついて
いきます。なんだかぷっくりふくらんだ郵便かばんは、くまさん
が持っています。

こうして森を歩くのは何年ぶりでしょう。
生まれたばかりの木や草の芽がキラキラして、やさしい風がほわ
ほわと吹いています。あの道もこの道も、だんなさんと一緒に歩
いた道です。
    
森の動物たちは春の仕事に大いそがし。
あなぐまさんは家の前のトンネルをお掃除しています。
「ほっほっほー」という声は、木の上でダンスのけいこをしてい
る、おながざるの兄弟です。
ダンスが下手だとお嫁さんが来てくれませんからね。
お母さん鹿は、もうすぐ生まれる赤ちゃんのために、やわらかい
草のベッドを作っています。

みんなみんな、なつかしい森の仲間。
それなのに、くまさんはだれの名前も思いだすことができません。
頭をトントンたたいても、ブルブルゆすっても名前はひとつもで
てきません。くまさんがなくしたのは、自分の名前だけではなか
ったのです。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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