失恋から始まる恋もある


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《四十一章》「幼なじみ」



 そんなある日、帰り道に偶然、奈津美は幼なじみにばったり会った。
「なっちゃん」
「?」
 奈津美は声をかけられても分からなかった。
「俺だよ、友也(ともや)」
「あ……ともくん!?」
 奈津美はようやく思い出した。
「だれかと思った。あれ? 今、アメリカにいるって聞いたけど?」
「うん、日本に帰ってきたんだ。時間ある?」
 奈津美は腕時計を見て、
「ちょっとなら」
「じゃ、そこでお茶しようか」
 ふたりは近くのカフェに入った。注文して、外の席に座る。
 奈津美は携帯電話を取りだし、蓮に少し遅くなるとメールした。
「久しぶりでびっくりした」
 オープンテラスに並んで座って通行人を見つつ、お茶を飲んでいた。通行人がこちらをちらちら見ている。
 蓮といるといつものことだから慣れていたけど、今日はいないのになんでだろ? と奈津美は疑問に思った。なんか変な格好していたかと不安になる。
「なんか通行人の視線が痛いんだけど、私、今日の格好、おかしい?」
 奈津美の言葉に友也は笑った。
「相変わらず面白いな、なっちゃん」
 そう言って、友也はタバコに火をつけた。奈津美は顔をしかめた。友也は気がつかない。
 蓮はタバコを吸わないから、こうして考えると楽だな。
「まだあの会社にいるの?」
「うん。今、仕事楽しくて充実してるよ」
「そっか……」
 友也は少し、遠い目をしていた。
「あーあ、なっちゃんがこんなにかわいくなるのが分かってたら、あの時思いきって告白してたのに」
 友也にそう言われ、奈津美は固まった。
「な……?」
「なっちゃん……」
 友也はいきなり奈津美を抱きしめた。
「!?」
 奈津美は焦った。
「ちょ、ちょっとともくん!?」
「なっちゃん、昔から俺、好きだったんだ」
「!!」
 奈津美は友也を振り払い、びんたをしてバッグを持って、店を出た。
「なにあれっ!?」
 奈津美は走って家に帰った。
「ただいま」
「お帰り。あれ、おもっ……奈津美!?」
 蓮は奈津美の声に玄関へ行った。玄関には、涙を目にためた奈津美が立っていた。
「奈津美……?」
「うっ……」
 奈津美はふるふると震えている。蓮は焦って靴を脱がせて、リビングに奈津美を連れていった。
 ソファに座らせ、水を取りに行こうとしたところ、腕をつかまれて抱きつかれた。ふっと奈津美からタバコと匂ったことのある男物の香水の香りがした。この特徴ある香水とタバコの匂い……。
 蓮は思い当たる節があり、顔が険しくなるのがわかった。
「奈津美? 男に会った?」
「うん。幼なじみ」
 蓮の表情がさらに険しくなった。
「なにかされたのか?」
 奈津美は少し言いにくそうだったが、ようやく
「……抱きつかれた」
「!!」
 蓮は驚いて口を開きかけたが、奈津美にぎゅっとしがみつかれ、口を閉じた。

   *   *

「蓮っ……!」
 奈津美は蓮の顔を見て安堵したらしく、泣きはじめてしまった。
「怖かった……」
 蓮はやさしく奈津美を抱きしめながら、表情は険しい。まさかとは思ったが、
「そいつ、山岸友也だろ」
 蓮の言葉に奈津美は驚いて、泣き濡れた顔をあげた。
「え……。蓮、なんで知ってるの?」
「……大学の時、同じ研究室だった」
「そうなんだ……って、ちょっと待って」
「なんだ?」
 蓮は奈津美を見た。
「だってともくん、あそこの大学って」
「そうだよ。オレ、あそこの大学出たんですけど」
「うそ」
 奈津美は驚いている。
「奈津美?」
「蓮の学歴なんて知らないよ。だってどこの学校出ていても蓮は蓮でしょ?」
 蓮は唖然とした。あまり学歴学歴とは言わないけど、そこまで無頓着なのも珍しい。
「オレ、別に自慢するようなものではないけど、がんばって入ったんだぜ」
「すごいのは分かるけど、あまりにも自分とはかけはなれすぎて、わからない」
 そしてそこでなにか違和感を覚えた奈津美はふと首をかしげる。
「あれ? 私、短大だったから大学の仕組みに疎いんだけど、なんか計算が合わないような」
「よく気がつきました」
 蓮は奈津美の頭をなでた。
「オレ、飛び級したから」
「日本の大学って飛び級できるの?」
「まあ、可能」
 実は目の前にいる人はものすごく頭のいい人だったんだ……。しかし、奈津美はそこまでしか分からない。
「なんというか、奈津美が面白いのを改めて認識させられた」
「う……」
「あいつと幼なじみか……」
 蓮は友也の顔を思い出し、顔をしかめた。
「また嫌なヤツが出てきたな」
「なんかあったの?」
「まあ……」
 蓮はすごく嫌な顔をして、
「オレ、顔がこんなだし、あいつもかなりもてたみたいで、ライバル意識むき出しで、よく絡まれた」
「へー」
 友也の性格を知っている奈津美としたら、意外だった。
「ともくん、けんかっ早いんだ。昔はすごい泣き虫だったのに」
「あいつ、かなりもててたぜ?」
「ふーん。でも、蓮の方がかっこいいもん」
「そりゃどうも」
 あまりうれしくないらしい。
「なんで喜ばないのよ、褒めてるのに」
「比べられたから」
「すねてるんだ。かわいー」
 蓮の反応に奈津美は笑った。
「でもあれ、かっこいいの? あ……」
 奈津美はふと、通行人の反応を思い出した。
「それで見られてたのかー」
「?」
「ほら、蓮と歩いてるとよく振り返られたりするじゃない?」
 奈津美は最初、びっくりしたけどだいぶ慣れてきた。蓮と一緒に歩くとよく振り返られる。葵の顔が売れてきたのもあるが、それがなくても美人なのだ。
 月とすっぽんと言ったら、蓮に怒られた。もちろん、蓮が月で奈津美がすっぽんだ。
「今日、カフェのオープンテラスで並んでお茶を飲んでたら、やたらに通行人がこちらを見るから、悩んじゃった。ああ、世間ではともくんはかっこいい部類に入るのか」
 奈津美のずれっぷりに蓮は少し頭が痛かった。
「変な格好してるのかって、心配して損した」
「………………」
 蓮は頭を抱えた。
「お風呂入ってくる」
 奈津美はソファから立ち上がった。
「タバコくさくて気持ちが悪い」
「ご飯、もうちょっとだから、入ってきて」
 奈津美がお風呂から上がるタイミングを見計らって、蓮はテーブルに料理を並べた。
 ご飯の時、奈津美は妙ににこにこして蓮の顔を見ている。
「なんかついてる?」
「ん? 美人だなって」
「……その美人っての、やめてくれない? オレ、男だし」
「えー、なんで? 美人だもん」
 奈津美の言葉に蓮は苦笑する。他の人に言われたら激怒していたに違いないが、奈津美にそう言われても怒る気にもならない。
「奈津美の方がかわいいよ」
「やだー。なんにも出てこないよー」
 蓮はそんな話をしながら、なんとなく嫌な予感を感じていた。


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